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勝訴判決の報告   (6) OMソーラーの家に建替えを命じる(大分地裁平成14年3月27日判決) 河野 聡(大分・弁護士)

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河野 聡(大分・弁護士)

1 事案
原告夫婦は、 自己所有地上にOMソーラーの家を建築したいと考え、 山口設計室と設計監理契約をし、 設計完成後に吉野工業と請負契約を締結した。 原告夫婦は隣接家屋に居住しており、 記念にと多数の写真・ビデオを残していたが、 建築途中から設計図面との違いに気付き、 山口との間で多数の質疑書を残している。 引渡後、 OMソーラーの音の大きさと建物の振動が激しいことから疑問を抱き、 建物内外に亀裂が生じたことから残代金の支払を拒絶し、 建物には居住しないまま抗争することを決意した。
吉野工業が請負残代金・追加工事費用計8,134,000円の支払いを求めて提訴した後、 弁護士に委任し、 池本智汎一級建築士に私的鑑定を依頼し、 構造全般に多数の欠陥があるので建替が必要との意見書が作成され、 瑕疵担保責任と債務不履行責任を根拠に合計金36,024,080円を請求した。

2 訴訟の経過
原告側は池本建築士と原告本人の尋問、 被告側は吉野代表者と山口代表者の尋問をした後、 被告らの申請により、 原告は必要ないと主張したが、 裁判所選任の鑑定人による鑑定が行われることになった。 中村亨一鑑定人が選任され、 一部破壊検査のうえ、 鑑定書が提出されたが、 建物全体に瑕疵があることを指摘し、 「構造的な問題をすべて調査し構造補強を行った場合においても、 建替えを必要としないと鑑定を述べる事は大変困難である。」 と結論付けた。
その後、 中村鑑定人に対して書面による尋問が行われ、 鑑定人の回答が提出されたが、 鑑定の結論の大筋は変わらなかった。

3 判決 (脇由紀裁判官)
(1) 基礎・筋交いの瑕疵、 構造耐力上必要な軸組の不足、 屋根面の剛性不足、 隅柱が通し柱となっておらず切り欠きもあること、 柱と梁の緊結の不備、 断熱工事の不備などの瑕疵を認定し、 「上記のとおり、 本件建物には、 認定しただけでも、 構造耐力上主要な部分に瑕疵があり、 木造建築物が通常備えるべき安全性を有していないことが認められる。 そして、 その瑕疵は、 構造耐力上の主要部分全般にわたっており、 補修のためには、 基礎の改修のために本件建物を持ち上げ、 屋根面・2階床面を補強し、 通し柱・壁面筋交いを取り替えるためには、 屋根・外壁を撤去し、 内壁・床の殆どを取り外さなければならず、 結局、 全てを壊して建て替えることに等しく、 工期・費用の点からも全部の取り壊しが相当であるというべきである」 として建て替えの必要性を認めた。 他方慰謝料は全く認めず、 調査費用も300,000円だけを認定し、 結局24,861,480円の損害賠償を命じた。    
(2) 法的判断として参考になるのは以下の通り。
① 公庫融資を受けていなくても、 設計図書特記仕様書に 「図面、 特記仕様書に記載のない事項は、 公庫仕様書による」 旨の記載があること、 建築基準法令には木造住宅についての細部にわたる規定はなく、 これを具体化・細分化したものが公庫仕様書であることなどの理由から、 本件請負契約において、 公庫仕様書の基準に適合した建築工事をする合意が成立していたものと認めるのが相当とした。
② 設計契約は請負であるから、 民法 637条1項で瑕疵担保責任の存続期間は1年であるとの主張に対して、 本件では設計と管理が一体となった業務委託契約であること、 契約の性質を考えても、 設計は実施設計完了時まで相談・協議が行われて確定していくものであること、 監理業務は設計の是正や建築主への報告なども含むものであことを考えると、 設計・監理は準委任の性質を持つものと認められるとし、 したがって原則としてその債務不履行に基づく損害賠償請求権も 10年間存続するのであり、 ただ請負人の責任の消滅する場合には、 同時に消滅するのが相当であるとした。

4 評価
欠陥について詳細・緻密に検討して重大な建築基準法令違反を認定し、 建て替えの判断をした明快な判断である。
しかし、 慰謝料を全く認めず、 調査費用を僅かしか認めなかった点で不満が残る。
引渡から5年、 損害賠償提訴から4年で判決が言い渡されたが、 建物に居住しない状態での裁判であり、 もっと審理・鑑定が促進されるべきであった。

現在被告の控訴を受けて原告も附帯控訴し、 福岡高裁に係属中である。  以上
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