本文へ


◎勝訴判決・和解の報告    [4]構造欠陥とシックハウス被害に対し1876万円で和解した事例(大阪地裁平成17年4月6日和解) 田中 厚(大阪・弁護士)

トップ > 欠陥住宅に関する情報 > ふぉあ・すまいる > ◎勝訴判決・和解の報告    [4]構造欠陥とシックハウス被害に対し1876万円で和解した事例(大阪地裁平成17年4月6日和解) 田中 厚(大阪・弁護士)

勝訴判決・和解の報告
[4]構造欠陥とシックハウス被害に関し
1876万円で和解した事例
(神戸地方裁判所平成17年4月6日和解)
弁護士 田中 厚(大阪)

Ⅰ 事件の表示(通称事件名:神戸H邸事件)
判決日 神戸地方裁判所平成17年4月6日和解
事件番号 平成11年(ワ)第1720号
裁判官 紙浦健二、今中秀雄、向井宣人
代理人 田中厚、関根幹雄
Ⅱ 事案の概要
建物概要 所在 神戸市長田区大日丘町1丁目
構造 木造セメント瓦葺き2階建(在来軸組) 規模 敷地120㎡、延床面積93.15㎡
備考
入手経緯 契約 平成8年2月19日 売買契約(売建) 引渡 平成8年6月7日
代金 4380万円
備考
相談(不具合現象) 擁壁が外壁と一体、補修後のシックハウス症状
Ⅲ 主張と判決の結果(○:認定、×:否定、△:判断せず)
争点
(相手方の反論)
① 契約書や建築確認申請書に記載されていない擁壁が外壁と一体の構造は瑕疵か。現が予想もし ない構造になっており契約違反であり、さらに防水性能、及び、構造上の安全性の問題もあるので、瑕疵である。←(そで壁として認められる構造。施工注に工 事変更を現らに高等で伝えた。防水性能については補修済。構造上の安全性の問題はない。)
② 擁壁に構造上の欠陥が存するか。必要鉄筋量の計算で擁壁に働く土圧を算出際の土圧係数は原則0.5、現状に合わせた数値を採用するとしても0.27。 これを前提にすると必要鉄筋量を満たしていない。(←擁壁に接した写真やボーリング調査の結果、土は堅固であるので土圧係数は0.058で、これを前提に すると必要鉄筋量は足りている。)
③ 引き渡し1年後の補修工事(防水・防腐)に仕様されたトルエン、クレオソート油等によって現らはシックハウス症候群を発症した。(←補修工事と因果関係を有するシックハウス症候群とは認められない。本人の既往症である。)
④ 補修工事に関する保証期間延長の合意は仮死担保器官の延長をしたものと認められるか。(←擁壁の補修工事についてのみ保証期間を延長したにすぎない。引き渡してから2年の当初の瑕疵担保期間を経過している。)
⑤ 補修不可能として解除が認められるか。被告主張の擁壁の裏側の土を一部撤去して土圧を減少させるのは隣地の石積み擁壁が崩壊するおそれがあり危険。又 土を取っても必要鉄筋量はやはり不足している。擁壁を一旦解体して補修する方法は、擁壁と隣地の境界が近いので山留めをするスペースがなく、隣地の石積み 擁壁が崩壊するおそれがある。南北方向は敷地一杯に建物が建っているので建物を移動させて擁壁の内側にコンクリートを増し打ちすることも不可能である。建 物と一体化した擁壁を補修することは不可能である。(←仮に瑕疵があるとしても、上部から鉄板を打ち込んで山留めとし擁壁を一部解体して作り直すことは可 能であり、解除は認められない。)
⑥ 仮に解除が認められない場合の損害賠償額は、少なくとも建物は無価値であるから建物代金相当額2580万円プラス付随的な損害を賠償すべき。(←仮に瑕疵があるとしても補修費用額は151万円。)
欠陥 ① 契約書や建築確認申請書に記載さていない擁壁が外壁と一体の構造
② 擁壁の必要鉄筋量の不足
損害 合計 1876円/5628万円(主位) 3307万円(予備)  (認容額/請求額)
代金 1000万円/4380万円(主位) 2580万円(予備)
補修費用
転居費用
仮住賃料
慰謝料 100万円/800万円(欠陥100、シックハウス妻500、シックハウス夫200)
調査鑑定費 100万円/127万円
弁護士費用 120万円/512万円(主位) 300万円(予備)
その他 遅延損害金556万円加算
責任主体と法律構成 売主 瑕疵担保責任、債務不履行責任、不法行為責任
施工業者 不法行為責任
建築士 不法行為責任
その他

