勝訴判決・和解の報告 [7]鉄骨造の溶接欠陥を認めた事例 (静岡地方裁判所平成17年4月27日判決) |
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弁護士 河合敏男(東京) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
Ⅳ コメント 1 判決分析(意義・射程・問題点等) (1) 本件は鉄骨ラーメン構造2階建て建物で、剛接合部分の溶接に関する超音波探傷検査の結果、35カ所中30カ所(85.7%)不合格であった。また、基礎が 設計図書と異なり現場サイドで偏心基礎に変更した結果、計算上、鉛直荷重が許容支持力をオーバーしていた。 (2) 判決は、まず欠陥判断について、「主要構造部の突き合わせ溶接すべき箇所が600カ所以上存在し、上記検査結果に照らすと、上記不合格率と同程度の溶接欠 陥が存在するものと推定される」とし、「本件建物は、建築基準法20条、施行令36条、67条等の法令上要求される最低限の構造上の安全性を欠くという重 大な瑕疵が存在する」とした。 (3) 次に、判決は、補修方法の判断基準について、次のように述べた。「請負契約に基づく瑕疵担保責任が債務の本旨に従った履行の実現をも趣旨とする制度である ことに照らすと、建築請負契約により新築された建物の瑕疵の除去を目的とする補修は、これにより注文者が契約で合意されたとおりの性質を有する建物を取得 できる内容とすべきであって、補修の結果、例えば建物の安全性に関しては同等の性能を備えるに至ったとしても、構造や意匠などの点に重大な変更を及ぼすこ とは、合意に反するものであって債務の本旨に従った履行とは認められないから、原則として許されないものと解するのが相当である」。同判旨は、最高裁平成 14年9月24日判決の「契約の履行責任に応じた賠償責任」との考え方を補修方法の判断基準にも及ぼすものであり、評価できる。 (4) 判決は、本件建物の経済的耐用年数を40年とし、建築後17年経過していることから、新築代金2350万円の17/40である1000万円を損益相殺によって減額した。この点は大いに疑問である。 (5) 施工者側は、合意により短縮した除斥期間経過を主張した。判決は、除斥期間短縮の合意について、「その趣旨は、通常容易に認識可能な不備、不具合にかかる 瑕疵に関する紛争を早期に解決終了させ、契約履行の安定を図ろうとする点にある」とし、「この合意は有効であるが、容易に判明しない瑕疵が期間経過後に初 めて発見されたような場合にはその適用はない」として、施工者側主張を退けた。この考え方は新判断であり、注目すべきである。 2 主張・立証上の工夫 (2) 訴訟の後半は、ほとんど相当補修方法に関する議論に費やされ、反訴原告は最高裁判例を引用して、契約の履行責任を強調した。また、現場溶接による補修が、 実務的にはほとんど不可能であるが、理論上は不可能とはいえないため、これをどのように論破するかに苦労した。その一つの理由として、溶接工事に起因する 火災の事例を多数引用し(黒磯市のブリヂストン栃木工場火災事件、漁船第三常磐丸火災事件、三菱造船長崎造船所豪華客船ダイヤモンド・プリンセス号火災事 件など)、可燃物の多い現状建物のまま現場溶接することの非現実性を強調した。東京消防庁の平成14年中の火災に関する概要の報告書によれば、都内で平成 14年中に工事現場や工事に関連して発生した火災、合計225件のうち、その出火原因が溶接・溶断に起因するものは、78件(34.7%)と、放火の81 件(38.6%)に次ぐ高率となっている。 (2) 本件は、溶接欠陥の補修方法について、双方の協力建築士の意見が真っ向から対立した。そこで、両者の証人尋問において、対質尋問が行われた。対質尋問は双 方代理人も裁判所もこれまで全く経験がなく、混乱に陥らないようにするために事前準備の協議が行われた。対質尋問は、代理人が建築技術的な部分も含めて、 十分な理解と事前準備がなされていない限り、却って証人同士が技術的議論に深入りして、混乱を招く危険があると感じた。 3 所 感 この事件は、昭和62年に建物引渡を受け、それから判決までに19年間を要した。私達代理人は、平成8年ころに当初の代理人から引き継いで本事件に関 わってきた。裁判官も何回も変わり、途中に関与したある裁判官は、建築上の問題点について内容を理解できず、しようと努力する姿勢もみせず、徒に期日が過 ぎるという期間があった。最後に判決を書いた裁判所の左陪席裁判官が、非常に優秀で、建築技術をよく理解し、争点を的確に把握してよい判決を書いてくれ、 感謝している。裁判官の能力によって審理が大きく変わることを実感した次第である。 本件は、施工者が訴訟中に民事再生手続に入り、一時落胆したが、再生債権の8割が支払われるという再生計画となり、訴訟を続ける価値があった。また、 依頼者ご本人は訴訟中に交通事故で亡くなられ、奥さんと子どもが裁判を引き継いでここまで頑張ってきた。裁判は控訴もなく、1審で確定した。それにして も、長期間を要した裁判であり、欠陥住宅被害の深刻さを感じずにはいられない。 |
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◎勝訴判決・和解の報告 [7]鉄骨造りの溶接欠陥を認めた事例 河合敏男(東京・弁護士)
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