勝訴判決・和解の報告 [3]かぶり厚に関する事例 (名古屋地方裁判所平成17年3月31日判決) |
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弁護士 石川真司(愛知) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
Ⅳ コメント 1 判決分析(意義・射程・問題点等) (1) 本件の主要な争点 ア 本件の主要な争点は、建物基礎(べた基礎)の鉄筋のかぶり厚さ不足の有無である。 イ まず、客観的事実として、本件基礎スラブの厚さは、設計上100mmとされ、実際の施工も約100mmで施工されていた。 ウ 業者側の反論要旨は次のとおり。 ① 平成9年当時の法規制では基礎は無筋でもよかった(H12.5.23告示1347が制定されるまでは、木造の場合、基礎に鉄筋を入れるか否かは設 計者の判断に任されていた)。無筋でいいところをあえて鉄筋を入れ、かつべた基礎に変更したのであって、より費用のかかる安全な方向への変更であるから問 題ない。 ② 鉄筋コンクリート造の節にある施行令79条は、木造建物には適用がない。 ③ 新築後7年を経過しても何ら傾きやクラックが出ていない(控訴状では現象が出ていないのに瑕疵を認めるのは経験則違反と主張)。 ④ 本件建物は1520万円と廉価な建物であり、その価格に見合う経験則としての安全性を考えるのが相当。 エ これに対して裁判所は、書証(日本建築学会の文献、建築士意見書、調停委員意見)、施行令79条等の規定の趣旨及び弁論の全趣旨を併せ考えれば、建 物における鉄筋コンクリート造の基礎は、一般に、①下面に割栗石等を敷設した上に施工し、②内部鉄筋はコンクリート下面から60mm以上のかぶり厚さを置 いて配置し、③コンクリートの厚さは、下面のかぶり厚さ、鉄筋(縦横)の太さ、上面のかぶり厚さ及び施工誤差を考慮して、通常120mm~150mm以上 とし、かつ、④内部鉄筋は、300mm未満のピッチで配置しなければならないとした上で、本件基礎はこれらのいずれにおいても通常有すべき形状・構造が欠 如ないし顕著に不足していて欠陥があると認定した。 (2) 建築士の責任 ア 事実関係 建築士は、施主(売主である業者)の依頼を受けて建築確認申請を行ったが、その申請書添付図面では布基礎であった。しかし、建築確認がなされた後、 口頭でべた基礎への変更をアドバイスし、実際の施工もべた基礎でなされた。ただし、建築士はべた基礎の図面を作成していない。 イ 被告らの反論 被告建築士の受託した業務は、設計については、実施設計の建築確認申請添付図書・確認申請書の作成業務のみであり、監理業務は、施工者との打合せ及び完了検査・官公庁検査の立会業務のみである。また、その料金は15万円であった。 ウ 裁判所の判断 建築主からの委託により建築物の設計及び工事監理者と表示して建築確認を受けた建築士は、当該建築物の購入者との関係においても、法令等に適合し、 かつ、安全性の確保された建物が建築できるよう設計し、工事監理を行う法的義務を負う、とした上で、被告は、本件建物が建売住宅として販売用に建築するも のであることを了知しつつ、上記義務を怠ったから、建物の購入者に対する関係で不法行為責任を負うとした。 (3) 損害 仮住まい費用の敷金礼金及び弁護士費用の一部を除き、ほぼ請求どおりに認容された。 (4) なお、被告らは、本訴が不当訴訟だとして、不法行為に基づく損害賠償請求として100万円の弁護士費用の賠償等を求める反訴を提起したが、当然のことながら棄却されている。 2 主張・立証上の工夫 (1) 鉄筋のかぶり厚さ不足については、台所床下のコンクリートをはつって計測。 かぶり厚さについては、JASS5等を引用して、かぶり厚の必要性、それを確保するために施工誤差を考慮して設計しなければならないことを強調。 (2) なお、被告らが瑕疵の存否のみを争ったため、補修方法・費用は全く争点になっていない。 3 所 感 (1) 瑕疵の判断基準に関して、日本建築学会の文献(「建築工事標準仕様書・同解説」〈JASS5〉、「小規模建築物基礎設計の手引き」、「鉄筋コンクリート構 造計算規準・同解説」)を引用し、施行例79条で規定する鉄筋の下面60mm、上面20mmに、さらに施工誤差を考慮してコンクリート厚さを確保しなけれ ばならないとした点は、いい先例となったと思う。 なお、施行例79条については、被告らからの上記②の反論に配慮してか、「施行令79条等の規定の趣旨」と慎重な言い回しをしている。直接適用でよいと思われるが、この点の解釈は微妙。 その他、被告らは、上記①ないし④のとおり争ったが、いずれも排斥されている。 (2) 建築士の責任について、本件建物は、法5条の4、建築士法3条の3によれば、床面積が100㎡を超えないため、法令上、工事監理者を定めなくてもいいとこ ろ、上記のとおり監理責任を認めた点に意義がある? ただし、この点は、訴訟上全く争点となっていない。 (3) 被告らが瑕疵の存在のみを争ったため、1審では、補修方法、費用は全く争点とならず、当方建築士の見積もりどおりの金額が認定された。控訴審では、補修方法・費用が中心的争点になっている。 (4) ネットのメーリングリストで有益なアドバイスを多数いただきました。大変感謝しています。 |
◎勝訴判決・和解の報告 [3]かぶり厚に関する事例(名古屋地方裁判所平成17年3月31日判決) 石川真司(愛知・弁護士)
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