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パネルディスカッション 「シックハウス問題の本格的解決をめざして」 (3) 敗訴判決の報告 房川樹芳 (札幌・弁護士)

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パネルディスカッション
「シックハウス問題の本格的解決をめざして」


(3) 敗訴判決の報告
房川樹芳 (札幌・弁護士)

第1, はじめに
1, 敗訴判決の報告をするというのは, 弁護士として, あまり愉快なことではありませんが, シックハウスの判決が少ないことから, 少しでも参考になればと思い報告いたします。

2, 事案の概要
原告業者Xが, 被告注文主Yに対し, 平成8年 10月 10日の請負契約に基づき請負代金を請求してきたことに対し, Yは本件建物に入居直後から化学物質過敏症が発症したとして反対に損害賠償を請求した事案です。

第2, 判決の内容
1, 化学物質過敏症の発症について
Yは, 少なくとも医師が診断書を作成した平成9年 12月16日の時点では, 化学物質過敏症と呼ばれる症状が発症していたと認めるのが相当であるが, 化学物質が全く発生しない建材のみを使った住宅でしか暮らしていけないほどに重篤であると言い難い。

2, 化学物質の発生と化学物質過敏症の発症との因果関係について
Yは, 本件建物からの化学物質のみならず, 歯学部在学中に曝露したホルマリンや, 従前からの各種アレルギー・過敏症の総和によって本件化学物質過敏症が発症したと解するのが相当である。
Yの化学物質過敏症の罹患と本件建物に入居したこととの間には, 相当因果関係が肯定されるが, それが唯一の原因ではない。

3, 本件請負契約の内容及びその不履行とXの責任について
(1) 契約内容について
本件請負契約の内容はWHOのガイドライン値0.08ppmを超えないとするものでもなく, 化学物質が全く発生しないことを前提に本件請負契約を締結したことは認められない。
(2) Xの責任について
①Xは健康住宅をテーマとして宣伝しているから, 他の業者以上に健康被害等が生じないように注意すべき義務を負う。
②本件では,契約時,引渡時の当時, ホルムアルデヒドの放出量について指針となるべき基準はなく, 諸外国でもさまざまであったし,平成9年6月に至って厚生省の指針値が0.08ppmと示されたが, その数値も健康に対する影響が観察された濃度に安全率を加味したものよりも低い値である。
③そうすると,本件建物において, 0.1ppm程度のホルムアルデヒドを放出することが, 平成8年 10月ないし平成9年2月当時において違法であるとまではいえない。
④Xには, Yが本件建物に入居することにより化学物質過敏症が発生するとの予見可能性があったとはいえない。

第3, 問題点と今後の見通しについて
1, 化学物質過敏症の存在を認め, Yの症状も認めたものの, これまでの曝露やアレルギー等の総和によって発症したのであって, 本件建物入居が唯一の原因ではないとした点は問題が残ると思います。

2, 厚生省の指針値を定めた平成9年6月時点では注意義務の存在を認めず,予見可能性もないとされ, 横浜地方裁判所 98年2月 25日判決 (判例時報 1642号 117頁) と同様の判断ですが, 逆にいうと, それ以後の契約であれば認められることかと思います。

3, できれば, 契約内容に化学物質過敏症のことを盛り込むならば, 問題は少なくなりそうです。

4, なお, 本件裁判は控訴中です。
以上
ふぉあ・すまいる
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