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②パネルディスカッション    [1]シンポジウム「阪神・淡路大震災10年目の検証」の概要 田中 厚(大阪・弁護士))

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阪神・淡路大震災10年目の検証
② パネルディスカッション
[1]シンポジウム「阪神・淡路大震災10年目の検証」の概要
弁護士 田中 厚(大阪)

1 はじめに
大会当日のシンポジウムの司会とパネルディスカッションのコーディネーターをさせていただきましたので、その概要をご報告させていただきます。各報告者、パネリストの発言内容の詳細に付きましては、各発言要旨をご参照下さい。

2 シンポの趣旨
冒頭に、私の方から以下のようにシンポジウムの趣旨をご説明しました。
「平成17年1月で阪神淡路大震災後10年を経過する。この震災では犠牲者は6433名、その多くは建物倒壊による圧死といわれている。全壊した家屋 も10万軒以上という甚大な被害が発生した。その原因については建設省住宅局住宅生産課監修・犬塚浩弁護士著の『Q&A住宅品質確保促進法解説』では『阪 神淡路大震災の教訓』として以下のように述べられている。『多数の住宅の倒壊及びそれに匹敵する破損が多発したことは周知のことですが、調査の結果、地震 そのものによる影響というよりも、むしろ住宅そのものが欠陥住宅であったことが原因による被害が報告されています』。
私事で恐縮であるが、私の担当の事務職員もこのとき被災し住宅が倒壊した際に脱出できずに結局亡くなってしまった。われわれはそういう悲惨な被害を受 けている。この10年間で震災からどのような教訓が汲み取られたのか、欠陥住宅被害の予防・救済システムは改善されたのか、まだまだ不十分な点はないの か、立法・司法・行政の各分野における状況について、このシンポジウムにおいて検証したい」。

3 萩尾利雄建築士の報告
神戸ネットの萩尾建築士から、実体験を踏まえた阪神大震災の教訓を語っていただきました。その要旨は以下のとおりです。
ずっと神戸で生まれ、育った。家も事務所も震災の被害にあい、余り思い出したくない。神戸ネット、行政と協力して活動してきた。大震災直後、境界、擁壁など、宅地に関する相談が多かった。借家の権利に関する相談、滅失鑑定も多かった。
震災後3年から6年して、建物が揺れる、粗製濫造の建築による内外装仕上げ問題、が多くなった。工務店の倒産の相談、構造躯体に関する相談も増えた。
現在は、震災以降に建てられた建物に関するものがほとんどである。耐震スリット、火災の後の土壌汚染の問題の相談もある。
震災後の補修工事に瑕疵があるのではないかということが、マンションを中心に問題となってきている。住宅を担保に再融資を受ける際、建築確認すら取れていなかったことなど杜撰な建築が明らかになり再融資を受けられない事態になっているケースもある。
震災後にできた住宅品質確保促進法の成果はあまり感じない。
震災直後に建設ラッシュでできた建物の欠陥が顕在化してきている。マンションの問題が多い。3大要因は、クラック、外装材、断熱材。  建築士の監理の問題については、まじめに監理している建築士からは、「どこまでやればいいのか」「自分の首しめかねない」との意見もある。
神戸ネットは、市長の諮問機関である住まい審議会に参加している。神戸市の「すまいるネット」で対処できなかったものが神戸ネットに来ている。
欠陥の原因の一つは、大手の工務店の現場管理者の中堅者が育っていないこと。30~40代が特に不足している。コンクリートを打ち終わった様子は誰も検査していない。躯体の欠陥は補修が大変である。
震災後10年間の4つの反省は次のとおりである。
① 急ぎすぎた解体と再建。壊さなくていい建物を壊し、粗製濫造を招いた。
② 建築士が地元に密着できていなかった。
③ 応急危険度判定の基準が不明確であった。
④ 欠陥住宅相談を業務と考え建築士事務所の経営が可能な報酬が得られるような環境を作ることが今後の課題。

