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◎中国建築視察旅行報告 平泉憲一(大阪・弁護士)

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中国建築視察旅行報告
弁護士 平泉憲一(大阪)

1 はじめに
日弁連・消費者問題対策委員会の土地住宅部会が中心となり、平成16年8月13日から22日まで、中国の建築事情等について、北京、ウルムチ、トルファ ン、カシュガール、コルラを視察してきましたので、簡単にご報告致します。この旅行は、東北大学大学院に留学されている陳桐花さん、及び陳さんが留学以前 に勤務されていた中国社会科学院法学研究所の肖先生に多大なご協力をいただき実現したもので、各視察先の訪問が実現したのも、おふたりのご尽力によるもの です。参加者は、おふたりの他は、弁護士7名、建築士1名、法律事務所事務員さんたち3名の総勢13人です。

2 前提知識(中国の土地制度)
中国の建築事情をご報告するにあたって、中国の土地制度、不動産政策について、簡単にご紹介させていただきます(ただ、この部分は、陳桐花氏の論文を参照させていただきましたが、私の理解不足のため、正確性を欠く部分も多々あるかと思います)。

(1) 土地所有権は国家ないし集団に帰属している
中国では、人民(国民)個人による土地の所有が認められておらず、土地の所有権は、国家(ないし集団)に帰属しています(2004年憲法)。すなわ ち、同憲法では、①都市の土地は国家的所有に属し(同法10条1項)、②農村及び都市郊外の土地は法律により国家的所有に属すると定められたものを除い て、集団的所有に属する(同法2項)、③公共の利益を目的として国家は、法律の規定により(集団的所有の)土地の収用または徴用を実行することができる (同法3項)と定めています。

(2) 土地の使用権について(土地所有権を有する国家ないし集団は、土地の使用権を譲渡・移転できるのか)
ただ、このように土地所有権は国家に属していますが、国家は、その土地の「使用権」だけを人民に譲渡することは可能になりました。これは次のような経緯によります。
もともと、土地の使用は、土地所有権を有する国家・集団が、人民に対し、無償・無期限で使用させるというものであり、1982年憲法では、土地の譲渡は禁じられていました。したがって、ここでは、「土地使用権」という概念自体不要でした。
ところが、1978年から始まった改革開放は、経済発展・産業振興のため、外資を誘致する中外合資企業を設立する必要が生じました。そして、このとき に、中国の企業が政府に使用料を支払って土地使用を許可するという「土地使用権」が創出され、中国企業は、この土地使用権を出資の対象として外国企業と合 弁経営をすることが認められることになったのです(1979年制定「中外合資経営企業法」)。
これによって、国有土地の使用形態は、無償・無期限の使用制度から、有償使用制度へと転換していき(1987年国務院が決定した「経済発展特区(上 海、天津など)」と言われる都市における国有土地の有償使用制度)、1988年憲法で、土地の使用権が法律の規定によって譲渡できる(同法10条4項)と 規定されてからは、有償使用制度が全国的に認められるようになりました。
その後、1990年国務院が「都市、鎮における国有土地使用権の譲渡及び移転に関する暫定条例」を公布し、①国家の土地使用権の譲渡、②土地使用者か ら第三者への土地使用権の移転、③土地使用権の第三者への賃貸借・抵当権の設定が認められ、都市の国有土地の使用権を、土地所有権と分離して譲渡・移転す ることが制度上可能になりました。

(3) これらの制度的変革によって、人民の住宅制度も変わって行きました。すなわち、従来の国による一元的住宅建設投資体系を、住宅投資の一部を個人に負担させ るような体制に変え、併せて都市部では個人の持ち家制度を奨励し、土地使用権付きの公有住宅、商品住宅が販売されるようになりました。これは、経済的発展 の一環として不動産産業を重視するとともに、住宅の不足問題・建設財政難の解決をもめざし、さらには都市人民が経済能力に応じて公平な住宅供給が受けられ るような体制の確立を目的としたものです。

3 中国の住宅問題
以上のような不動産制度・住宅制度の変革により、中国では1992年から不動産ブームが起き、全国の不動産開発会社は、3700社(91年)から、 28600社(93年)まで急増しましたが、他方、それに対応する法的制度の不備のため不動産開発は野放し状態となり、粗悪な建築材料が市場に氾濫し、粗 製濫造による住宅の欠陥が相次いだということです。ちなみに、95年には新築の商品住宅の倒壊事故が12件あり、46人が死亡したとの報告があったとのこ とです。これら粗悪な住宅が作られる原因は、①施工管理が厳格に行われていない、②施工の技術低下、③建築材料の品質欠陥、④職業訓練を受けていない外来 農民工の大量使用がありますが、さらにマクロ的な原因としては建築競争市場の未形成も挙げられています。

