勝訴判決・和解の報告 [5]溶接欠陥等がある建物につき 取り壊し再築費用等の損害賠償を認めた事例 (名古屋地方裁判所平成17年10月28日判決) |
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弁護士 柘植直也(愛知) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
Ⅳ コメント 1 判決分析(意義・射程・問題点等) (1)紛争の発端 本件紛争の発端は、施工業者が基礎の一部につき縮小したこと、ALC版の割付がずれていること等が原因となって施工業者との間でトラブルになった点に あるが、建築主が一級建築士に相談し、調査をした結果、さまざまな構造上の問題点が浮き彫りになり、訴訟に発展したケースである。まず、施工業者から請負 残代金を請求する訴訟が提起され、その後、建築主より施工業者、代表者2名、確認申請書に「設計者、工事監理者」として記載された一級建築士、建築士事務 所(以下建築士等という)を被告として損害賠償請求訴訟を提起した。 (2)建築確認の虚偽申請 本件建物の軒高は計画段階でも施工上も9.3mであったが、施工業者から設計を頼まれた建築士等は、構造計算書、構造図、主要構造部についての鉄骨の 接合に関する事項及び受入れ検査の実施に関する事項を記載した書類、設計者又は監理者による溶接工事作業計画書の添付及び工事監理状況報告書、鉄骨工事施 工状況報告書の提出、鉄骨製作に関する受入れ検査の実施を免れるため、軒高を9mとして虚偽の内容にて建築確認の申請をした(名古屋市では軒高9m以下の 場合、これらの添付等を省略できる扱いとされている)。設計者は、訴訟において、軒高を9mとして確認申請した動機として、上記の点を否認し、当初9mの 予定であったのが、確認申請後9.3mに変更になった旨主張し、また、構造計算も事前に行った旨主張した(施工業者も同様に主張)。 しかし、裁判所は、確認申請書に添付された矩計図の形状、事後的に提出された構造計算書に打ち出された日付、施工業者から設計者に支払われた報酬の金額及び時期等から、設計者の主張を認めず、虚偽申請である旨認定した。 (3)欠陥及び補修方法 事後的に施工業者及び設計者から提出された構造計算書は、建物の形状を無視した虚偽の柱の長さを入力し、また剛接合とされている部分をピン接合として 解析し、無理やり構造安全性を満たしているとの結論を導いたものであり、建築主側において構造専門の一級建築士に依頼し、構造計算をやり直したところ、偏 心率と剛性率の点でNGであり、また柱脚の安全性も満たしていないことが明らかになった。 さらに訴訟中の現地調停の際、溶接検査及び柱、梁等の構造部材の寸法の検査を実施したところ、溶接に関しては、14箇所の検査箇所全てについて、突合 せ溶接をしなければならないにも拘わらず隅肉溶接がされており、または柱、梁等の部材の多くが図面より縮小されていることが判明した。 これに対し、裁判所は、柱脚の欠陥については特に触れていないものの、その他の全てにつき建築主側の主張どおりの欠陥を認定し、当初の居住性を損なわ ずに構造上の安全性を確保できる補修方法もなく、基礎部分も含めて解体撤去した上で、再度建て替えるしか瑕疵を補修することはできないと認定した。 (4)一級建築士及び建築士事務所の責任 建築士等の責任としては、①軒高につき虚偽の確認申請を行い、構造図や構造計算書等の添付を免れ、建築主事のチェックを免れた結果、構造安全上の欠陥 が生じ、溶接欠陥や部材を縮小する欠陥が生じさせた点、②確認申請書に「工事監理者」として氏名を表示しながら工事監理をしなかった、いわゆる名義貸しの 点の二点を不法行為として主張した。 これに対し、裁判所は、いずれの点も建築主側の主張のとおり認めた。ところが、裁判所は、建築士等は柱梁部材の縮小や溶接方法の変更といった本件建物 の重大な瑕疵の発生に積極的に関与したわけではないので、全責任を負わせるのは酷であるとして、損害額の3割についてのみ賠償責任を認めた。 2 主張・立証上の工夫 (1)当初より、構造専門の一級建築士と組み、構造計算を行ったうえで、訴訟を提起し、訴訟追行した。途中、付調停がなされたが、その際にも、その一級建築士に出席してもらい、専門的な点につき説明してもらった。 (2)現地調停の際に、検査会社にも同席してもらい、裁判官及び調停委員の面前で溶接検査及び柱梁部材の寸法の検査を実施した。このことにより、施工の杜 撰さ、欠陥の重大性を裁判官、調停委員に印象付けることができ、その結果、調停委員からは取り壊し建替以外に補修方法がない旨の意見書が出されることに繋 がり、取り壊し再築費用等の賠償の判決に繋がった。 (3)ただ、訴訟提起から判決まで4年を費やしており、調停においては、構造計算を巡る空中戦が相当期間にわたり続いた。早期の段階で、溶接検査及び柱梁の寸法の検査を行うことの決断をしておれば、もう少し早い時期に判決を得ることもできたかも知れない。 3 所 感 (1)欠陥及び取り壊し再築費用等の賠償を認めた判決の論理展開は明解であり、建築士等の確認申請の虚偽申請責任、名義貸し責任を認める論理展開も説得的である。 しかしながら、建築士等の責任範囲を全損害の3割に限定した点については、虚偽申請の結果、構造計算もせず、鉄骨等の検査も免れた結果、本件で重大な 欠陥が生じたことや、工事監理がなされていれば、これらの欠陥が生ずることがあり得なかったことの理解が不十分といわざるを得ず、不当である。 (2)なお、建設業者の代表者の責任も追求したが、判決では否定された。 (3)現在、建築主側及び施工業者側より控訴がなされ、建築士等からも付帯控訴がなされ、名古屋高等裁判所に係属中である。 |
◎勝訴判決・和解の報告 [5]溶接欠陥等がある建物につき取り壊し再築費用等の損害賠償を認めた事例(名古屋地裁平成17年10月28日判決) 柘植直也(愛知・弁護士)
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