Ⅳ コメント
1 和解結果分析

訴訟の最終段階で、裁判所から、「被告らは原告らに合計1876万500円を支払ってください」、との積極的な和解勧告があり、結果的に双方がそれをそのまま受諾して和解が成立した。
裁判所の説明は以下のとおり。
① 建物価値の減価分
2580万円×0.4≒1000万円
目的不達成、建物の価値なしとまではいえない。危険で住めないとまではいえないが、相当な瑕疵。軽微な瑕疵ではない。
② 鑑定費用   100万円
③ シックハウス慰謝料
夫婦2人併せて100万円。
原告ら主張の症状が全てシックハウスとはいえないが、全く因果関係がないともいえない。
④ 弁護士費用
①②③合計額の1割。
1200万円×0.1=120万円
⑤ 遅延損害金
シックハウスに関する損害110万円について平成9年8月(発症時)から年5%で38%110万円×0.38=41万8000円
その他の損害1210万円について平成8年6月(建物引き渡し時)から年5%で42.5%
1210万円×0.425=514万2500円
主位的請求4528万円(解除前提とする代金返還請求及び付随的な損害の賠償請求)、予備的請求3307万円(解除を前提としない損害賠償請求)から すると、必ずしも十分な和解金額ではなく、建物代金の4割という根拠も理由があるとはいえないが、弁護士費用・遅延損害金をフルに加算して、総額として 2000万円近い数字が出たので、被告がこの和解金額を一括で支払うのであれば、訴訟も長引いていることでもあり、この和解案を受諾することにした。
被告側はかなり和解案に抵抗を示していたが、最後は裁判官が被告代表者を根気よく時間をかけて説得し、和解による解決が実現した。

2 主張・立証上・和解交渉上の工夫
擁壁と建物の外壁が一体化した構造自体、建築確認の図面と異なり、契約違反の瑕疵といえるが、それだけでは、解除や、相当額の損害賠償を獲得することは不安があるので、平野憲司建築士の鑑定により擁壁の構造上の安全性も問題とした。
必要鉄筋量が足りているか否か、その計算の前提として、土質と土圧係数が最大の争点となった。神戸市斜面地建築技術指針及び日本建築学会の基準によれ ば原則として0.5であるが、被告は工事中の写真を提出し擁壁背後の土は堅固であるとして実情に応じた土圧係数を主張。
被告側は、裁判所の鑑定を求めたが、当方は拒否。裁判所の判断により、裁判所の鑑定はせず、被告側も私的鑑定を行うこととなった。被告側は、擁壁付近 のボーリング調査を行い、サンプルの3軸圧縮試験の結果、内部摩擦角63度、土圧係数0.058を導き出し、この数値を前提にすれば必要鉄筋量は足りてい ると主張。
私は、被告側による2日間に亘るボーリング、及び、1日の3軸圧縮試験の全てに立ち会っていた。被告側から提出された上記鑑定書には、サンプルが3つしか記載されていなかったが、私はそのほかに2つあることを確認しており、その写真も撮影していた。
被告側の鑑定書は、柔らかい砂岩のサンプル2つを全く秘匿して、さらに深い地層のより堅固な礫岩のサンプル2つを含む3つのサンプルを対象に、3軸圧 縮検査をし土質と土圧を導き出していたのであった。当方は、この点を主張し(下記参照)、被告側の専門家証人の反対尋問でも厳しく追及した。これに対して 被告側証人も、被告も、理由のある説明をなしえなかった。
裁判所も被告の鑑定結果は信用できないと考え、本件擁壁に構造上の安全性の点でも問題があることを前提とする和解につながったものである。時間を要しても現場を必ず踏んで写真を残しておくことの重要性を改めて認識した。

