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パネルディスカッション 「シックハウス問題の本格的解決をめざして」 (7) シックハウス問題での発言要旨 松本克美 (京都・立命館大学法学部教授)

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パネルディスカッション
「シックハウス問題の本格的解決をめざして」


(7) シックハウス問題での発言要旨
松本克美 (京都・立命館大学法学部教授)

シックハウス問題については、 既に生じた被害をどう回復するかという問題、 生じた被害のその後の予防という問題の二つに分けて法的構成を検討する必要がある。 とくに損害賠償請求権の消滅時効期間と起算点との関係で次のように整理できる。

1 被害の回復
(1) 債務不履行構成
①  「債務」 とは何か
シックハウス問題での最大の被害は、 健康被害であり、 これに対する損害賠償が問題となる。 これを債務不履行構成で考えた場合 (損害賠償請求権の消滅時効期間は10年。 民法167Ⅰ) に、 債務不履行の事実自体は損害賠償を請求する原告が主張・証明責任を負う。 従ってこの場合の 「債務」 の内容をつめる必要がある。 すなわち、 シックハウス被害のない建物を引き渡すことは、 それ自体が、 売買契約ないし請負契約の 「給付義務」 となっているのか、 それともこれら契約の信義則上の付随義務としての 「安全配慮義務」 の内容として位置づけられるのかといった問題、 つまり給付義務違反としての債務不履行なのか、 安全配慮義務違反としての債務不履行なのかである。 実践的には、 第一次的請求として給付義務の内容として、 第二次的請求として安全配慮義務を考えることもできよう。
② 消滅時効の起算点
債務不履行に基づく損害賠償請求権の消滅時効の起算点については、 本来の債務の履行期という考え方があり、 近時、 この点を確認する最高裁判決が出されている (最判1998・4・24判例時報1661・66)。 これによれば、 シックハウスのある建物を引渡した時点が時効起算点と解せそうである。 しかし、 シックハウスによる被害は潜在化していることが多い。 従って、 引渡しを受けた時点が権利行使可能時 (166Ⅰ) と言えるか疑問である。 この点、 同じく潜在的な健康被害が問題となるじん肺被害 (炭鉱など粉塵職場で粉塵を吸い込むことにより、 最後には死に至ることもある日本最大の職業病) に関しては、 損害の顕在化した時を起算点とするのが判例の立場であることが参考になろう (最判1994・2・22民集48・2・441)。

(2) 不法行為構成
判例によれば、 不法行為を理由とした損害賠償請求権の消滅時効 (期間は3年間。 民法724条前段) の進行には、 被害者において加害者に対する賠償請求が事実上可能な状況の下に、 その可能な程度においてこれを知ることを必要である (最判1973・11・16民集27・10・1374)。 従って、 シックハウス被害が潜在化している場合はもちろんのこと、 被害が顕在化しても、 それがシックハウスが原因であると認識できたことが必要と言えよう。

(3) 製造物責任
なお大会の議論で問題となっていたシックハウス建材の製造物責任についてであるが、 製造物責任法の損害賠償請求権の消滅時効の起算点は、 損害・加害者を知った時から3年間、 知らなくても引渡しの時から10年間である。 他方で蓄積型被害・潜在型被害の場合は、 損害が生じたときから10年間とされている点に注意を要しよう (5条2項)。 被害者にとっては使い出がある規定となるかもしれない。

2 被害の防止
(1) シックハウスを保持する場合
この場合は、 修繕・リフォームということが問題となろう。 その法的構成としては、 シックハウスが出たのは不完全な給付であったとして、 債務不履行に対する追完請求として、 或いは損害賠償として (修繕・リフォーム代金相当額の損害) 請求することが考えられる。 なお、 売買契約の場合は、 いわゆる現状引渡 (民法483) との関係が問題となるが、 これは前述の 「債務の内容」 論にかかわる問題である (シックハウス被害のない建物の給付が債務の内容であるならば、 不完全履行となる)。

(2) シックハウスを返却する場合
① 契約解除
この場合は、 売買契約ならば瑕疵担保責任による契約目的達成不能を理由とした契約解除 (民法570)、 請負契約でも建替が必要なほど重大な瑕疵があったとして契約解除を請求することが考えられる (建替費用相当額の損害賠償を認めた最判2002・9・24判時1801・77は請負契約の解除肯定の論理を内包していると思われる。 拙稿・本件判批・法律時報2003年 9月号参照)。 この場合、 売主の瑕疵担保責任の場合は瑕疵を知った時から1年間 (民566Ⅲ)、 請負人の瑕疵担保責任の場合は建物の種類により引渡時から5年ないし10年間。 民638)、 債務不履行ならば10年間 (167Ⅰ) となる (本来の債務の履行期が時効起算点とすると引渡時か)。
② 詐欺による取消・錯誤無効
その他、 真実は違うのにシックハウスでないことをうりものにして売却した、 建築を請け負ったような場合には、 詐欺による取消 (民96) や、 錯誤 (民95) による無効の主張も考えれる。 前者であれば、 詐欺に気づいてから5年間 (民126) の権利行使期間であるが、 後者においては明文上、 権利行使の期間制限はない。

(*時効問題については、 拙稿 『時効と正義――消滅時効・除斥期間論の新たな胎動』 (日本評論社、 2003) も参照していただければ幸いである)。

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