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静岡大会パネルディスカッション 第1部 【2】耐震偽装問題と国・自治体・金融機関の責任

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立命館大学法科大学院 松本克美(京都)

1 公的支援と賠償責任
今回の耐震偽装問題の発覚に対して、国土交通省では、構造計算偽装問題対策連絡協議会を設置したが、その初期の申し合わせには、売主が契約上の責任を果たせず、建物の耐震改修の見通しが立たない場合には、住民の安全が確保されず、建築基準法に不適合な状態が長期化することになるので、既存の耐震改修に係る事業制度を活用し、支援することが検討された。そこでは、「耐震改修に係る公的支援は、建築確認事務に関する賠償の意味を持つものではない。」ことが指摘されている。

確かに国や自治体が公的支援を行ったからといって、それは賠償責任があることを直ちに意味するわけではないが、ここで注意を喚起しておきたいのは、公的支援と賠償責任の問題は、それぞれ相対的に独立した問題であるということである。第一に、公的支援は支援の必要性の観点から適切迅速に行われるべきであって、この面から言えば、賠償責任があろうがあるまいが、公的支援を行うことが重要である。第二に、しかし、公的支援を行えば賠償責任がなくなるというものではない。賠償責任は国や自治体の法的責任の有無の問題として、別途検討されるべきなのである。従って、〈公的支援を行うので、賠償責任はない〉とか〈賠償責任はないので、あるいは不明なので、公的支援は行わない〉ということにはならないことに注意を払う必要がある。

2 耐震偽装問題と売主、建築業者等の賠償責任
(1) 売主の責任
購入したマンションが耐震偽装マンションであったという場合には、買主は売主に瑕疵担保責任を追及し、契約の解除や損害賠償を請求することができる(民法570条)。但し、今回の事件の場合、売主が倒産しているというようなことがあって、実効性がない。

(2) 設計・建築関係者の責任
マンション購入者は、構造計算を偽造した建築士や、そのような偽装を見抜けず設計を行った設計事務所、その設計に基づき建築をした建築会社などに対しては、故意・過失によって他人の権利を侵害し損害を発生させた者として、それぞれ不法行為責任を追及し、損害賠償を請求できよう(民法709条)。しかし、これらの者にも賠償金を支払う資力がなければ、この権利は絵に描いた餅になってしまう。

3 国・自治体の賠償責任
(1) 民間の指定確認検査機関と自治体の責任
今回の耐震偽装問題では、建築確認をすべき指定確認検査機関が耐震偽装を見抜けずに、そのまま建築確認をしてしまったという建築確認審査上のミスが指摘されている。ところで、国家賠償法は、国または公共団体の「公権力の行使」にあたる公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によって違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、賠償責任を負うことを規定している(1条1項)。建築確認審査は、特定行政庁(管轄の地方自治体)の事務であり、また各自治体の建築主事が行うべき建築確認を民間の指定確認検査機関(イーホームズなど)に行わせる場合は、この指定確認検査機関は建築主事の確認とみなされるので(建築基準法6条の2第1項)、つまり、指定確認検査機関における建築確認上のミスは、自治体の公権力行使におけるミス(過失)とみなされるので、自治体が賠償責任を負うことになる。昨年の6月、最高裁は、以上の理由により指定確認検査機関のミスについて自治体が賠償責任を負う場合があることを認めたが(最高裁平成7・6・24判決・判例時報904号69頁)、その後、横浜市の指定した指定確認検査機関による建築確認処分のミスをめぐり損害賠償責任が追及された事案も出ている(横浜地裁平成7・11・30判決・判例地方自治277号3 頁。判決では自治体が損害賠償責任を負うことがありうることを認めたが、当該指定確認検査機関の過失を否定して賠償請求は棄却した)。

(2) 国の責任
ところで、指定確認検査機関が2つ以上の都道府県において建築確認業務を行う場合は、国土交通大臣による指定が必要となり(建築基準法6条の2Ⅱ)、また、国土交通大臣は指定確認検査機関に監督命令権限も有している。従って、耐震偽装を見逃すような確認検査機関を指定したり、適切な監督を怠ったことについての、国の賠償責任も生じる可能性もあろう。

(3) 金融機関の責任
今回の耐震偽装問題で被害者となったマンション購入者は、当初の購入代金についてのローンと、建替えや補修のための費用のためのローンの二重の負担にあえぐことになってしまう。この場合、マンション購入者は、耐震偽装のマンションであると知っていたならば、マンションの売買契約はしなかったであろうし、そうであれば購入資金のために金融機関から融資を受ける契約をすることもなかったはずである。従って、当該マンションの販売業者と金融機関の提携関係の有無やその程度などによっては、マンション購入者が錯誤(民法95条)によるマンション購入契約の無効を主張し、それを抗弁として、金融機関に対するローンの支払いを拒絶するとか(抗弁権接続の法理)、あるいは、金融機関が購入マンションの担保価値を誤って評価したために過剰な融資を受けることになってしまったとして、金融機関の担保価値評価義務違反の債務不履行を理由にローン契約の解除や損害賠償を請求するなどの法的手段も検討の余地があろう。なお近時、最高裁は、建築資金の融資に当たり、その返済計画の前提となる土地の売却計画が実現不能なものであったことについて、十分な調査・説明義務を怠った可能性があるとして、銀行の債務不履行に基づく損害賠償責任を肯定する余地を認める判決を下しており、注目される(最判平成8・6・2。最高裁ホームページに掲載。事案はこのような調査・説明義務違反の有無について更に審理を尽くせということで、原審に破棄差戻)。

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