4 視察先でのお話
視察先の中で興味深かったお話をいくつかご紹介します。
(1) 中国消費者協会
日本の国民生活センターのような機関ですが、次のようなお話しがありました。
最近、住宅(商品住宅)についての苦情が多くなっている。苦情としては、①欠陥住宅問題:地盤沈下、壁破裂、雨漏り、水道管破裂、材質の欠陥・手抜き の問題等多岐にわたる②その他、不実広告、契約違反問題、不実測量、所有権証明の偽装等も問題となっている。
消費者側は高いレベルを要求し、これに対し、販売者である開発業者(開発商)は譲らないので、対立している。開発業者は財力があり、消費者側は権利保護意識が低かったが、最近、消費者は自主的に団体を作り、開発業者と交渉するようになってきた。
消費者と開発業者との契約自体が、もともと消費者に不利な内容となっていて、契約責任を問うのが困難。
消費者協会では、法的な知識を伝えたり、最高人民法院の司法解釈に基づく処理を示したりしている。
契約内容を改善するべきではないかと考え、昨年から、契約書を収集し分析している。その結果、立法、司法、大学関係者の分析の結果、現行の契約には重 大な落とし穴があると公表したりしている(その後、消費者から、どう対応したらいいのかなどの問い合わせが多数あった)。なお、中国の建設部と公証行政管 理局が作成した契約のモデル約款がある。
検測機構と連携して、消費者に具体的欠陥について検査したり情報を出せるようにもしている。
紛争に直接立ち会って調停することもあり、成功例もある(ただ、調停成功は相談件数の半分もない)。
重大と思われる案件は、訴訟まで指示している(法的知識の提供、弁護士の紹介、協会を通じて証拠の収集(消費者権益保護基本法に基づいて、相手方に証拠を提出せよと要求することができるそうです)など)。
法の整備と消費者の権利意識を高めることが重要だと感じている。
現在、中国は次期オリンピック開催に向けて建設ラッシュであるが、各種社会問題については悩んでいる。
(2) 中国社会科学院法学研究所
法についての中国政府のシンクタンクのような機関ですが、次のようなお話しがありました。
90年代は、住宅配分政策から住宅開発政策への変わり、90年代後半になると、開発業者、建築会社との紛争が生じてくる。また、次期オリンピックに向 けた開発のため、政府の許可なく再開発を進める業者が生じたり、資金がなかったり、開発業者が建築業者に支払をせず、下請けにも遅配になるような問題も生 じている。また、再開発にあたって既存住民の立ち退きに際し、補助金が少ないため立ち退きを強制するといった問題も生じた。これらの問題解決のための法的 整備も不十分。住民を代表して、政府に補助金を請求する事件も起きている(肖先生もされているとのこと)。さらに、不動産業者が、1つの不動産を複数に取 引するような問題も生じているとのこと。
現在、防火規準などに対する要求も高まってきてはいる。
住宅の欠陥の問題としては、地盤沈下、鉄筋の寸法が足りなかったり、やるべき工事をやらないといった施工上の問題も多い(風が吹いたら鉄筋がぶつかり合う音がするという事案もある)。
シックハウスの問題も生じており、死亡したケースも多数ある。
行政による検査制度(設計審査、中間検査、完了検査)はあるが、欠陥住宅は生じている。これは検査が書類を提出すればOKという形式的なものであり、他方利益のためにはなんでもやるという業者の実体もある。
大プロジェクトのときは国の検査は厳しくなっているが、一般の住宅の場合には厳しくないのも原因。
建築法はあるが、必ずしも力を出しているわけではないし、各地域での利益追求もある。
消費者は、訴訟を起こすことはできるが、訴訟費用、特に測量や鑑定に何万元もかかり、泣き寝入りすることが多い(不動産訴訟は鑑定があってから訴訟)。
不動産(建物)売買契約書に、販売者や開発商は、消費者に不当な条項を入れ込んだりして、現在、国は、各担当部門と連携し、モデル約款をつくるという 動きがある。また、国土資源家屋管理局、建設委員会、質量技術監督権限検疫局の各部門が提携し、開発商などの不当条項のチェックをしようという動きもあ る。
新しい動きとして、「集団購買」というものがある。これは、特定の不動産を購入しようとする者たちが、呼びかけて集団となり、販売者と条件等を巡って 交渉するというもので、自発的に運用されている。この交渉担当者としては弁護士がなる場合も多い(不動産の「買い仲介」の集団版か?)。
いずれにしても、土地の使用権の申請から実際に手渡されるまで、消費者は非常に弱い立場に立たされている。
不動産問題は、権力と利権が関わる問題でどのように扱っていくべきかは非常に難問である。

5 感想
現在の中国、特に北京は、時期オリンピック開催に向けて建設ラッシュが続いており、街中いたるところで工事が行われていました。われわれもマンションの 建設現場に視察に行きましたが、私のような建築の素人の目から見ても大丈夫かなといった施工が散見され、中国の欠陥住宅問題はまだまだこれから噴出してい くのではないかといった懸念が生じました。私たちは、今回の視察で完結と考えることなく、両国のよりよい住環境の実現に向けて、お互いの経験・知識・反省 等の交流を行っていく最初の一歩にしたいと強く思いました。
末筆ながら、今回の視察旅行に多大なご協力をいただいた東北大学大学院の陳桐花さん、中国社会科学院法学研究所の肖先生に対して、本紙面をお借りして感謝の念を申し上げたいと思います。

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