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◎「マンションごと建て替え事件」の概要 幸田雅弘(福岡・弁護士)

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「マンションごと建て替え事件」の概要
エイルマンション建て替え事件弁護団 弁護士 幸田雅弘(福岡)

1 建て替え裁判のはじま
福岡県糟屋郡篠栗町の分譲マンション「エイルビィラ門松駅前イーストサイド」の住民は、平成16年6月18日、マンションを販売した作州商事株式会社、 建築をした香椎建設株式会社、設計をしたニューアート建築設計事務所の3者を相手に、マンションの建て替え費用など10億8000万円余りの損害賠償を求 める訴訟を起こしました。

2 マンション販売後の経過
本件マンションは、鉄筋コンクリート造り11階建て(1階はエントランスと駐車場・自転車置き場)で、平成11年春に作州商事が販売しました。入居直後 から雨漏りや外壁のひび割れが発生し、たびたび補修工事が行われました。販売から1年後の平成12年8~9月に床の水平調査を行ったところ、いずれも居室 の中央部が凹み、ひどい部屋では居室の中央が玄関部分より19も沈下し、床が傾斜していることが判明しました。販売から2年後の平成13年4月、13戸 について床の傾斜が進行しているかどうか調査したところ、3分の2以上の部屋で床の傾斜が進行していました。販売会社と建設会社は外壁の補修工事を行なう とともに、平成13年10月には、50戸すべての居室(集会所を含む)のコンクリート床・梁のひび割れを補修し、仕上げをやり直す工事を行うことを約束し ました。ところが、50戸のうち8戸の補修工事が終わった時点で、販売会社と建設会社が「たわみは設計ミスだ」「いや、施工ミスだ」と仲違い。補修工事は 途中でストップしてしまいました。実はこれがマンションの構造計算のミスを見つけるきっかけになりました。

3 構造計算の手抜き
平成13年10月に床のたわみがひどい部屋を調査したところ、床レベルで中央が47も沈下し、沈下はどんどん進行していることが分かりました。管理組 合では「異変」に気が付き、構造計算の1級建築士に相談しました。1級建築士が点検してみたところ、元の構造計算書では、建物の荷重を計算する際に、パラ ペット・バルコニー・階段などの荷重を落としたり、仕上げ荷重を軽く見たり、消火水地下ピットの荷重を落としたりして荷重を少なくして、適正な荷重の 85%の荷重で計算していることが判明しました。そればかりか、荷重計算の結果導き出された地震用荷重をそのまま2次設計の時の地震用荷重として使用せ ず、荷重計算の結果導き出された地震用荷重から特殊荷重・補正荷重・フレーム外荷重を差し引いた数字を使っていました。簡単にいうと、構造計算書の前半と 後半が別物で、途中で二つの構造計算書がつなぎ合わされていたのです。適正な荷重計算をして、構造計算をしたところ、1次設計段階でほぼ全ての梁と柱で NGが出ました。2次設計(保有水平耐力)でも、保有水平耐力はX方向で必要保有水平耐力を満たさないし、X方向の揺れで柱にヒンジが発生する(つまり危 険な壊れた方をする)などの問題があることが分かりました。

4 裁判の内容
本件訴訟は、建て替え費用8億0793万9300円、代替住居確保費用1億2000万円、調査費用800万円、慰謝料 金4900万円(49戸分)、弁 護士費用9849万円など、合計10億8342万円の賠償を求めるもので、販売会社(作州商事)に対しては売買契約にもとづく瑕疵担保責任(瑕疵の内容は 構造安全性の欠如)、建設会社(香椎建設)に対しては不法行為責任(過失の内容は配筋の不良とコンクリート打設作業の手抜き)、設計事務所(ニューアート 建築設計事務所)に対しては不法行為責任(過失の内容は構造計算の誤り)を問うものです。

5 本件訴訟の意義
耐震設計は中高層マンションの「宣伝要素」のひとつにもなっていますが、耐震設計は「構造計算」という特殊専門的な分野であるため、一般の購入者にはそ の「よしあし」は判断ができず、設計者や建築会社の説明を鵜呑みにするしかなく、いわば「ブラックボックス」になっています。ところが、建設コスト削減の 中で、一部には、ぎりぎりまで鉄筋量を減らす「限界設計」(限界耐力計算ではありません。限外ぎりぎりまでコストを落とす設計という意味です)という危険 な構造設計が行われている。本件マンションの構造計算を行ったサムシングという構造計算会社はこうした「限界設計」を行うと評判の会社です(残念ながらす でに倒産している)。本件訴訟はこうした危険な構造計算のマンションが売られているということを明らかにし、構造計算まで疎かにして工費を切りつめようと する傾向に警鐘をならす裁判です。
なお、本件訴訟の原告は「マンション管理者」1人である。マンション法(建物区分所有に関する法律)が平成14年に改正され、管理組合の管理者(理事長 兼任が多い)が共有部分に関する瑕疵担保責任や不法行為責任に基づく損害賠償請求について訴訟遂行権限をもつことになりましたが、この訴訟担当制度を利用 した訴訟提起を行いました。勿論、訴訟提起にあたっては、管理組合で全員出席をめざす総会を重ねるなどの地道な合意形成の取り組みを行いました。管理者制 度の先駆的な取り組みをしたいと考えています。
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