|
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
弁護士 神崎 哲(京都・弁護士) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
[事例 その1]
Ⅳ コメント 1 判決分析(意義・射程・問題点等) (1)本判決を言い渡した合議体の裁判長は、悪名高い吉良事件一審判決を出した八木良一裁判官である。 その吉良判決が大阪高裁において破棄されたことから(なお、先日、最高裁で吉良さんの勝訴が確定した)、八木裁判官も多少は考えを改めたかに見えるが、やはり問題の残る判決と言える。 (2)まず、各欠陥を正しく認定し、「本件建物は、その構造上、法が要求する最低限度の安全性すら充足していない危険な建物というべきもので、本件瑕疵 は、極めて重大なもの」と判示したこと、また、補修可能性についても、「本件瑕疵を完全に除去し、安全性を有する建物にするための補修方法としては、本件 建物を解体し、新たな建物を再築する方がより合理的であるというべきである」として否定したことは、正当な判断として評価できる。 (3)しかし、以下の点は極めて問題がある。 ① まず、不法行為については、「不法行為が成立するためには、…被告…が、原告らの生命・身体・健康、所有権及びそれに準ずる権利等を侵害する行為があったことが必要であるが、…そのような行為があったとの立証はない」と判示して否定している。 一方で、補修不可能なほどの欠陥を認定していながら、他方で、生命・身体等に対する侵害行為を否定する発想は、吉良判決から全く進歩がないと言える。 ② また、代金額以外の請求部分について、判決の主張整理上から見る限り、原告側は原状回復請求権または不法行為に基づく損害賠償請求権を請求根拠とし ていたようであるが、判決は、原状回復請求権の範囲を限定的に捉えたうえ、不法行為責任も否定したため、代金返還以外の請求を一切認めない結果となってい る。 もっとも、判決は、これらが損害に該らないとの判断を示したわけではないため(この辺りは「欠陥があっても損害は現実化していない」という吉良判決が破 棄されたことの影響かも知れない)、瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求(民法570条、566条)であれば認めざるを得ないのではなかろうか。 ③ さらに、居住利益控除に関して一般論として肯定判断を示し、被告の相殺の意思表示がないから控除しないと敢えて判示していることは、弁論主義違反をさておくとしても、非常に問題のある判決と言える。 2 主張・立証上の工夫 (1)本件契約が請負か売買かも争点になり、裁判所が「実質請負」という被告の主張に傾きかけたため、それ自体に反論するとともに、「いかにひどい建物で あるか」を徹底的に強調する立証を考えた。その結果、被告の補修案を徹底的に弾劾できたことが、一応の認容判決に繋がったと思われる。 (2)被告の補修案は、基礎につき、地盤支持力のみの検討で沈下については全く未検討であることを、施行令に当てはめながら、藤津先生の鑑定書、意見書、 供述だけでなく、藤津先生に紹介頂いた「文献」に基づき、相手方建築士の反対尋問をした。この尋問はかなり成功したのではないかと思っている。 その他、反対尋問の冒頭で本件建物の欠陥について、一応、相手方建築士に認めさせた上で、争点は、補修方法のみであるという前提を作った。そして、基 礎以外も、補修しようと思うと、ほぼ建て替えに等しい内容が必要になるのではないかとの認識を浮き彫りにさせるような尋問を工夫した。 3 所 感 本件建物は「稀に見る」違法建築であり、ここまでひどい欠陥住宅は滅多に見られないと思われる。もし本件で欠陥の存在や被告の責任が否定されるという結 果になれば、他のどんな建物も欠陥・責任が認められないことになりかねないとすら言える。それほどひどい建物であったからこそ、八木コートでも、ここまで の判決を勝ち得たのではないかと思う。 なお、長期間を要したのは、当初単独部に配転され、付調停にされたなどの経緯があったためであるが、本件は相手方が控訴しているので、未だ確定していない。 [事例 その2]
Ⅳ コメント 1 判決分析(意義・射程・問題点等) (1)本件は、悪名高い、吉良事件における京都地裁八木判決と類似の「非常識判決例」として報告するものである。 すなわち、吉良邸と同じ施工業者(松浦建設)による類似欠陥(木三欠陥)につき、やや遅れて審理された事件であるが、吉良事件原審(八木良一部長単独 部)と同一部の右陪席(古谷恭一郎単独部)による判決である。且つ、ほぼ同時期に、八木・古谷両裁判官を含む合議体により、他の類似事件(京99-17) につき判決が下されており、それぞれが全く異なる判断を下しているという珍妙なケースである。 (2)本件判決は、最判平14・9・24を発展させ、「請負人が建築した建物に重大な瑕疵があって建て替えるほかないと認められる場合 には、注文者には解除を認める必要性が高く、他方、解除権の行使を認めたとしても、民法635条ただし書の趣旨に反するとはいえないから、このような場合 には、注文者に解除権を認めるべきであると解する」と、正面から請負契約の完成後の解除を一般論としては肯定している点だけは唯一評価できる。 (3)しかし、あてはめで「重大な瑕疵があって建て替えるほかないとまでは認められない」と判断(弁論準備で裁判所の求釈明した欠陥については十分説明して判決でも認められたが、裁判官が求釈明しないため分かっていると思っていた欠陥について、判決で否定された)。 ここで問題なのは、施工業者も欠陥原因に関する事実関係を基本的に争っていない(補修方法の争いに終始)にもかかわらず、法適用上の問題として瑕疵ではないと認定したことである。 すなわち、HD金物欠如・剛床仕様欠如・偏心率違反は、吉良判決(八木判決)でも、1か月前の合議体判決(京99-17)でも、瑕疵に該当することが 明確に認定されており、これらの判決を熟知しているはずの裁判官が何故に矛盾する法適用をするのか、理解に苦しむ。しかも、基礎の鉄筋量不足につき「令 77-2はRC造の建築物についての規定であり、木造建築物である本件建物には適用されない」と明らかに誤った判断を示している(令71を無視)。 2 主張・立証上の工夫 欠陥について、弁論準備段階で十分に主張を尽くし(勿論、その前提として私的鑑定書でも明確に記載)、被告側も特段争わなかったため、補修方法(建替し かないこと)の反論・反証に意を注ぎ、私的鑑定書作成の建築士の証人尋問を行わなかった点が裏目に出たのか。 3 所 感 裁判官は、わかってくれているはずとの軽信は禁物であり、主張・立証を徹底的に行う必要がある。 たとえ、同一部の部長で審理期間中に類似事件につき欠陥認定をしていようとも(その裁判官が、そのことは十分に知っていても)、また、その裁判官を含む 合議体で直近に欠陥認定をしている良心的判決があろうとも、その事件の判断を示す「裁判所」としては別ものと考えなければならない。 |
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
◎事例報告 [2]問題裁判官が訴訟指揮した事例2件 神崎 哲(京都・弁護士)
トップ > 欠陥住宅に関する情報 > ふぉあ・すまいる > ◎事例報告 [2]問題裁判官が訴訟指揮した事例2件 神崎 哲(京都・弁護士)