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【補修方法の基準】 ―地裁判決と高裁判決の比較検討―

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2010年5月29~30日

吉 岡 和 弘(仙台)

第1 瑕疵と補修方法の判断

1 地裁判決

() 瑕疵判断→「設計図書等に従っているか、また、法令等の定めを満たしている場合には瑕疵がなく、これを満たさない場合には瑕疵がある」、「いわゆる事実上の安全性概念は瑕疵判断基準として合理的ではない」

()補修方法→「法令等は建築物の最低限の安全性を定めるものであることからすれば、建物の補修方法も原則として法令等における瑕疵がない状態に復帰させることが最も妥当な方法である」

2 高裁判決

() 瑕疵判断→「当該建物が設計図書等のとおりに建築されているかを検討し、設計図書等により工事内容が明らかにならないときは、建物の種類、請負代金の額、契約締結の経緯等、諸般の事情から契約内容を合理的に解釈して検討し、その際、建物の建築を規制する法及び施行令、告示、JASS等が契約内容になっていると解釈するのが合理的である」としたうえで、

①ひび割れにつき「乾燥収縮によるひび割れは瑕疵ではない。ひび割れ幅が0.3㎜までであり、内壁に発生しているため補修が不要である(鑑定)」

②かぶり厚不足につき「5㎜程度の不足ならば鉄筋の中性化年数と火災時のコンクリート及び鉄筋への影響は微少だから補修は不要であり、火災時に対する補修の必要性については、室内の用途、その室内に火災が発生する可能性、火災時の可燃物の存在、量等についても考慮する必要がある」

()補修方法につき「瑕疵に対する補修の要否は、法が要求する構造耐力と建物の現状を勘案して個別具体的に判断されるべきもの」とし、

① ジャンカ及びコールドジョイントの補修につき鉄筋アンカーによる鉄筋補強を行う。

② コンクリートのひび割れ補修につき可塑とう性エポキシ樹脂の注入や弾性系接着剤を用いた補修を行う 。

③ 鉄筋のかぶり厚さの不足の補修につき炭素繊維シートを貼る補修を行う 。

④ 開口部補強筋の欠落につき開口周囲に炭素繊維シートとこれを塞ぐ工事行う 。

⑤ 鉄筋アンカーは2001年改訂版既存鉄筋コンクリート造建築物の耐震改修設計指針・同解説に、エポキシ樹脂は平成13年国土交通省告示第1372号、公共建築改修工事標準仕様書及び鉄筋コンクリート造建築物の収縮ひび割れ制御設計・施工指針(案)・同解説に、炭素繊維シートは平成13年国土交通省告示第1024号にそれぞれ記載された方法であり、鑑定尋問結果ではいずれも補修方法として相当なものと認められる。

⑥ 被控訴人の主張は、建築工事完了後に建物に関する補修作業を行うときでも、当該建物の具体的な安全性や耐久性への影響の有無にかかわらず、すべて完全に上記主張に係る建築基準法条文に記載された材料を用いることを求めるものであるところ、同法をそのように解すべき根拠は認め難く、そもそも、瑕疵に対する補修の要否は、建物の安全性、耐久性を個別具体的に判断して決定すべきものであるから、被控訴人の主張は独自の見解というほかなく、採用し難い」

 

第2 高裁判決に対する反論

1 高裁判決は法令等に違反する補修案である

()鉄筋アンカー、エポキシ樹脂や弾性系接着剤、炭素繊維シートは、いずれも建築基準法37条、告示1446号が求める日本工業規格又は日本農林規格に適合した建築材料ではなく建物の主要構造部に使用できない材料である。

()建物完成後の補修は同法令を順守せずとも個別具体的に判断すればいいとするが、完成後の建物は建築基準法令等を無視していいとの誤った見解というしかない。

2 ひび割れについて

① 施行令は、骨材等の材料の選定(施行令72条)、打設時の養生(施行令75条)、型枠の除去期間(施行令76条)を厳格に指定し、もって、コンクリートの一体性や耐久性、剛性の確保を実現せよとしている。コンクリートのひび割れは耐力低下、剛性低下をもたらすから存在してはならず、設計段階では、仮にひび割れが生じるとしても、それは、あくまで「構造体表面」に、しかも「ひび割れ幅が0.3㎜を超えない」程度のものに抑えるよう設計目標にすることを求められているというのが法令等の考え方である。

② 日本建築学会編・鉄筋コンクリート造のひび割れ対策(設計・施工)指針・解説3・3・2・aは、「鉄筋コンクリート造の構造体表面に生じるひび割れ幅が0.3㎜を超えないように制限することを耐久性についての設計の目標とする」、「ひび割れが0.2㎜の幅になると水が浸入する」、「ひび割れ幅が0.3㎜未満であっても、ひび割れの存在は、耐久性、耐火性の観点からすると無視しえないとし、ひび割れ幅を0.3~0.1の場合ごとに計算をするよう」指示している。

