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②パネルディスカッション    [5]欠陥住宅訴訟の到達点と課題 松本克美(京都・立命館大学大学院法務研究科教授)

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阪神・淡路大震災10年目の検証
② パネルディスカッション
[5]欠陥住宅訴訟の到達点と課題
立命館大学大学院法務研究科教授 松本克美(京都)

1 阪神・淡路大震災後10年の欠陥住宅判例の飛躍的進展
1995年1月17日の阪神・淡路大震災は、死者6400名以上、負傷者約4万3000人、全壊・半壊家屋24万戸以上、一部損壊家屋26万戸以上と いう未曾有の災害をもたらした。同時に、倒壊した建物の相当数が欠陥住宅であったことも判明し、欠陥住宅被害の深刻さと広がりを認識させる大きな契機と なった。欠陥住宅問題は、個別の住宅の不具合に関する財産的損害であるという従来の観方から、まさに人の命にかかわる安全性の問題であり、最も広範・深刻 な消費者被害のひとつであるというパラダイムの転換が行われる契機となったのである。その後、消費者問題に取り組んできた多くの弁護士と心ある建築士との 協働のもとに、欠陥住宅被害全国連絡協議会をはじめ、欠陥住宅訴訟への理論的・実践的な組織的取り組みが行われるようになり、後述する近時の幾つかの最高 裁判決をみても、この間の日本の欠陥住宅訴訟は飛躍的に進展してきていると言えよう。

次の3つの最高裁判決が重要である。ひとつは、請負契約の瑕疵担保責任に基づき欠陥住宅の建替費用相当額の賠償請求を最高裁として初めて認容した 2002(平成14)年9月24日の判決(判時1801号77頁。以下〈A判決〉と略す)、次に、地震に強い建物を建てるために、約定で特に定められた太 さの主柱を使うべきであったのにこれを使わなかった点が請負目的物の瑕疵にあたるとして、いわゆる請負目的物の主観的瑕疵を最高裁として初めて認めた 2003(平成15)年10月10日の最高裁判決(判時1840号18頁。以下〈B判決〉と略す)、また、建築確認申請のために名義だけを貸して実際に工 事監理をしなかったいわゆる名義貸建築士の不法行為責任を最高裁として初めて認めた2003(平成15)年11月14日判決(民集57・10・2562。 以下〈C判決〉と略す)。これらは、そのような瑕疵を作り出す、或いは適正な工事監理をしないことが損害賠償責任をもたらすことを明確にすることによっ て、被害の回復にとってばかりか、被害の予防の点でも重大な意義を持つ判決と言える。また、この間、欠陥住宅被害について慰謝料を認容する判決も多く蓄積 し、慰謝料額も高額化してきていることも評価できる(神戸地判2002(平成14)・11・29・欠陥住宅判例集・第3集・296頁以下は、慰謝料900 万円を認容)。

更に、欠陥住宅紛争における注文者の報酬支払拒絶をめぐって、注文者は、瑕疵修補に代わる損害賠償を受けるまで、報酬額全額の支払いを拒絶できること (最判1997(平成9)・2・14民集51・2・337)、また、注文者が、請負人の報酬債権に対して瑕疵修補に代わる損害賠償債権を自働債権として相 殺の意思表示をした場合、注文者が報酬残債権の履行遅滞に陥るのは、相殺の遡及効によって過去にさかのぼるではなく、相殺の意思表示の日の翌日からとした 最高裁判決(最判1997(平成9)・7・15民集51・6・2582)も、注文者保護の観点から注目される。

今や欠陥住宅問題は、司法試験の論述式試験で民法の問題として出題されるほど、理論的にも、実践的にも注目されているのである(平成16年度司法試験 の論述問題では、基礎工事が不十分であったり、屋根の防水工事の手抜きのある請負契約の瑕疵と損害賠償の範囲、請負代金と瑕疵修補に代わる損害賠償請求権 の相殺、履行遅滞の時期等にかかわる問題が出題された)。

2 残された課題
以上のように判例には大きな進展があったが、なお、残された理論的課題もある。

(1) 「重大な瑕疵があるためにこれを建て替えざるを得ない場合」の具体的要件
〈A判決〉の事案は、当該建物が「建物全体の強度や安全性に著しく欠け、地震や台風などの振動や衝撃を契機として倒壊しかねない危険性を有する」事案 であったが、このような倒壊の危険性は、「重大な瑕疵があるためにこれを建て替えざるを得ない場合」として建替費用相当額の賠償請求を認めるための〈必要 条件〉なのであろうか。

