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◎勝つための鑑定書づくり 平野憲司(大阪・建築士)

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勝つための鑑定書づくり
一級建築士 平野憲司(大阪)


欠陥住宅には欠陥を生み出す原因があり、社会的背景があります。欠陥住宅全国ネットの活動は、欠陥住宅を生み出す社会的背景を正していくことが重要な課 題です。一方、欠陥住宅事件の鑑定書づくりでは欠陥現象と原因を実証的に明らかにし、社会経済的に合理的な補修方法と補修費用を提示することが求められま す。
裁判に勝つための鑑定書づくりは、裁判で公正な判断がされるために、建築技術に関する客観的な情報を誠実に提供することだと思います。また、勝訴は社会の発展につながるものだと考えています。
最近は欠陥住宅事件に関与する建築士が増えていますが、欠陥住宅を専門分野とする建築士の職能は確立されていないと思われます。私はこれまで450冊余の鑑定書、調査報告書等を作成してきましたが、専門分野は建築意匠・地域計画です。
鑑定書づくりは、建築設計と同様に計画、設計、施工等の技術力に加えて、総合力が求められますから、現状では建築意匠の建築士が構造・設備等の専門家の協力を得て、鑑定書づくりに参画されるのが良いと思います。
建築意匠を専門分野とする建築士へのメッセージということも頭の片隅に置いて、私が欠陥住宅事件に関与する場合のプロセスと留意点を以下に述べます。

1 予備調査
住宅に何らかの欠陥現象が生じると、被害者あるいは弁護士から調査依頼を受けます。私は被害者から直接依頼される場合は弁護士を紹介した上で、依頼を受けることを原則にしています。
予備調査は建築設計業務でいえば、敷地調査、法令調査、基本計画、基本設計に相当します。
予備調査の作業内容と留意点は、①調査依頼事項以外の欠陥の有無、②資料・文献による検討、③構造、設備、地質等の専門建築士・技術者との意見交換、④欠陥原因と補修方針の検討、⑤本調査事項の整理、⑥鑑定・調査費用の見積書の作成等です。
予備調査は大変重要で、鑑定書の骨格を形づくるものです。上記事項を手短に要約してまとめ、予備調査報告書を作成して提出します。

2 本調査
費用の見積書の同意を得て(設計契約に該当)、予備調査結果に基づいて本調査に着手します。建築設計業務でいえば、実施設計に相当します。
本調査の作業内容と留意点は、①欠陥現象と欠陥原因の実証的調査、②補修費用算出のための関連調査(構造、仕上材、設備、寸法等)、③専門建築士・技術者との協同(構造、設備、地質、遮音、コアボーリング、非破壊検査等)などです。

3 鑑定書の作成
建築設計業務でいえば、実施設計に相当します。
欠陥現象は①法令違反の瑕疵、②設計基準・技術基準を下回る瑕疵、③契約違反の瑕疵(設計図書・見積書を下回る瑕疵)、④その他の瑕疵(施工不良、不具合箇所等)に分類して整理します。
また、欠陥現象及び欠陥原因のまとめ方は、主観的判断を避け、写真、作図、法令、設計基準、技術基準、構造計算、文献等を示して、視覚的、実証的、科学 的に瑕疵を立証しなければなりません。また、建築技術に関して専門家でない裁判官に分かりやすく、論理的に記述することが重要です。専門用語などは建築用 語辞典などのコピーを添付するのが良いと思います。
補修方法は①社会経済的合理性、②現状の空間利用の維持、③補修後の建築技術的問題の有無等を考慮して決めます。特に、建替えを主張する場合には慎重な検討が必要です。
また、補修費用は施工業者作成の見積書ではなく、建設物価、コスト情報、建設工事標準歩掛(いずれも建設物価調査会発行)等の積算根拠を示して、客観的な見積書を作成することが大事です。
できれば、鑑定書の最後に、裁判官へのメッセージとして「所見」を書くのが良いでしょう。
私は①事件発生の主因(企業体質、工事監理の不備、職人の技術力等)、②高額な補修費用の理由、③緊急を要する補修内容等について記述します。

4 意見書の作成
鑑定書が完成すると、弁護士は鑑定結果に基づいて訴状を作成し、裁判が始まります。
最近の裁判では、加害者側の主張をサポートする建築士が増えています。相手方の主張に対して的確に反論する意見書の作成が重要になっています。
意見書の作成は建築設計業務でいえば、工事監理に相当します。裁判では建築士の意見書の良し悪しで判決内容が決まるといっても過言ではありません。鑑定 書が実証的に科学的根拠に基づいて作成されていれば、確信をもって対処できますし、むしろ相手方の主張の誤りを明らかにすることになります。

5 証人尋問
裁判の終盤になると、証人尋問で法廷に立つことがあります。作成した鑑定書について双方の弁護士から尋問を受けますが、鑑定書が実証的に科学的根拠に基づいて作成されていれば、何ら不安はありません。
私は証人尋問を楽しんでいます。私は法廷が舞台で、私と弁護士が演者、裁判官が観客だと思っています。裁判官(観客)の反応を見ながら、専門用語を避 け、分かりやすい言葉で話すようにしています。そして、裁判官から質問を受けることがありますが、裁判官が私に対して「先生」と言えば、裁判に勝ったと 思っています。
勝訴は、建築設計業務でいえば建物の竣工です。

6 鑑定書づくりの今後の課題
阪神・淡路大震災以後、多くの欠陥住宅事件に関与してきましたが、下記の事項が鑑定書づくりの今後の課題だと考えています。
1)仕様規定の法令違反の補修費用
建築基準法20条1号は、「建築物の安全上必要な構造方法に関して政令で定める技術的基準に適合するものでなければならない」と定めています。
また、法20条2号は構造計算によって安全性の確認が必要な建築物であっても、1号の政令で定める技術的基準に適合することが前提になっています。
したがって、政令で定める仕様規定の技術的基準に違反すれば、基準に適合するように補修するのが当然だと判断されるのですが、現状の訴訟では壁があります。
例えば、令77条3号の規定により柱帯筋が10間隔で設計された建築物が、実際には15の平均間隔で施工されていたとします。しかし、構造計算を行うと安全性が確認された場合、補修方法をどのようにするかといった問題です。
柱を炭素繊維シートで巻きつける補修方法は新築相当の費用が算出される場合があります。この場合、補修費用が社会経済的に合理的かどうかが争われま す。また、仕様規定の技術的基準に受忍限度の範囲があるのかどうか、鑑定書づくりで悩むところです。司法の判断基準も明確ではありません。

2)契約違反の補修方法
上記事例の場合、設計図書と異なり工事請負契約違反になります。契約違反を是正するために新築相当費用が算出された場合、同様に悩むところです。

3)顕在化していない欠陥住宅問題
阪神・淡路大震災で被災原因になった欠陥が社会的に顕在化していない問題も残っています。例えば、コンクリートの品質や打継ぎの問題、あるいは鉄骨造 の溶接などの問題です。これらの欠陥は、人命に直結する問題だけに建築士の鑑定書づくりを通して、社会問題として顕在化させる必要があると思われます。
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