③ 日本建築学会編・鉄筋コンクリート構造計算基準・同解説は、ひび割れ幅を0.3~0.1に設定した場合のひび割れ幅から定まる曲げモーメントの計算式を用意し、ひび割れの発生を未然に予防する設計計算法を指示したものである。

④ 同学会指針は、施行令36条、同72条、同75条、同76条を受けて、設計段階でひび割れは発生させてはならず、仮に発生したとしても「構造体表面」に「幅0.3㎜を超えない」ものにせよ、ひび割れ幅が0.2㎜になると水が浸入するとしている。同学会がひび割れ幅0.3㎜をもって許容基準にしているとの判断そのものに誤りがある。例えばひび割れ幅は0.1㎜で貫通ひび割れの場合もあり、同箇所の剛性はゼロになることに鑑みたとき、ひび割れは、単にひび割れ「幅」だけではなく、ひび割れ「深さ」こそ重要であり、ひび割れ幅はひび割れ深さを推し量る参考資料程度のものに過ぎない。

⑤ 同学会「鉄筋コンクリート造のひび割れ対策(設計・施工)指針・同解説付図3.5(甲第54号証4頁)では、ひび割れの発生によりコンクリートが鉄筋から剥離する現象が生じることを指摘している(藤島建築士の計算では、ひび割れ幅が0.1㎜の場合内部の鉄筋は68㎜コンクリートから剥離するとしている(同証2頁)

⑥ 本件では、5カ所に貫通ひび割れ、その余の3カ所も壁厚さの約半分にまでひび割れが達する深刻なひび割れであり、貫通部の剛性低下率は100%減、その余の3カ所の剛性低下率は32.7~57.7%である。

⑦ 日本建築学会・壁式構造関係設計規準集・同解説(同証65頁)表2「耐力壁の最小厚さ」は、平屋の耐力壁厚は12㎜、3ないし5階の耐力壁厚は15㎜、その他の階の耐力壁厚は18㎜などと壁の最小厚さを定めている。本件では5カ所もが貫通ひび割れで残存壁厚さはゼロ、最もひび割れ深さが浅い箇所でさえ残存厚さは121㎜(180-59)と平屋の壁並みの厚さしかない。

3 かぶり厚さ不足について

()判決

① 地裁判決は、「鉄筋は錆や火に弱いためコンクリートで被覆しておく必要があり、その役割を担うコンクリートのかぶり厚さは重要であり施行令79条が定められる厚さも最低限の厚さであってこれに特例は認められていないから、同79条、107条、JASS5・10・3に反し、瑕疵にあたる」と判示した。

② 高裁判決は、5㎜程度の不足は鉄筋の中性化年数と火災時のコンクリート及び鉄筋への影響は微少であるから補修を必要としない。火災時に対する補修の必要性については、かぶり厚さの不足が生じている室内の用途、その室内に火災が発生する可能性、火災時の可燃物の存在、量等についても考慮する必要がある。被控訴人は、かぶり厚さの基準は最低基準で理論的に1㎜たりとも不足させてはならず5㎜程度であって補修すべきと主張するが、瑕疵に対する補修の要否は法が要求する構造体力と建物の現状を勘案して個別具体的に判断されるべきものであり、上記数値不足を前提にしても具体的な建物の安全性、使用性及び機能性の見地から補修の必要がないとの鑑定の結果に照らして、被控訴人の主張は採用し難い。

()反論

① 施行令79条が定められる厚さは最低限の厚さで特例は認められていない。「5㎜程度は許される」、「機能性から許される」などとする根拠は全く示されていない。そうした解釈が可能なら施行令もJASSも厳格な規定を置く必要はない。法令等が要求する最低限の安全性を下回る施工を容認するだけで建築関係者に対する法的安定性を害する結果となる。施行令第79条、同107条を受けて、JASS5.10.3は、最小かぶり厚さおよびかぶり厚さの許容差を定めている。

② 法令等は、様々な研究成果を踏まえ、基礎、壁、梁、スラブなどの主要構造部のそれぞれにどの程度のかぶり厚さを確保すればいいかを検討し、それが建築界の通説となり、法令になり、建築関係者の共通の約束事になっている。

③ 「ごく一部だ」というが、被害者側から無作為に摘出した複数の個所から高い確率で同旨の瑕疵が発見された場合、同じ業者が同一建物の壁や基礎等につき、わざわざ違った型枠等を用いるはずもないから、ある数カ所で同旨の瑕疵が発見されれば、全体として壁や基礎等には同旨の瑕疵が存在するものとの事実上の推定が働き、業者側が建設当時の写真等や実際の破壊調査等をもって同推定を覆す反証に成功しない以上、壁や基礎等のかぶり厚さが問題となる各個所毎にほぼ同旨の瑕疵状態が現存すると看做すのが通説・判例である(例えば札幌地裁平成13年1月29日判決(消費者のための欠陥住宅判例[第2集] 86頁)

