勝訴判決・和解の報告 [6]「建築事務所協会」名義の被告側鑑定意見書が出た和解事例 (大津地方裁判所平成16年12月24日和解) |
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弁護士 小原健司(京都) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
Ⅳ コメント 1 被告反論内容 (1) 平成13年10月11日提訴。後に被告Iらも原告I氏夫妻らの未払(支払留保)代金600万円に対し提訴・併合となった。 (2) 被告らはその後、次のように争ってきたので、一々は省略するが、それぞれ、粛々・毅然と反論した。 ① 梁のめりこみ発生・柱・小屋裏の瑕疵は一応認めるに至ったが、金物使用等で補修可能だと主張した。 具体的には、反論の建築士私的鑑定意見書にて、小梁を受ける鉄骨梁を室内に設ける補修案を提案した(ただし、空間が変わる・つぎはぎだらけの補修提案に過ぎなかった)。 また、使用上支障ある程度ではない(と強弁)・多額費用が必要で契約額減額解決が妥当(これも根拠無し)・さらにバルコニーも勾配だけを直せばいいとも主張した(これも対症療法にすぎぬ提案だった)。 ② 基礎は仕様書どおり施工した・破損していない・その他基準は満たしていると主張した(結局否定された)。 ③ 損害額・損害論に関し、民法635条但書(完成後解除制限文言)を根拠に建替費用賠償額制限主張。 2 審理経過 (1) 被告代理人・被告側建築士を現場見分させた(必要ないと言ったが裁判所が促したのであえて逆らわず)。すると後出のように内容・測定方法に問題がある上に作成名義が大問題の私的反論鑑定意見書が出てきた。 (2) 裁判所に「瑕疵一覧表」を作成されたいと言われ、その提出・被告意見・再訂正を何回か反復するやりとりをした。 (3) そのうち、基礎の破損=構造クラックが疑われてきたので、追加調査し、主張を追加し梁のめりこみと並ぶ2大欠陥として強調するようにした。 (4) この一覧表をめぐる争点整理や、被告側鑑定意見書に対する徹底的批判に、今から思うと時間を結構使い過ぎたかもしれない。訴訟進行の上では反省点であった。 ※ 被告側鑑定意見書は、内容面のみならず体裁面でも、ビジュアル的に工夫するとか説明をわかりやすく書くと言う点では、およそ全くやる気の感じられな いもので、いったいどういう補修内容を提案したいのかすら判読できない箇所もあり、つい求釈明を繰り返してしまった。 (5) 裁判所も、最初の担当裁判官(単独→途中から合議へ)はあまり積極的・意欲的に思えなかったが、次のような事情で変わっていった。 ① 原告本人が「ビー玉が転がる傾斜」「訴訟中も勾配が無くなり水が溜まりっぱなし状態に陥った2階バルコニー」「1階梁めりこみ箇所直下=居間ど真ん 中に聳える応急措置柱」(本記事右側写真参照)を巧妙に映したビデオを撮られたのでそれを証拠提出したところ、かなり印象として原告へ理解ある対応に変 わった。 ② 受命裁判官(左陪席)の判事補が弁論準備・進行協議を仕切るようになってから以後、特に同判事補が後記裁判所鑑定人の現地見分に自ら立ち会い、傾斜や応急補修箇所を実際に見学された以降は、やる気を見せてくれるようになった。 ③ 相手方鑑定意見書批判については、担当建築士の川端眞先生・石黒恵之先生から、懇切丁寧な補充意見書を作成いただき、裁判官の理解もそれにより高まったと思われる。 (6) 最終的に、裁判所鑑定を入れることに反対しきれず、この鑑定関係で余計に時間を要したが、幸いにも①構造系の建築士さんに鑑定・現地見分をいただき、②基 礎についても追加調査(一部破壊検査)を頂いた結果、③補修可能とは判断したものの、概ね当方主張に沿った「高額の基礎・梁掛け替え補修必要」「損害額 1100万円以上」という内容の意見を提出してくれた。 (7) そして裁判所鑑定に基づいた和解協議中に、被告iが資力難であるという情報が入ったこと、間取りを犠牲にすれば何とか事実上補修する方法が考えられたことなどから、前記のように即刻一時金(銀行保証小切手)での和解にこぎ着けることを選択した。 なお、原告はその後、当初の間取り空間は断念した上で、加重箇所に柱を新設する形での補修工事を先日無事終えられた。 3 主張・立証上の工夫 (1) 欠陥主張は、完全に当方私的鑑定意見書に則り展開し、相手方代理人も間もなく元の欠陥自体はほぼ白旗状態になり争ってこなかった。しかし補修の方法・可否については前記のとおり争いが残った。 (2) 相手方鑑定意見書批判や、途中から追加的に強調しだした基礎欠陥については、前述のとおり当方建築士の川端先生&石黒先生からその都度、詳細な補充意見書 を作成してもらった。 その内容は、①被告提案補修案に対する一問一答式での問題点あぶり出しや、②図面・写真をいかにわかりやすく見せて解説するかに気を配られたビジュアル面 (上記写真は一例)など、欠陥に対する指摘のみならずその表現方法・体裁の面でも、本当に強く賞賛したい。本職としては「鑑定書を分かりやすく理解しやす くする工夫の比較競争勉強会」などの行事を企画したいとの思いにも駆られた。 4 所 感(とくに被告鑑定意見書について) (1) 既に京都・全国のメーリングリストや、京都や神戸や全国ネット(鹿児島)大会でも報告したとおり、今回の被告側指摘鑑定意見書は、内容も杜撰だった上に、作成者にも問題があった。 (2) すなわち、作成のy建築士は、某府県の建築事務所協会から推薦紹介されたらしく、同協会の役員であった。しかるにその意見書内容は非常に杜撰であったし (そもそも現場での測定に際しても、下げ振りではなく、外構用にしか用いない・精度の粗い水泡式の水平器をしかも頓珍漢な方向に当てて使っていたという状 態であった)、のみならず提出された時点の作成名義が、事務所協会名義だった。 ⇒ この点を本職らは大問題にし、準備書面上の批判、作成名義人は誰か(協会か建築士個人なのか)という点の求釈明、そして事務所協会宛の弁護士法第 23条の2照会まで敢行し、「yによる無断の協会名義冒用だ」と協会に回答させ、被告側にも「当該建築士個人・y名義に過ぎない」旨認めさせた。 (3) ところが、後日、協会のホームページを見ると、このy建築士が現在、筆頭格副会長に昇格していることが判明し、唖然としか言いようがなかった。 (弁護士照会までされ、協会にとっても無断名義冒用問題がとっくに既知の問題だったのにである。事務所協会は本当に何を考えているのか、呆れてしまった) |
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