(2) 〈建替費用相当額の認容+居住利益控除+慰謝料否定〉のワンセット論
〈A判決〉の原審(東京高判2002(平成14)・1・23)は、1審と同じく建替費用相当額の賠償請求を認容しつつも、一審と異なり、欠陥住宅で あっても、この間居住することにより居住利益を得ていたとして、5年間の居住利益600万円を損害額から控除するとともに、建て替えに要する財産的損害の 賠償を認めることによっても、なお回復されない精神的苦痛を被ったものとまでは認め難いとして、一審が認容した慰謝料も否定した。上告審で争われたのは、 請負人の瑕疵担保責任に基づき建替費用相当額の賠償請求が認められるか否かという点であるので、〈A判決〉の射程距離は、居住利益控除+慰謝料否定とのワ ンセット論には及ばないと解されるが、今後は、請負人側から出される主張として検討を要しよう。

(3) 請負目的物の主観的瑕疵と損害賠償の範囲
前述のように、〈B判決〉は請負目的物の主観的瑕疵に対する請負人の損害賠償責任を認めたが、そこで争われていたのは、請負人からの残報酬代金の支払 請求に対する注文者からの瑕疵修補に代わる損害賠償請求権を理由とした相殺の主張であり、その内容も〈A判決〉の事案のように瑕疵を理由にした建替費用相 当額の損害賠償請求をした事案ではない。しかし、例えば〈B判決〉の事案で問題となったような約定の太さの柱と異なった主柱が使われたような場合に、それ を約定通りの太さの柱にするためには、結局建替が必要であるという場合には、注文者は建替費用相当額の賠償請求もできるのであろうか。

(4) 名義貸建築士の行為義務
〈C判決〉は、建築士が建築確認申請書類に名義だけ貸しただけで、実際の工事監理をしなかった点をもって、「何らの適切な措置もとらずに放置し」、こ れにより、施工業者が建築基準法上の各規定による「規制を潜脱することを容易にし、規制の実効性を失わせた」点をもって、「その行為により損害を被った建 築物の購入者に対し、不法行為に基づく賠償責任を負う」とした。ここで問われているのは、建築確認申請に名義を出した建築士のとるべき行為義務であるが、 この判決がいう建築士がとるべき「適切な措置」とは具体的にはどのような行為であろうか。例えば、名義貸建築士が後で実際に工事監理をする建築士を選任す るように要請していたような場合はどうか。

(5) 名義貸建築士の責任割合
なお〈C判決〉の原審(大阪高判2000(平成12)・8・30判タ1047・221)は、名義貸建築士の責任は建物購入者が被った損害の「1割程度について相当因果関係があると認めるのが相当」としたが、このような責任割合の問題も残された課題である。

3 私見
以上の残された課題について詳細を論ずる紙幅はない。幾つかの点について私見の結論だけ要約しておこう。

(1) 主観的瑕疵と建替費用相当額の賠償請求の可否
請負契約目的物の重大な瑕疵について建替費用相当額の賠償請求を認めた〈A判決〉は、二つの論理を内包している。ひとつは、倒壊しかねない危険性を有 するような建物は、それを取り壊しても社会経済的損失は生じないので、請負契約の解除を制限した民法635条但書の趣旨に抵触しないという〈社会経済的損 失論〉である。今ひとつは、そのように建替費用相当額の賠償請求を認めても「契約の履行責任に応じた損害賠償責任を負担させるものであって、請負人にとっ て過酷であるともいえない」という〈契約の履行責任に応じた損害賠償責任論〉である。請負契約目的物に約定違反の主観的瑕疵があっても、安全性にさほど問 題がないのならば、前者の〈社会経済的損失論〉からすれば、建替費用相当額の賠償請求は認められないことになりそうだが、しかし、後者の〈契約の履行責任 に応じた損害賠償責任論〉からすれば、やはり約定通りの仕事を完成するために必要な場合は、建替費用相当額の賠償請求も認めるべきことになるのではないだ ろうか。

(2) 居住利益控除論・慰謝料否定論
欠陥住宅への居住は「不利益」なのであって、「利益」ではない。むしろ慰謝料の増額要素である。この点で、居住利益控除論・慰謝料否定論は、欠陥住宅 被害の本質把握を誤った転倒した議論である(この点につき松本克美「欠陥住宅訴訟における損害調整論・慰謝料論」立命館法学289号参照)。

(3) 名義貸建築士の行為義務
建築士が建築監理を行うことが建物の安全性の確保のために必要不可欠であり、そのために建築士には専門家としての独占的地位が与えられているのだとい うのが〈C判決〉の基本思想であり、筆者もこれを支持する。〈名義を貸しただけだから責任がない〉のではなく、その正反対に、〈名義を貸した以上は適切な 工事監理がなされるように責任を負うべし〉というのが判例の基本的立場なのだから、名義を貸したままで自分が工事監理しない場合には、他の建築士が自分の 代わりに工事監理者に就任するところまで確認する義務があるのではないか。

(4) 名義貸建築士の責任
対外的には全部責任を負い、内部的には工事施工者に求償することになろう(松本克美「欠陥住宅と建築士の責任」立命館法学271・272号920頁以下参照)。

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