Kさんの事案の報告 |
谷脇和仁(高知・弁護士) |
1 事案の概要 Kさんは、1994年2月の地元の高知新聞の広告を見て、F社の物件に興味を持ち、同年3月24日、高知市郊外の新興住宅地の物件につき、売買契約を締 結しました(注文建築)。物件は177.97平方メートルの土地に木造和型スレート葺2階建の建物、代金2630万円で、住宅性能保証制度に登録するとい う約束でした。同年6月に工事に着手し、8月27日完成引渡されました。 ところがKさん一家の入居直後から、次々に物件の欠陥が明らかになりました。代表的なものは次の通りです。 ① リビングから洗面所に向かう引き戸の開閉が出来ない。 ② 東西南北1階・2階の屋根の雨どいで雨水が逆流する。 ③ 玄関屋根・東側1階屋根・南面屋根が垂れている。 ④ ふすまには1センチ程度の隙間が開いている。 ⑤ 1階階段下の納戸の床に1センチ程度の隙間があり、風が吹き上げる。 ⑥ 駐車場の屋根が2台分のはずなのに1.5台分しかない。 2 提訴までの経過 Aさん本人が独自で交渉を続けた結果、F社は一部の欠陥を認めて追加工事を行い、住宅性能保証機構からも、業者が「積極的に対応する姿勢を示している」 との連絡をうけました。しかしF社はその後言を左右にして一向に誠意ある対応をみせなかったため、Aさんは自主交渉を断念。 その後、当職が受任して、2001年3月1日高知簡易裁判所に対し、調停申請しましたが、同年4月13日の第1回調停で、F社は「一切話し合いに応じな い」との回答。直ちに打ち切り。やむなく同年9月17日高知地方裁判所に対し、損害賠償請求訴訟を提起しました。請求の総額は1192万5000円(修復 費用840万円・慰謝料200万円・調査鑑定費用52万5000円・弁護士費用100万円)。 この裁判でAさんが、これらの欠陥を引き起こした原因として主張しているのは主として次の諸点です。 ① 敷地擁壁工事におけるコンクリート打設において、水増しが行われた。 ② 布基礎構造において、縦筋を折り曲げて定着させる構造になっていない。 ③ 1階部分の筋交いの不足。 ④ 2階部分の軸組みと1階部分の軸組みとの不整合。 ⑤ 玄関部分に柱を設置しないという当初設計のミス。 ⑥ 通し柱の真下に換気口を設置するという設計ミス。 ⑦ 屋根置式ベランダの支柱を桁梁の外側に出して設置するという施行ミス。 ⑧ 1階の柱が、構造計算で「NG!!!!」と指摘されるような、垂直方向の荷重に耐え得ない施工。 ⑨ 2階梁における、構造設計基準に適合しない木材断面の使用。 3 訴訟の経過 当初、被告は弁護士を立てず本人訴訟で応訴し、具体的事実関係については認否せず、原告が依頼して鑑定した建築士に対する個人攻撃に終始していました。そ の後、事実関係の論争に移り、原告側から詳細な主張と鑑定申請を出しましたが、被告側が十分応答できず推移し、2003年になってようやく被告が弁護士を 代理人に選任。 そして被告側から、個別の欠陥について十分な認否がないにもかかわらず、突然「補修の必要を認める部分についての工事は528万4125円ですむ」という書面が出されてきたため、和解の方向が探られはじめました。 本年4月の裁判官交代後、「和解にしろ判決にしろ、争点を明確にする必要があるので、原告側で争点整理表をつくってほしい。それを踏まえて建築士の調停 委員に現場を見てもらい、事実上の評価をしたい」との指示があり、原告から争点整理表を提出した後、調停に回付されました。そして、7月30日、裁判官の ほかに建築士の資格を持つ調停委員が本件現場を現地調停という形で視察し、原告の主張部分を詳細に見分。現在、それに基づいて、修復工事の内容・費用・住 宅性能保証の利用の仕方等について協議が続いています。 4 今後の課題 本件においては、当初被告側が本人訴訟で対応し、関係者の人身攻撃とも思える応訴態度に終始したこと、また代理人就任後も、被告弁護士が修復費用を積算して提出しながら、一向に和解に向けた努力をしなかったことなど、早期解決への障害となりました。 裁判官が交代して後、積極的なイニシアチブがとられ、現在和解協議が進行中です。今後、どれだけ徹底した修復工事が裁判所の和解案に盛り込まれるか、住宅性能保証機構の活用の仕方等が課題になると思われます。 |
◎Kさんの事案の報告 谷脇和仁(高知・弁護士)
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