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【特集その2・耐震偽装問題】 1.偽造問題対策本部設置と耐震偽装問題の今後 |
弁護士 吉岡和弘(仙台) |
2005年11月17日、千葉県市川市在住の姉歯一級建築士が構造計算書を偽装していた事実が発覚した。発覚の端緒は、国交省によると建築確認検査を行ったイーホームズ(株)から国交省及び特定行政庁にその旨報告があったからだとしている。 この報道に接し、全国ネットは、岩城事務局長の呼びかけで、11月23日、東京八重洲ホールで緊急対策会議を開催し(参加者は、弁護士10名、建築士 4名など合計20名)、その場で「欠陥住宅全国ネット構造計算偽造問題対策本部」を立ち上げることとし、本部長には吉岡和弘(全国ネット幹事長)、副本部 長河合敏男(関東ネット幹事)、同藤島茂夫(関東ネット幹事)、同岩城穣(全国ネット事務局長)、事務局長谷合周三(関東ネット事務局長)、事務局次長斉 藤拓生(全国ネット幹事)、同神崎哲(全国ネット事務局次長)が当たることになった。終了後の記者会見で、私は、概略「欠陥住宅被害は、被害の普遍性、危 険の蓋然性、被害回避の緊急性がある。生命身体を守るべき器が凶器になる現実がある。本来、建築士による設計監理と行政による検査という2重の防波堤で建 築物の安全性が確保される仕組みが用意されていたはずなのに、建築士は業者に従属し、行政による検査は民間開放でチェック機能が失われてしまい、両方とも 骨抜きになってしまった。我々は、この10年間、安全な住宅を生産するシステムの検討に取り組んできた。民間開放も数年前から警告してきた。今こそ、住宅 の安全性を確立するために消費者サイドからもの申していきたい」とのコメントを出した。 そして、私たちは、11月26日午後3時から東京都南部労政会館において「構造計算偽造問題被害者説明会」を開催した。被害住民とマスコミ各社が狭い 会場に殺到した。私は、対策本部長としての開会挨拶で「みんなが責任逃れの発言をしている現状の中で被害者が1つになって闘うことがなにより重要だ」と指 摘し、河合副本部長からは、責任論として、売主(建築主):瑕疵担保責任(無過失責任)、建設会社:不法行為責任(過失責任)、設計事務所:不法行為責任 (過失責任)、姉歯建築士:不法行為責任(過失責任)、民間検査機関(イーホームズ):不法行為責任(過失責任)らの法的責任について説明をしたうえ、最 高裁の平成17年6月24日決定を踏まえ、特定行政庁:不法行為責任(過失責任)にも言及し、これらは不真正連帯債務となるので被害者はそれぞれに対して 損害額全額を請求できること、損害論として、売主に対して契約解除をして売買代金返還請求、引っ越し費用、仮住居費用等、マンションを買わなかったら生じ なかった損害全ての賠償、慰謝料、弁護士費用の請求等について詳細な説明がなされた。被害住民からは、銀行ローンを支払わなければならないのか、立退き問 題、仮住居の問題等、直面する疑問点に質問が続出した。 そこで、12月3日午後1時から日本青年館6階会議室において、第2回目の被害者説明会を開催した。この席上、河合副本部長からは、横浜地裁が平成 17年11月30日に言渡した「特定行政庁が賠償責任を負担する主体になる」との判決が紹介され、イーホームズの過失は即ち特定行政庁の責任になるとすれ ば、第一義的には国、地方公共団体が責任を負い、国らが建築士や業者、民間検査機関らに求償をすべきとの説明がなされた。 被害住民からはヒューザー小嶋社長が「瑕疵担保責任は負うが、ヒューザーには過失はない。建て替えをすると経営が立ち行かなくなるので、補強する。引っ 越し費用は出す。預貯金は30億あったが解約が相次ぎ契約金の返還でかなり減少している」と述べていること、国交省北川大臣は「行政がマンションを解体撤 去し元の生活へ戻ることへの支援をすること、退去、取り壊し、立て直しについて関係省庁と連携して取り組むことなど、安全の確保、経済的負担への支援を約 束した」ことなどが報告された。 更に、私たちは、12月10日(土)、「耐震強度偽装・ずさん検査告発110番」を東京、仙台、名古屋、大阪、広島等で実施した。また、12月15 日、自民党は約20名ほどの衆参議院議員をもって対策ワーキングチームを発足させるにあたり、当対策本部の意見を聴取したいとの要請があり、自民党本部で 同チームの議員らに私から我が国の建築生産システムの問題点と民間開放策の誤り、そして、真の中間検査制度が我が国でも行える体制づくりの必要性を訴え た。 そして、2006年2月18日、東京・JIA建築家会館において「耐震偽装問題と被害救済」シンポジウムを開催した。パネリストとして、契約締結上の 過失論の第一人者本田純一中央大学教授に銀行ローンの支払い拒絶の問題、対策副本部長の藤島建築士には、姉歯作成の構造計算書は容易に見破られたのかを解 説頂き、また行政法改正問題で日弁連委員として活躍されている松沢陽明弁護士に行政庁と国の責任に言及してもらい、河合敏男弁護士からは責任追及と公的支 援についての発言を頂いた。 現在、国と特定行政庁は、被害住民に退去命令を出す一方、「公的支援」策を打ち出している。しかし、この案は国や行政庁が負担すべき法的債務を「公的支 援」という名のもとに責任を覆い隠す目くらまし的手法であるとの批判や、 被害住民らにとって従前の面積を2割程度減縮されたうえ、新たに2000万円前 後の住宅ローンを組むことが求められるもので到底受け入れられないとの反発も出ている。また、被害住民からは銀行に対するローン支払免除の理論構築はでき ないかとの意見も噴出している。その一方で、一部被害住民は、川崎市が示した公的支援策に従おうとする動きも出ており、今後、被害者は二極化することも予 想される。 以上、今後の動き等については、次回の「ふぉあ・すまいる第16号」でどなたかに詳論をお願いする予定である。 |