欠陥住宅とは
欠陥住宅とは、「通常有すべき安全性を欠いた住宅」と定義することができます。 ここにいう「安全性」とは、居住者の生命・身体・健康に対する安全性であり、具体的には、構造上の安全性、耐火・防火上の安全性、健康に対する安全性などがあります。 そして、「国民の生命、健康及び財産の保護を図るための最低の基準」として定められた建築基準法やその施行令、更には日本建築学会の標準工事仕様書(JASSと称される)、住宅金融公庫の仕様書等に違反する建物は一般に安全性を欠いているということができます。宅地造成等規制法などの関連法規に違反する場合も同様です。 また、形式的にはこれらの法規に違反していなくとも、実質的にみて生命・身体・健康に対して危険・有害な建物(例えばシックハウスなど)も欠陥住宅であるといえます。
欠陥住宅問題とは
契機となった阪神大震災
1995年1月17日午前5時46分、兵庫県南部に発生した「阪神・淡路大震災」は、死者約6400人、全壊・半壊家屋約16万戸という甚大な被害をもたらしました。 警察発表では、死者の89%は倒壊家屋の下敷きになり圧死したとされています。 とりわけ木造建築物の倒壊による圧死事故が多く、その原因として、①筋かい不足や留め付けの不備、②壁の配置の偏り、③基礎部の接合不十分、④屋根重量と他の構造との不均一など、住宅の安全性に不可欠な構造上の欠陥が指摘されています(日経アーキテクチュア編「阪神大震災の教訓」63頁・83頁・147頁)。他方、相当激しい揺れがあったと推定される場所であっても、所定の工法で建築された木造3階建個人住宅でもほとんど無傷で残る事例も報告されています(同84頁)。
このことをきっかけに、欠陥住宅問題が社会問題として大きくクローズアップされました。
消費者問題としての性格
「消費者問題」は、「情報の偏在や市場環境の未整備、行政の放任などのために、契約当事者が実質的には対等平等とはいえず、その結果構造的に被害者が発生するという社会現象」と定義することができます。
これを住宅産業についてみると、
① もともと購入者・発注者である市民は建築技術や法律に関する知識にうといこところへ、特に高度成長期以降は建築技術や情報はいっそう高度化・専門化していること
② 政府・行政が良質な公共賃貸住宅を提供でなく「持ち家」政策を推進しているもとで、圧倒的な資金力と専門知識・情報を有する住宅メーカーから市井の工務店までが、華やかなCMや広告も使って激しい住宅販売合戦を展開していること
③ 他方で、建築の現場では元請-下請-孫請という多重下請=ピンハネ構造のために、一部の現場ではいきおい手抜き工事や杜撰工事によって採算を合わさざるを得ない実態となっていること
④ 本来欠陥住宅の発生を防止するための自治的制度としての「建築士による工事監理」が十分機能しておらず、行政がこれを放任していること
⑤ さらに、行政自身が欠陥住宅を防止する「建築確認-中間検査-完了検査」というチェック制度を十分に機能させず、違反建築に対するパトロールや制裁措置も不十分であること
⑥ 消費者側にも、自ら知識や情報を得て、自分の権利を自分で守るという意識・努力が乏しく、業者を全面的に「信頼」してしまう傾向があり、これについての消費者教育も十分でないこと が指摘されます。
このように考えると、昨今の欠陥住宅問題は、まぎれもなく消費者問題であるといえます。
欠陥住宅被害の特徴
欠陥住宅被害の特徴として、次のような点があげられます。
① 住宅が、日々の生活の場であること
住宅は、人間の生活の3要素である衣、食、住の中のうちでも、もっとも基本となる生活そのものの基盤であり、日々の仕事の疲れをいやし、くつろぎ、眠り、明日への活力を回復する「場」、家族と団欒し、子どもを育てる「場」、さらには自分の時間を趣味や読書などで過ごして人格を形成する「場」でもあります。このような住宅が生命・身体・健康に危険であったり有害であることは、居住する人の人生を危険にさらし、時には奪い、人格を傷つけるものであり、まさに人権侵害といえましょう。
② 一般に、被害者に落ち度が少ないこと
被害者の多くはまじめなサラリーマンや勤労市民であり、金儲けのためではなく、上記のような自分と家族の生活の場、人生を過ごす場として住宅を取得したにすぎません。他の消費者問題に比べて、一般的に落ち度が少ないことが指摘できます。
③ 購入金額が莫大であること
住宅の価格は最低数千万円以上であり、一般のサラリーマンや勤労市民にとっては人生を左右する金額です。しかも、多くは住宅ローンを組んで、今後数十年間をかけてこつこつと返済していくのです。まさに人生をかけた、人生最大の買い物であり、その住宅が欠陥住宅であった時の被害は莫大です。
④ 財産的被害だけでなく、深刻な精神的被害をもたらすこと
上記のことから、欠陥住宅は、莫大な財産的被害だけではなく、はかり知れない精神的打撃と精神的苦痛をもたらします。自己の不運を呪い、人生に絶望し、ノイローゼや胃潰瘍等の体調不調に陥り、夫婦や家族の不和や家庭の崩壊に進み、時には自殺に至ることもあります。