④ 本件では、無作為的に抽出した30箇所の調査を行った結果、基礎梁のかぶり厚は40㎜のところ17~19㎜、基礎梁のかぶり厚は40㎜のところ17~19㎜など、14箇所(約47%)にかぶり厚さの基準を大幅に下回る(中には鉄筋が露出している)箇所が確認された。

⑤ また、原判決は、「かぶり厚さの不足があるのが室内側でコンクリートは乾燥して中性化後の鉄筋腐食が極めて遅いから補修不要」とする。これまた前述したひび割れと同様、外壁と内壁とのを分けて補修の有無を決する根拠はなく、内壁だから補修は不要とするのは法令等の違反を容認する解釈である。

⑥ 更に、「タイル張りだから耐力上も耐久性上も補修は必要としない」とするが、タイルが張られた壁梁部分はかぶり厚不足があっていいなどとの見解は皆無である。施行令79条は例外を認めていない。

4 配筋間隔不良について

()判決

①地裁判決は、「配筋間隔不良は設計時に期待された強度を低下させ、JASS5.11.5.bに違反し、瑕疵となる。配筋間隔不良があっても基礎の強度に影響はないとの主張は事実上の安全性の主張であり、事実上の安全性の有無で瑕疵がないとすることはできない」と判示した。

②高裁は、壁配筋は設計上D10@200ダブルだが、壁量が多いので、D10@250ダブルで十分に構造耐力上の基準を満たしており補修は必要ではない。その余の筋の配筋間隔も設計上D10@200だが壁配筋の場合と同様配筋間隔不良の程度に照らすと補修は必要としない。

()高裁判決に対する反論

① 施行令77条は柱、同78条は梁、同78条の2は壁について、それぞれ鉄筋の配置等につき順守すべき規定があり、JASS5.11.5.bは、「鉄筋は、施工図に基づき所定の位置に正しく配筋し、コンクリートの打込み完了まで移動しないよう堅固に組み立てる」と規定し、表11・4では、スラブ、はり、柱について、各々、適正なる配筋間隔を指示している。

② 壁量が多いので、D10@250ダブルで十分に構造耐力上の基準を満たしており補修は必要ではなとの根拠として、鑑定人が示した告示1026号を援用している。しかし、同告示1026号は、施行令第36条の3項、剛性(壁さ)と靱性(鉄筋量)の確保規定に従ったものであり、法第37条及び告示1446号の材料品質とは別の規定である。

③ 施行令80条の2がプレキャスト板を現場で組み立てる際、接合部(目地)にモルタルを詰めて隙間を解消する必要がある場合に関する例外的規定であり、本件建物のように、現場で一体型の鉄筋コンクリート壁を造る場合にはモルタル等の技術基準は適用する必要はないものなのである。

④ 一体、何ゆえ、法令違反の施工が「建物の現状に照らして個別具体的に判断され」た結果、補修不要となるのか、全く理由が示されていない。また、鑑定人が「具体的危険性の有無を判断する」というなら、それはあくまで法令等を基準にした判断でなければならず、同法令等を離れて、同法令等の違反を容認するための便法として他の規準を援用するのは、法令無視というしかない態度であり裁判所はこれを容認してはならない。

5 1階郵便ポスト部分の開口補強筋の欠落について

()原判決は、平成13年国土交通省告示第1024号を根拠に「開口周囲に炭素繊維シートとコールドジョイントの地階の補修工事と併せて、これを塞ぐ工事を行い、新たに1階床面に地階床下点検口を設置する」(11頁)と判示する。

(2)炭素繊維シートが建築基準法37条に違反する建築材料であり是正工事に用いることは許されない。告示1024号は本件と無関係の規定であることは前述のとおり。

6 まとめ

① 当事者間では法令等を順守した施工を約したのに、高裁判決の補修方法は、同契約内容に反する補修案であり、裁判所が当事者間の合意内容を下方修正するに等しい。故意または重過失で手抜き・杜撰工事を行った者らに対する責任追及をする場面では、当初の契約どおりに是正せよと命じることこそ、法を守り、契約を順守させる裁判所の役割である。

② 建築基準法令等は、新築はもとより完成後もこれを順守することが要求されている(8条、9条)のだから、建築物の完成後に瑕疵が発見された場合も法令等が要求する状態に復帰させるための是正工事をなすべきことは建築物の最低限の安全性を確保するために不可欠な行為となる。

③ 高裁判決は、法令等の違反がある事実を「個別具体的判断」をもって手抜き・杜撰工事を事実上容認する判断となる。

以上

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