4 その他の報告者、パネリストの報告
その後、岩城穣弁護士が、震災で明らかになった欠陥住宅被害の実態を明らかにするものとして 、震災が原因で倒壊した建物の欠陥が争われた訴訟の報告をしました。
神崎哲弁護士が、震災後の立法動向、及びこの間の10年の主な出来事、行政、司法、立法、日弁連土地住宅部会、欠陥住宅ネットの動きについてまとめた横断的な表をもとに説明をしました。
立命館大学大学院法務研究科の松本克美教授に、欠陥住宅被害の司法救済の場での到達点と課題について、パワーポイントを用いたビジュアルなご報告をいただきました。
建築行政の現場での状況について、堺市指導監察課の石黒一郎氏と千代田区まちづくり推進部建築指導課の調査主査加藤哲夫氏に、ご報告いただきました。
各報告内容については、上記各氏の報告書(発言要旨)をご覧下さい。

5 パネルディスカッション・質疑
概略以下のようなパネルディスカッションがなされました。当日なされた会場を巻き込んでの熱気ある議論の雰囲気をお伝えするために敢えて台詞形式でご報告します。

(1) 大震災の教訓について
◆萩尾
反省したのは震災直後の対応のまずさ。未経験もあったが相当混乱していたのは事実。危険度判定の依頼に追われる。如何に我々建築士の存在が地元に知ら れていなかったかということを痛感した。補修で大丈夫ですよ、と言って来た建物が、数ヶ月後にはなくなっていたということが何度もあった。大手メーカーの 「解体・新築」の方針に負けてしまった感がある。コミュニティーアーキテクトの必要性を感じた。
◆田中
阪神大震災は、欠陥住宅が多く、その結果あんなに多く倒壊したのではないか。
◆萩尾
新築1年くらいの3階建ての鉄骨のマンションが足下から折れていた。鉄骨の溶接の不具合が原因。しかし欠陥住宅もあったが、それよりも下駄履き住宅など不用意な増改築が多かったのではないか。
阪神大震災後の建て替えトラブルが今問題になっている。粗製濫造。今神戸のケースを1つやっている。

(2) 行政の状況と今後の課題
◆田中
震災後、いろいろな制度が立法によって導入され行政の場で実現されてきた。中間検査制度の導入、検査確認業務の民間開放、それらによる完了検査率の向上などであるが、これらによって欠陥住宅予防に十分な制度となってきたか。
◆石黒
前進はしたが不十分。中間検査の導入で、工程の中で第三者の目が入るという点は前進。従前、公庫仕様書住宅か否かで大きく違っていた。「なんで公庫で ないのにそこまで厳しく言うんだ」と。ただ中間検査の実態にはいろいろある。堺市ではいわば現場監督的な指導までしていた。施工現場に棟梁的な者がおら ず、図面l枚で仕事しており、技術レベルも低かったので。
◆田中
民間確認検査機関はどうか。
◆石黒
率直には分からないが、他都市では大きなショッピングセンターすら2~3人で1日で検査終了しているとのこと。施工側に検査に対する緊張感が薄れてい る。民間は営利でやるので、件数を上げないと儲けにつながらない。あまり厳しいことを言うと次から仕事が取れない。各地で民間が行った確認が取り消されて いる例が出てきている。
◆田中
完了検査率は上がっているが形骸化しているおそれがある、行政による民間確認検査機関の監督も不十分ということ。一方で立法の分野での課題は。

