証人尋問や鑑定をせずに判決に至った事例 (仙台地方裁判所平成15年12月19日判決) |
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吉岡和弘(宮城・弁護士) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
Ⅳ コメント 1 事案の概要 本件の主たる欠陥は基礎のかぶり厚不足である。その他、土台との緊結不良等、公庫仕様の不遵守箇所が10数箇所あった。裁判所は、付調停における調停委 員の意見を踏まえ、双方に和解勧告をしたが、その際、調停委員は裁判官の隣で1200から1300万円程度の補修費がかかるとつぶやいていた。しかし、相 手方は300万円以上譲歩しなかったため、判決に至った。 2 特徴 裁判所は、双方からの意見書が出された時点で、本件を調停に付したが、私は2人の調停委員(ともに建築士)と10回以上裁判官の面前で議論を戦わせた。 その結果、調停委員からは「補修費用は1300万円程度」との心証を引き出した。一方、相手方業者代理人も「補修費は200万円程度であり、それ以上、原 告の主張に反証を出すこともしない」などと発言していたこともあり、こうした経緯の中で、裁判官が付調停の場で早々と心証を形成し、裁判上の鑑定も双方の 建築士の証人尋問もせずに結審することを宣言した。私は、調停委員が1300万円という数字を出しており、裁判官もそれに異論を示すこともなさそうだった ので、進行に異議をはさまず裁判所の進行に従った。 3 反省と教訓 民事訴訟法の原則からすると、付調停の場で得た心象は民事訴訟に反映できないはずである。従って、本件裁判官の訴訟指揮と判決内容の正当性を根拠づけよ うとすると、理論上は平山建築士の意見書を証拠にして上記判決を書いたことになる。結局、付調停でのやりとりは平山建築士の意見書の当否を検討する機会に 費やされていたということにもなる。 いい心象を示す裁判官に直ちに判決を書かせたいと思うとき(裁判官に転勤が予想されたり、当事者が早期解決を願っているときなど)、よい調停委員がよい 意見を開陳している場合、敢えて証人尋問の必要性を強調して時間を徒過したり、相手方からの裁判上の鑑定申請が採用され、悪い鑑定書がでてくるよりも直ち に判断を求めたほうがいいという選択もある。 しかし、この手法は、万一悪い調停委員がついたり、悪い裁判官によって付調停が勧められている場合、証人尋問も鑑定もしないで結審されるとなると、きわめて危険な手法となる。 本件では慰謝料が小額になったり、また裁判官は「JASSは欠陥判断の基準と認めない」との判断が示されたりしている。原告本人尋問をしなかったことや、平山建築士の証人尋問をしなかったことがこれらの判断に影響を及ぼしているかもしれない。 そうした意味で、本件は、危険な手法ということかもしれないが、一方で、専門委員制度が導入された今日、裁判所は今後同種の手法を積極的に採用してくる可能性もある。本件手続の適否を議論してほしい。 |
◎勝訴判決・和解の報告 [2]証人尋問や鑑定をせずに判決に至った事例 吉岡和弘(仙台・弁護士)
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