[a]地獄に突き落とされる被害者
被害者 糸賀長子(関東ネット会員)
日弁連が「欠陥住宅は人権問題」として扱ってくださったので、被害者として参加しました。
私はビニール加工で生計をたてていて工場を持つのが夢でした。秋田県を信用して買った秋田杉の家、2階に娘たちが住めるように建てた工場。工場が完成 した時の嬉しさはたとえようがありませんでした。それらは営利目的の偽物秋田杉と悪業で作られた重大な欠陥でした。一瞬で天国から地獄へ突き落とされ、私 の人生はずたずたにされたのです。
阪神大震災の再現映像や鳥取大学の学生さん演じる寸劇は、私の家と共通して胸が詰まりました。秋住事件の映像ビデオも、辛く苦しい闘いで身体や神経が蝕まれ、未だに心が癒えない自分が情けなく、涙が溢れてなりませんでした。
夢のマイホームが震度4で崩壊する危険性があると建築士から告げられたときの衝撃、県の職員に震度3くらいなら2~3日はもつ。地震で倒壊しても天災 だからと、ニヤニヤしながら言われた時の憤り。ガソリンを水筒に詰め秋田県に最後の交渉をし、駄目なら県庁前で抗議の焼身自殺をすると言って、娘が泣きな がら止めたことなど。常軌を逸し狂乱の日々でした。提訴して3年7ヶ月で和解。手にした和解金では工場は直せず、2階に住む娘たちを移し、私は築21年の 中古住宅に移るのが精一杯でした。そのままの工場は地震がきたら逃げる時間がないと建築士さんから忠告されています。覚悟はしているけれど一緒に働く娘や パートの命の危険を思うと胸が張り裂けそうです。 建築確認通知書には検査済の印があっても役場は検査はしてないと明言しました。中間検査や違反建築に、工事中止命令や取り壊しの罰則のない建築基準法な んて絵に描いた餅です。融資した銀行に担保価値を保証させる法案を私は強く求めます。
[b]「市場原理」とセイフティネット
一級建築士 木津田 秀雄(兵庫)
日弁連の人権擁護大会には初めて参加させていただきました。「安全な住宅に居住すること」を改めて「人権」と再定義しないといけないことは、決して明 るい状況ではありません。阪神淡路大震災後を契機として広く「欠陥住宅」が社会に認知され、無茶な建物は地震で倒壊して人命が失われる可能性があるという ことは世間にも知られるようになりました。
大会では自由競争で何でも競わせた方が理にかなっているという国交省の課長の発言などもありましたが、競争を行うには、競争を行うにふさわしいステー ジが必要です。今のこの国には、そのようなステージは供給者側にも消費者側にも準備されていないように思います。
市場原理にある程度任せるにしても、問題が生じた場合のセイフティネットを国が整備する必要があるのではないかとの会場発言を行いましたが、正にその直後に耐震偽装事件が発覚して、その危惧は現実のものとなってしまいました。
大会の始まる前に少し時間があったので、駅の周辺を歩いて見て回りました。1952年の鳥取大火後に整備されたのでしょうか、古い都市の割に区画が整 理されており道幅が比較的広い印象を受けました。ご多分に漏れず商店街は、ちょっと寂れており少し横道にはいるとシャッターの降りている店も見受けられま した。
駅から10分ほど北に歩くと伝統的な木造住宅に混じり高層のマンションが何棟か建っています。付近に高層のビルなどがないことから、マンションだけが 目立つようにも思えました。地方都市においても分譲マンションが居住の選択肢になってきている現状をみると、分譲マンションというかなり特殊な住宅供給体 制自体の問題点が解消されない限り、造ってしまった建物は今後数十年に渡って残されて行くでしょう。
大会を通じて、欠陥住宅のハード面だけでなく、供給体制や国の住宅政策、土地政策まで視野を広げて考えて行かなければ、「安全な住宅に居住する人権」を守る事はできないのだとの認識を新たにしました。
[c]長かった道のりに感無量
石黒一郎(堺市役所)
人権擁護大会分科会に職場や他の地域の自治体職員と一緒に参加しました。阪神大震災の映像から始まったシンポジウムは感動的でした。また、市場競争万 能論の国土交通省幹部や規制が邪魔である─なんで悪いやつのためにいらぬ負担をしなければならないのかという本音も聞けファイトも改めて沸いてきました。
みなさまの人権擁護大会開催までの道のりは、私自身の木造3階建て調査─相談会開催、中間検査導入、完了検査率向上の仕事上の取り組みと重なり感無量の気持ちでした。
分科会翌日、自治体関係者、指定確認関係者、建築士、被害者の方がつどい実務者の集いを開催しました。率直に実態を交流できました。今後も機会あるごとに開催していきたいと思いますのでよろしくお願いします。
ときあたかも建築基準法の大改正が行なわれ偽装問題の「解決」が図られようとしています。横のつながりを広め、深め真の解決に進んでいきたいと考えています。