(3) 立法の分野での課題
◆神崎
施工業者が悪いのはもちろんだが、食い止めるには、建築士による監理の実効性を確保する必要があるのではないか。監理建築士の独立性がないのが問題で はなかろうか。監理をする建築士の資格を限定して特別なものに定める立法的手当を検討中である。商法の大会社の会計検査人制度のような監理制度を整備する ことはできないか。これとは別に、完了検査済証を、金融機関が住宅ローンを融資する際に必要とさせるとか、登記の必要書類にするなどのことも考えられる。
◆田中
検討中という「独立監理建築士」についてどう考えるか。
◆岩城
日弁連の土地住宅部会で検討している。来年の秋の日弁連人権大会の欠陥住宅に関するシンポジウムで建築士の在り方も題材にもってきたい。この大会でお諮りしたいと思っていた。
◆平野憲司(建築士:会場発言)
このような制度の導入には慎重な検討必要。何を監理するのか、費用も含めて、生産過程も含めて検討してほしい。
◆萩尾
真面目に設計・監理をしている建築士が被告になっている。工務店が倒産して責任追及の先が他にないため。極論すれば我々は監理の仕事から撤退しようか、という意見もある。制度と職能の違い、監理のありかたを考えていきたい。
◆田中
建築士による工事監理の重要性については異論がないと思われる。どこまでの範囲を監理すべきかという問題。
◆吉良星子(欠陥住宅被害者:会場発言)
私たちは高額な住宅は建てられない。1枚の絵しか描いていないのに50万円を請求する建築士がいる。理想の高い話の前に、最低限、根本的な建築士の意識改革を是非お願いしたい。
◆岩城
私が言ったのは、監理の主体の問題。範囲の問題ではない。そういう人に監理をさせるのかということ。1枚の絵の人には資格を与えないということ。
◆石黒
建築士に関しては、法の建て前と実際の本音が違っている。独立した建築士による監理は行われていない。ゼネコンは、設計・施工一貫して行うのが日本の 強さと言い張った。現在の制度でも建築事務所の開設者は資格がいらない。しかし欠陥住宅をなくすためには建築士の独立は必要。
◆神崎
我々の目指すものは、施工と監理の分離。これがなければ、チェックする者がいないではないか。設計・施工がハウスメーカーとしても、監理だけは別の者にさせましょう。
◆萩尾
住宅インスぺクター神戸ネットでは、ハウスメーカーが行っている設計施工に対して監理だけの依頼を受けることが増えてきている。現場に6回から15回くらい行って30万円から50万円くらいの費用で行っている。
◆吉岡(幹事長:会場発言)
独立監理建築士、正確には一つの意見として出ているという感じ。今ある監理制度とどう違うのかを明確にしないと分かりにくいのではないか。神崎弁護士の話だと法改正か?今の制度を前提とすればどこが違うのか。
◆神崎
土地住宅部会の話というより、私たちの意見として聞いていただきたい。独立の要件化は必要。我々の議論のスタートは事務所開設者に資格を要求するなど の建築士法の改正であったことはそのとおり。しかし、それが抜本的にならないとして新制度提案したのは、1つは建築士があまりに増えすぎた。正確な人数す ら分からない。独立して設計・監理をしている建築士も代願・監理放棄をやっている建築士も同じ資格で外からは区別がつかない。それであれば新制度しかな い。
◆平野憲司(建築士:会場発言)
いまひとつ不十分ではないか。組織的に独立した建築事務所に監理をさせたとしても、実質的にハウスメーカーのお抱えのところが出てくるのではないか。
◆田中
松本教授、法研究者の立場から、どのような制度設計をしたらよいと思われますか。
◆松本教授
難しいですね。ただ、先に報告した名義貸最高裁判決でも示されたように、建築士法では、建築物の安全を確保するために資格を有する建築士に監理を求め ている。これは押さえる必要がある。これまで、建築士がどういう監理をしたら責任追及されるのか、適正な監理は何か、が議論されてこなかった。欠陥住宅が 出来たときに、結果から考えて、いつも監理の責任が生じるのかについても議論が必要。また、立法の面からのみでなく、市場原理を働かせて欠陥住宅を防ぐこ とも考える必要がある。欠陥住宅を造った業者名を公表するなどの制裁も考えられる。
◆田中
立法による制度の改善と司法の場での責任の明確化の両面が必要なのではないか。この制度については、引き続き議論していけばいいのではないか。
時間切れで議論できなかったが、工事監理者の届出の法的義務化や、民間確認検査機関の情報公開の問題、リフォームの法的規制なども今後の課題。
◆石黒
大阪府内は、条例で工事監理届出を義務づけている。堺市も建築確認申請時点で届出を義務化している。法改正はなかなか進まないので条例の積み重ねが大事。

(4) 会場からの質疑・意見
◆JIA金沢支部所属建築士
独立監理建築士制度が必要というが、JIAでは既に登録建築家制度を発足させている。監理能力、プロデュース能力のある欧米でいうアーキテクト(建築家)。今現在千数百名いる。これに登録していないと建築家を名乗れない。
◆吉岡
登録建築家制度などと、神崎弁護士らがいう独立建築士との関係はどうなのか。個人的意見だが、全国ネット推薦の監理建築士をHPに載せるなど方法はどうか。その他、行政の罰則強化や懲罰的慰謝料などいくつかの方策でよい家をつくっていけないか。
◆田中
登録建築家制度や推薦監理建築士は任意の制度。法的な制度としないと勝手に建築家を名乗る建築士や不適格な建築士による監理を取り締まることはできない。
◆神崎
独立監理建築士は、確かに登録建築家制度と重なるが、法的な裏付けを与えるような感じ。いろいろな試みとしての1つとして提言している。
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