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◎勝訴判決・和解の報告   [1]擁壁の瑕疵を理由とする契約解除を求め、請求金額全額を認容した事例 津久井進(兵庫・弁護士)

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擁壁の瑕疵を理由とする契約解除を認め、
請求金額全額を認容した事例
(神戸地方裁判所尼崎支部平成16年3月23日判決)
津久井 進(兵庫・弁護士)

Ⅰ 事件の表示
判決日 神戸地方裁判所尼崎支部平成16年3月23日判決
事件番号 平成13年(ワ)第976号 売買代金返還等請求事件
裁判官 安達嗣雄
代理人 永井光弘、津久井進
Ⅱ 事案の概要
建物概要 所在 兵庫県西宮市甲陽園目神山
構造 木造従来工法2階建 規模 敷地約400㎡、建物面積約150㎡
備考 本件敷地を構成する擁壁は昭和37年以降に造成されたものである
入手経緯 契約 平成12年12月29日 売買契約 引渡 平成13年2月15日
代金 建物及び土地合計3670万円
備考 ①平成12年12月20日にA→Bに売買、②上記日時にB→原告へ転売された
相談(不具合現象)
Ⅲ 主張と判決の結果(○:認定、×:否定、△:判断せず)
争点
(相手方の反論も)
① 真の売主はAかBか(Aについては×、Bについては○)
② 本件擁壁の瑕疵(○:瑕疵あり)
③ 瑕疵担保責任免除特約があるといえるか(○:面積は認めない)
④ 補修不能な瑕疵であっても瑕疵担保解除が認められるか(○:解除可)
⑤ 損害額(○:全額認定)
⑥ A、Bの共同不法行為の成否(△:選択的請求に過ぎないとして判断せず)
欠陥 ①裏込めコンクリートがない空積みであること→○
②擁壁の傾斜が77度もあること(規制上は65度)→○
③多数の重要な亀裂が生じていること→○
④敷地内に自然陥没が生じていること→○
⑤不同沈下が生じていること→○
(抗弁)
⑥既存不適格に過ぎず適法であること→×
損害 合計 4122万5377円/4122万5377円 (認容額/請求額) 全額認容
代金 3670万円/3670万円 原状回復としての売買代金返還義務
※目的物返還の引換給付について判断せず
補修費用 /     共同不法行為の損害として約3122万円を請求するも判断はなされず
転居費用 16万4300円/16万4300円
仮住賃料 /     共同不法行為の損害として450万円を請求するも判断はなされず
慰謝料 /     共同不法行為の損害として500万円を請求するも判断はなされず
調査鑑定費 90/90
弁護士費用 /     共同不法行為の損害として約300万円を請求するも判断はなされず
その他 345万6077円/345万6077円 登記費用、税金、仲介手数料、火災保険料など売買契約に伴う実費
責任主体と法律構成 売主 主位的にもと所有者Aを、予備的にその譲受人Bを売主として、瑕疵担保責任に基づく原状回復及び損害賠償を求め、Bを売主として認定して、責任を肯定
施工業者
建築士
その他 仲介業者に対する共同不法行為責任を追及したが判断はなされず

Ⅳ コメント
1 事件の概要
原告甲は、被告Aがもと所有する土地付建物を、Aから買い受けた被告Bより転売を受けた(売買は、A→B→甲と行われた)。甲は引き渡しを受けた直後に 建物の傾きに気付き、調査をしたところ、本件敷地を支える擁壁に亀裂が生じており、さらに、擁壁自体が裏込めの無いいわゆる「空積み」の擁壁であることが 判明した。
原告甲は、①本件擁壁に瑕疵があるとして、実質的売主であるAに対し(予備的に形式的売主であるBに対し)、瑕疵担保責任を理由に売買契約の解除によ り、売買代金3670万円と解除にともなう損害約450万円(合計約4120万円)の請求をした。②また、選択的な請求として、本件瑕疵を知りながら売却 を図ったことが共同不法行為を構成するとして、A、B、及び仲介業者被告Cに対し、損害賠償金4130万円を請求した。

2 訴訟の主たる争点と判断
本件訴訟は、①本件擁壁に瑕疵があるか否か、②売主はAであるかBであるか、③共同不法行為は成立するか否か、というところが主たる争点であった。
本件擁壁の瑕疵の内容は、①擁壁が空積みであること、②重大な亀裂が生じていること、③現在の宅造法基準に違反する形状(角度不足等)であること、④盛 土自体が非常に脆弱で不同沈下が生じ自然陥没が次々に現れていること、などであった。この点については神戸ネットの柏本保・池田常雄両建築士らによる鑑定 書・証言が採用され、甲の主張が全面的に認められた。
売主が誰であるかという争点については、実質的当事者Aであるという当方の主張が退けられ、無資力のBであると認定された。
共同不法行為の主張については、この請求自体が選択的併合請求であるから判断する必要がないとして、判決がなされなかった。

3 その他の争点と判断
そのほか、④外見上亀裂の存在が明らかである擁壁が「隠れたる」瑕疵といえるかどうか(→安全性の有無は見ただけでは分からないとして肯定)、⑤契約上 の瑕疵担保免除特約は有効か否か(→形式的文言があったとしても実質的合意があったとは言えないとして否定)、⑥補修可能であるのに解除要件である「目的 達成不能」と言えるのか(→補修額が経済的合理性を欠くので解除可能)といった論点もあったが、全て甲の主張が認められた。

4 その後の経過
甲としては、瑕疵の主張は全面的に認められたものの、実質的売主Aに対する請求が棄却され、共同不法行為についての判断が回避されたので、これを不当として控訴をした。
控訴審では、選択的併合がなされているにもかかわらず共同不法行為に関する判断をしなかったのは違法であるとして、破棄・差戻しの判決をなした(大阪高等裁判所平成16年10月6日判決、民事事件で破棄差戻は比較的めずらしい。)。
今後は、再び地裁において、被告らに対する共同不法行為責任の当否について審理が進められることになる。
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