パネルディスカッション 欠陥住宅被害の根絶と建築士の役割 ~これからの建築士はどうあるべきか~ |
[2]パネリストからの寄稿 建築行政に携わる者から中間検査に対する私見 |
千代田区役所まちづくり推進部建築指導課 加藤哲夫(東京) |
兵庫県南部地震で施工上欠陥のある建築の多くが壊れたことを受けて建築基準法が改正されて5年近く経ちました。この改正の特長のひ とつが、これまで法令上工事竣工時に行う完了検査しか規定されてこなかったものを建築の構造物の特定工程の中間検査を法文に盛り込んだことです。さらに政 府の規制緩和方針に添って建築確認審査や特定工程の中間検査、完了検査が民間開放されました。 この中間検査を実施するかどうかは特定行政庁の判断です。鉄骨構造専門誌が全国の特定行政庁を調査したところ全国の都道府県のうち13県で中間検査が実 施していないことが報告されています。さらに政令指定都市を除き多くの特定行政庁で中間検査が実施されていない実態があります。 また実施されていても、国民の最も関心が高くかつ望まれていた木造住宅(3階建てを除く)は、堺市や横浜市など一部の行政庁を除いてほとんどの行政庁で当初から除外されました。 法的に位置付けられた中間検査の重要性 私はこれまでの建築行政の経験から、欠陥建築や不良施工を防ぐ大きなポイントのひとつに工事途中の検査を適切に実施することであると確信しています。し かし、中間検査の法的規定は時限立法で国交省は5年ぐらいで廃止することを考えています。私は中間検査を充実させることはあっても廃止することには反対で す。 住宅金融公庫融資を受けた物件は、中間検査が義務づけられていて行政による中間検査を受けて合格しないと住宅融資が受けられない仕組みです。構造仕様も 住宅金融公庫独自の厳しい基準がありそれをクリアーすることが条件です。この制度の効果で兵庫県南部地震では木造住宅の被災率は、住宅金融公庫の融資を受 けたものとそうでないもので大きく差が現れた実態があります。このような事実からも第三者による中間検査を実施することの意義とその効力は計り知れないも のがあります。 そこで、官民間を問わず金融や保険機関と行政が協力して中間検査を実施する第三者検査機関の検討など新たな仕組みをつくる必要があると考えます。 見直される中間検査 現在、特定行政庁に於いて中間検査の見直しが検討されています。平成16年度から実施が予定されていますが、その検討されている中身は現行どうり木造3 階建てと3階以上かつ500m3を超えるものを対象としているもの、木造を対象からはずすもの、これとは反対に木造建物のみを対象にするものやこれを機会 に中間検査そのものを廃止ししようとしている特定行政庁等様々です。 私の所属する千代田区建築指導課では現在法的に定められた対象建築物の特定工程の中間検査以外に建築基準法12条3項の報告制度を活用して可能な限り中間検査を実施しています。 これは、1975年の中小鉄骨の不良施工の実態をあらわにした「千代田レポート」や90年代はじめ読売新聞紙上で報道された不良施工や検査会社の不正な ど様々実態を知ることで建物の構造品質を確保するには第三者による中間検査が大変重要であることを肌身で感じているからです。 中間検査を強化し積極的に対応しようと考える行政庁もありますが、しかし、確認事務や特定工程の中間検査が民間開放され、特定行政庁で確認される件数が 大幅に減少される中で建築確認事務に携わる職員が大幅に減員され、実態としてその対応が非常に難しくなってきている事実が一方であります。 指定検査機関の問題 今年指定検査機関の一部が国交省の立ち入り検査を受け営業停止されるという不祥事が発覚しました。これは資格の無いものが中間検査に携わっていることが 発覚して処分されたものですが、これまでも一部の検査機関にゼネコンから派遣された社員によって確認図書の審査を受けたり中間検査を受けたことがあったよ うです。確認申請図書の審査や特定工程の中間検査は設計者でもなく施工者でもないいわゆる第三者によってなされてはじめて効力が発するものであると考えま す。したがって、指定検査機関の中立性が十分に担保されることも大変重要なこと考えます。その為の仕組を早急に確立させる必要があります。 現在、東海地震や東南海地震など巨大地震がいつ発生してもおかしくない時期に入っていると言われています。6000人を超える人命を失った9年前の兵庫県南部地震の大災害の記憶はすでに薄れ、相も変わらず欠陥建築や不良施工問題がおきています。 最近も、建築の業界とは直接関係はありませんが日本を代表する大企業で大事故がつぎからつぎと起きています。この現象の底流で起きていることは共通性が あり、それはコスト優先であり品質管理の軽視であります。長引く経済不況はこのことをさらに深刻なものにしています。今こそ原点に立ち返り、「安全はすべ てに優先する」ことを肝に命じる必要があります。 建築基本法の制定を いま一部の建築設計者、技術者、研究者、学者やジャーナリストが発起人となり「建築基本法」を制定しようとする動きがあります。建築基本法制定準備会の 設立趣旨によると『建築規制関連法規が建築の質を無視した政治と経済の力関係により立法化され、その意図が国民から見えにくくなっている現状を1日も早く 改めるための行動をおこすべきである。新しい建築へ向けて、われわれの住環境をより価値あり豊かなものにするため、真の公共の福祉考えて、それにふさわし い「建築基本法」の原案を検討し、その立法化の行動を通して、建築基準法、建築士法、都市計画法等の抜本的改定の際の理念形成のための出発点とする。』と 唱えています。 21世紀を真に人間性が尊重された豊かな社会にするために私たちは今こそ行動するときです。 |
(欠陥住宅全国ネット機関紙「ふぉあ・すまいる」第11号〔2004年4月28日発行〕より) |
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