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◎勝訴判決・和解の報告    [5]売買建物の地盤沈下につき、除斥期間経過・薬液注入による補修可能等の反論を排し、建替費用賠償を認めた事例(京都地裁平成16年10月4日判決) 神崎 哲(京都・建築士)

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勝訴判決・和解の報告
[5]売買建物の地盤沈下につき、除斥期間経過・薬液注入による補修可能等の反論を排し、建替費用賠償を認めた事例
京都地方裁判所平成16年12月10日判決
弁護士 神崎 哲(京都)

Ⅰ 事件の表示(通称事件名:  )
判決日 京都地方裁判所平成16年12月10日判決
事件番号 平成14年(ワ)第601号 損害賠償請求事件
裁判官 葛井久雄
代理人 湖海信成、神﨑哲
Ⅱ 事案の概要
建物概要 所在 京都市伏見区久我
構造 木造(在来軸組工法)2階建 規模 敷地123㎡、延面積132㎡
備考
入手経緯 契約 平成8年4月4日 売買契約 引渡 平成8年4月27日
代金 土地  万円、建物  万円 合計5180万円
備考 従前の自宅を2130万円で下取り
相談(不具合現象) 地盤沈下(最大63㎜沈下、基礎の中折れ) これによる傾斜(18/1000)
Ⅲ 主張と判決の結果(○:認定、×:否定、△:判断せず)
争点
(相手方の反論)
① 瑕疵担保責任の除斥期間(契約上「引渡しから2年1日」)の経過
② 修補可能性
欠陥 ① 地盤の安全性の欠如(法19Ⅱ違反)
② 基礎の構造安全性の欠如(法20違反)
③ 居住性能の欠如(床の傾斜、建具の開閉不能)
損害 合計 3125万円/(主)6827万円 (予)3713万円 (認容額/請求額)
代金 0万円/(主)5180万円
補修費用 解体再築 2447万円/      (予)2402万円
転居費用 69万円/          (予)69万円
仮住賃料 81万円/          (予)81万円
慰謝料 0万円/(主)100万円  (予)300万円
調査鑑定費 168万円/(主)100万円 (予)194万円
弁護士費用 300万円/(主)620万円 (予)400万円)
その他 59万円/(主)727万円 (予)265万円
責任主体と法律構成 売主 売主の瑕疵担保責任((主)解除 (予)損害賠償)
施工業者
建築士
その他 売主(会社)代表者:商法266の3

Ⅳ コメント
1 事案の概要
本件は、平成8年に新築建物の売買をしたところ、床の傾斜・建具の開閉不良など次々に不具合が発生し、売主(=建築業者)による小手直しが繰り返されたが、不具合が拡大してゆき、平成11年には地盤沈下によるものと売主も認めるに至った。
その後、売主が「ベタ基礎ゆえ、基礎からジャッキアップしてセメント注入すれば修補可能」と主張したため、修補方法に関する交渉が継続していた。
しかし、平成13年、建築士による調査の結果、修補不可能(なお、基礎は無筋で厚さ不足ゆえベタ基礎でなく布基礎)と判明したため、解除権行使をして訴訟提起した事案である。

2 争点(1) 瑕疵担保責任の除斥期間経過
本件売買契約では、瑕疵担保責任について引渡後2年1日という除斥期間の特約があったため、その経過により解除及び損害賠償請求はできない旨の反論がなされた。
この点については、事実経過からすれば瑕疵担保責任による解除が認められて然るべきという結論は誰しも疑い得ないものの、その法律構成が問題となる (なお、万一に備え、訴訟においては、不法行為に基づく損害賠償請求も予備的に主張していることを付言しておく)。
問題になるのは、引渡から5年間に亘って専ら「修補」に関する交渉が為されていたが、民法による売買契約における瑕疵担保責任には修補請求権が含ま れていないため、これが瑕疵担保責任の請求と認められるか、仮に請求が認められるとしても、解除の意思表示が存しないことは確かであるため、解除権につ き除斥期間経過となるのか、といった点である。

(1) 修補請求により売買の瑕疵担保責任が権利保存されるか
原告は、①損害賠償を金銭で行うことは原則にすぎず、「別段の意思表示」(民法417条)があれば金銭以外で行うこともできるところ、不具合の善処要 求に対し被告は修補により賠償を行う旨申し出ているのであり、これは損害賠償を修補によって行う旨の「別段の意思表示」と認められる、②学説上、売主の瑕 疵担保責任に基づき修補請求権も認めるのが通説であり、実際、品確法により売主の瑕疵修補義務が明定されている等を理由として、瑕疵担保責任、少なくとも その内の損害賠償請求権が保存されることを主張した。