(参考:土圧係数に関する主張)
まず、本件擁壁背面の土質については、今回ボーリング調査が行われた擁壁上面から基礎までの深さは約2.4メートルであり(甲8の6頁)、擁壁はこの 深さまで水平方向の土圧を受けていることになるので、擁壁の強度を検討するに当たっては、擁壁上面から2.4メートルの深さまでの土質を対象に検討しなけ ればならない。乙15のボーリング柱状図によると、上記深さまでの土質は、泥岩(深度0.08~0.74m)、礫岩(深度0.74~1.41m)、砂岩 (深度1.41~1.96m)、ひん岩(1.96~2.36m)となっている。なお、原告ら代理人が、三軸圧縮試験時に、㈱ジオテックから交付されたボー リング柱状図(甲36)では、泥岩(深度0.08~0.74m)、砂岩(深度0.74~1.96m)、ひん岩(1.96~2.36m)と記載されていた。
いずれにせよ、本件擁壁背面には、上記のような様々な地層が含まれているのであるから、神戸市の基準とする土圧係数0.5ではなく、「現地の土質に応 じた土圧係数」を主張するなら、泥岩、礫岩、砂岩、ひん岩の室内土質試験(三軸圧縮試験)を行って内部摩擦角を求めて、導くべきである。しかるに、乙15 号証では、礫岩(①深度1.27~1.41m②深度2.52~2.66m③2.76~2.90m)のみを対象に室内土質試験を行って、内部摩擦角63度を 求め、極めて小さい土圧係数0.058を導き出している。
しかし、礫岩より柔らかい泥岩(粘土状で指で押すとへこむ)や砂岩(砂が固まったようなものであり、㈱ジオテックが作成した甲36によっても「風化が 進み脆い」とのことである)を対象に土質試験を行えば、内部摩擦角はもっと小さくなり、それによって導き出される土圧係数はもっと大きくなることは明らか である。要するに、乙12号証は、依頼主である被告らに有利な結論を導くために、採取した資料の中から恣意的に硬質な部分のみをとりだして、試験を しているだけであるので、客観的に本件擁壁の強度を検討する証拠にはならない。しかも、上記②③の深度の礫岩は、本件擁壁の存在する深度2.4mより深い ところにあるので、本件擁壁の強度の検討には、何ら関係がない。以上により、乙12号証の導き出した土圧係数は、本件擁壁の強度の検討には全く役立たない ことが明らかである。(中略)
これに対する反論として、被告らは平成15年1月21日付準備書面を提出したが、その内容は、「地層個々の土質の内部摩擦角などを算定することは構造 計算上必要ない」、等と主張するのみで何らの根拠も示さず、原告らの平成14年10月9日付準備書面に対する反論になっていない。被告らは、礫岩層を代表 的地層として、複数の試料をもとに三軸圧縮試験を行い、内部摩擦角を決定した、とも主張しているが、上記のように㈱ジオテックが作成したボーリング柱状図 によっても、本件擁壁に接している土の土質は、泥岩(深度0.08~0.74m)、礫岩(深度0.74~1.41m)、砂岩(深度 1.41~1.96m)、ひん岩(1.96~2.36m)であり、甲36によれば、泥岩(深度0.08~0.74m)、砂岩(深度 0.74~1.96m)、ひん岩(1.96~2.36m)である。そして、室内土質試験は、礫岩(①深度1.27~1.41m②深度2.52~2.66m③2.76~2.90m)のみを対象に行っているのであり、到底、「代表的地層の複数の試料をもとに三軸圧縮試験を行い、内部摩擦角を決定し」た、といえるものではない。

ふぉあ・すまいる
ふぉあ・すまいる新着
新着情報
2023.11.14
第54回岡山大会のご案内
2023.06.12
2023(令和5)年7月1日(土)欠陥住宅110番のご案内
2023.06.08
第53回名古屋大会配信用URLを通知しました
2023.05.17
第53回名古屋大会のご案内(2023.5.17)
2022.11.18
第52回東京大会のご案内(2022.11.18)