神戸大会の報告と総括 |
弁護士 永井光弘(兵庫) |
1 はじめに 2005年5月29日(日)に欠陥住宅被害全国連絡協議会第19回神戸大会が開催された。本年度は、阪神・淡路大震災から10年という節目の年にあた り、日本弁護士連合会でも11月10日・11日開催予定の人権大会において欠陥住宅問題を取り上げてシンポジウムを開催する関係から、神戸大会もかなりイ レギュラーな開催の仕方となった。通常ならば神戸大会初日に当てるべき5月28日(土)に、日弁連シンポジウムのプレシンポジウムとの位置づけで近畿弁護 士会連合会が「阪神淡路大震災10年後の検証~日本の住宅の安全性は確保されたか~」というシンポジウムを開催したからだ。全国ネット大会と近弁連プレシ ンポジウムは開催主体が異なるもののどちらもメンバーである弁護士がほぼ共通していることから、ここではひとまとめにしてご報告をする。 2 近弁連プレシンポジウム(5月28日) 近弁連のプレシンポジウムは、阪神・淡路大震災から10年を経て欠陥住宅分野で立法や行政(ひいては司法)上の様々な問題にどの程度の進捗があったの か、また、まだ足りない点はどこにあるのかを探ろうという狙いから構想が練られた。シンポジウム準備の過程で、阪神・淡路大震災直後に神戸大学が震災で亡 くなられた方の遺族に向けて行ったアンケート結果に巡り会うことができた。また、そのアンケートを発展させ遺族の方がそれぞれの思いを語った聴き語り調査 という資料に巡り会うことができた〔聴き語り調査については、神戸市にある人と防災未来センターのパソコンにて一部は閲覧可能であると共に、「阪神大震災 研究5 大震災を語り継ぐ」(神戸新聞総合出版センター)でもその一部が収録されている〕。震災死亡者の遺族から生の声に接することによって、6400名 余という数字だけではなく死亡された方のそれぞれの思いや人生に触れることができた。実行委員会のメンバーとして安全な住宅に住まうということは「人権」 だと確信することができた。プレシンポの基調報告でも、人権としての「安全な住宅を確保する権利」論を基調報告で取り上げた。プレシンポは「震災被災者の 声」の報告から入り、基調報告の後、パネルディスカッションでは学者、建築士、行政の方をパネラーにお迎えして「震災被災者の声」に対し10年間でどこま で応えられたのかが議論された。 プレシンポの最後には以上の内容を簡潔に盛り込んだ「住宅の安全性を確保するシステムの構築を求める神戸宣言」が発表された。 3 第19回神戸大会(5月29日) イレギュラーな日程のため、かなりきついスケジュールとなった。(一部で は前夜遅くまで続いた懇親会にもかかわらず)大会は午前9時からスタートし、午後2時の終了まで食事休憩も無しという日程だった。 まず、中神岳二建築士による「勝つための鑑定書づくり」は、欠陥住宅訴訟における損害額のための見積書の作成に特化した、従来にない切り口の報告だった。 説得力ある内容はもちろん、作成にかける時間を能率化する手法や、最終的にはこの種の見積書は交渉ごとのための「仮定の見積もり」であるという思想は大い に参考になった。 次に、シックハウス関係報告では、中島宏治弁護士と池田浩己医師との対談形式による報告があった。方式としては新しい試みであったが、とても分かりよ いものだった。両先生ともあまり綿密に準備をした姿を見かけなかったが(飲んでいる姿は見た)、高いレベルの内容を平易に説き明かしていたのはひとえに日 頃からの専門的な打ち合わせの反映であろう。 津久井進弁護士による「震災時の専門家の役割」は、欠陥住宅問題とまさに隣接領域だがこれまで大会で取り上げられてこなかった部分の報告であった。全 国ネットでは日頃から建築士と弁護士の交流ははかられているが、さらに広い問題に取り組むためにはその他の士業(司法書士、不動産鑑定士、税理士、行政書 士)とも連携をとることが、問題の合理的で迅速な解決に資する場合があることが報告された。 幸田雅弘弁護士による「マンション事例報告」は、マンション1棟まるごとの建て替えを求め、管理者を原告として訴訟提起したという野心的な事例の報告 だった。マンションにおける欠陥住宅紛争において、訴訟という選択肢に進むのは(少なくとも当職にとっては)勇気がいることだ。しかし、任意の交渉で行き 詰まりを感じている場合には考慮しなくてはならない選択肢であり、今後の成り行きに注目すると共に画期的な成果を挙げていただくことを期待したい。 今回も全国からたくさんの勝訴判決事例が報告された。いつもながら運動の広がりと深さを感じる報告だ。惜しむらくはもう少しそれぞれの工夫と苦労話を 聞きたいところだった。 大会最後の事務局報告においては「欠陥住宅・悪質リフォーム110番」に向けて全国各地の有用な情報が報告された。当職の記憶ではこの項目については ほとんど準備期間がなかったにもかかわらず全国から豊富な悪質リフォーム事例が多数集約されて、その後の110番や全国各地の悪質リフォーム問題に対する 取り組みについてレベルアップが図れた。あらためて全国組織の強みを垣間見た思いだった。 4 総括 神戸で大会が開かれるのは1996年12月の第1回全国ネット立ち上げの大会以来2回目だ。実は第1回大会も立ち上げに関連して組織論等について多く の時間がとられイレギュラーな大会だったが、今回もやはりイレギュラーな大会となってしまった。この10年弱の間の通常の大会形式を期待された方に対して は半分は物足りず、半分はハードすぎる大会になってしまったかもしれない。また、全国ネットは例年は年2回の大会を開催しているが、今年度に限っては秋口 に予定されるべき全国ネットの大会はない。冒頭に述べたように日弁連の人権大会というイベントがあるからだ(全国ネットの弁護士メンバーはほぼ人権大会の 実行委員と重なっており、2つの大会は人的資源的に到底不可能であることをお詫びします)。人権大会において全国ネットがこの10年取り組んできたことを 集大成することになる。これも全国ネットの大会のひとつと位置づけて弁護士のみならず建築士や学者のご参加をお願いしたい。 さて、今回の近弁連プレシンポ・全国ネット神戸大会を通じて、安全な住宅に住まうということは「人権」だとの共通認識が得られたことは大きな成果だと 思う。「人権」という認識は、たとえばいわゆる既存不適格建物について改修を促進させる立法や行政措置を執らせる運動にひとつの理論的支柱を与える等、今 後の理論構築や運動論に豊かな果実を結実させるポテンシャルをもっている。このような意味で準備は大変だったが充実した神戸大会を持つことができたと思 う。なお、末筆になりましたが、近弁連プレシンポや神戸大会の各パネリストやご報告いただいた方々、ご協力いただいた皆様方に心からの感謝を捧げます。あ りがとうございました。 |
◆第19回神戸大会特集 ◎神戸大会の報告と総括 永井光弘(神戸・弁護士)
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