(2) 解除権は権利保存されているか
この問題は、除斥期間内の請求による権利保存は、解除・損害賠償等の各請求権ごとに要求されるのか、瑕疵担保責任という一括りで足りるのかという問題である。
被告は、①解除は形成権であり、修補や損害賠償の請求とは異なる、②瑕疵担保責任による損害賠償と解除は成立要件が異なる(契約目的不達成の有無)から前者を請求しても後者を保存したことにならない、等と主張した。
これに対し、原告は、①解除の要件である「契約目的不達成」は、「修補が容易かつ低廉に行えないこと」「瑕疵の重大性による修補の社会通念上不能」と 解されており、解除が行えない場合は損害賠償のみ請求できると定められているから、違いは修補可能性のみである。結局、修補(損害賠償)請求も解除も瑕疵 を前提とした責任追及で、瑕疵の程度により責任範囲が拡大するだけゆえ、修補(損害賠償)請求の延長に解除が位置づけられる、②本件事実経過から見ても、 修補可能という被告の主張により修補交渉しただけで、修補不能が判明すれば解除することは当然に予定されていた、③被告が容易に修補できるという虚偽説明 によって解除を回避したことを法的に評価(合理的意思解釈)すれば、修補不可能が確定するまで解除を留保する旨の黙示の合意があった、等と主張した。

(3) 本判決の判断
判決は、解除が除斥期間後であることは明白としつつも、当事者間に期間経過後も合理的期間において瑕疵担保責任に基づく権利行使に応じる旨の合意があったとしたうえ、本件は合理的期間内に解除権行使があったと認定し、瑕疵担保責任の行使を認めた。
結果オーライとはいえ、およそ論理的とは言い難い。すなわち、判例理論は、裁判外による瑕疵担保責任保存を認め、その後は除斥期間の問題は生ぜず、専 ら消滅時効の問題とするところからすれば、本件判決は、①これだけの事実関係がありながら除斥期間内の権利行使を認めなかった点で不当であるばかりか、② 「合理的期間」などという曖昧な問題を更に発生させるのである。手前みそではあるが、当方の主張の方がよほど論理的だと思われるが、いかがであろうか。

3 争点(2) 解除の可否
被告は、補修可能と主張し、①訴訟前にはジャッキアップ工法(訴訟でもベタ基礎と強弁)、②ベタ基礎が否定されるや、薬液注入工法を主張し、③被告側専門家意見が尋問で完全に崩れるや、今度はCCP工法+ジャッキアップ工法と次々に主張を変えていった。
これに対し、原告は、確実に欠陥を除去するためには、解体・再築しかないが、それは「容易かつ低廉」ではないから解除が認められる旨主張した。
本判決は、解体再築以外の修補可能性を否定しつつも、「本件建物を撤去すると、比較的廉価で地盤を改良でき…る。したがって、原告は…解除を主張する が、…付近の環境や近所住民との交流もあり、…解除せず、…安全で堅固な建物を新築すれば解決できる」として解除を否定した。  裁判所独特のバランス感覚なのかも知れないが、法の適用としては、完全に破綻しているものと言わねばならない。建物を解体・再築しなければならず、土地 も地盤改良しなければならないというような重大な欠陥のある建売住宅を売っておいて、「契約目的不達成」と認められなければ、一体、どのような場面で解除 が認められるのであろうか。

4 その他の争点
(1) 慰謝料について、本判決は「財産の損害賠償において、財産の損害を回復できれば、慰謝料を更に認めるまでもない。…原告は、被告らの費用で自宅を新たに再 建できたら、夢の実現ができる。したがって、原告は、自宅再建費用を認容されれば、慰謝料を認めるには及ばない」として、否定した。
18/1000にも及ぶ床の傾斜等を生じ、家族が体調を崩すところに至っているのに、信じられない判断であった。

(2) 被告からは居住利益控除および耐用年数延長分控除が主張され、原告も、これに対し徹底した反論を加えたが、判決においては、特に判断は示されていない(もちろん、控除されていない)。

5 主張・立証上の工夫
(1) かなり徹底した主張・立証活動が展開された訴訟であった。
(2) 特に立証では、第1に、藤津建築士との打合せを綿密に行い、相手方建築士の意見に対し逐一反論意見書を出した。証人尋問でも、相手方建築士が崩れたのと好対照であった。
第2に、専門家意見書と文献による立証に加えて、本件において特筆すべき点として、高校教諭(理科)である原告本人が、徹底した実証的な証拠の収集を されたことが非常に大きかったと思われる。被告が主張する修補方法(薬液注入)について、各種の専門家(例えば、薬液注入協会など)に問い合わせをして回 答を得たり、修補工事の実施例とされた家に修補結果を問い合わせたりなど、極めて効果的な証拠が集められ、その結果、相手方の専門家証人(建築士)の反対 尋問でも強力な弾劾証拠になった。
第3に、損害額の立証も、微細な点に至るまで徹底的に行ったことが有効だった。慰謝料を除く損害額はかなりの範囲で主張どおり認められたと思われる。

6 所 感
(1) 理論的には破綻しているが、結果オーライの勝訴判決と言えようか。
その意味では、結論について心証を固めさせることさえできれば理屈は何とでもなる、という典型的な裁判例ではないかと思われる。
(2) 欠陥が明白かつ深刻であるうえ、被告の悪性が非常に強く、訴訟でも、明白な布基礎をベタ基礎と強弁したり、修補方法の主張を二転三転させたり、原告をク レーマーの如く中傷したりなど信義に悖る応訴態度であったため、裁判所も、結論においては迷わなかったものと思われる。
判決後、遅延損害金(約440万円のうち56%相当の約250万円)を加えた3375万円を全額回収し、現在、建替工事中である(本原稿作成日は棟上げである)。
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