パネルディスカッション 欠陥住宅被害の根絶と建築士の役割 ~これからの建築士はどうあるべきか~ |
[1]パネルディスカッションの概要 |
吉岡和弘(仙台・弁護士) |
1 問題の所在 「建築士がしっかりと建物の設計をして施工を監理さえすれば欠陥住宅被害は根絶できるはずなのにどうして欠陥住宅被害が発生し続けるのか、建築士に適切 な工事監理を期待するのは無理なのかを徹底議論をしてみよう」というのが長野大会のメインテーマを決めるにあたって事務局で議論した要点だった。一方、 JIAは建築家法の制定構想、建築士会は専攻建築士制度の立上げ構想を提示し、建築士のあるべき将来像を模索している状況下で、これら建築士側からの意見 をお聞かせ願い、私たちと意見交換をする中で、消費者のための家造りの方策等を見出すことはできないかという問題意識もあり、パネリストとして、建築士側 から日本建築家協会(JIA)副会長の小倉善明氏、日本建築士会連合会会長宮本忠長氏をお招きし、併せて日頃、良質な建築行政に奮闘されている千代田区役 所建築指導課の加藤哲夫氏をお招きし、また、アメリカからは元カリフォルニア州構造エンジニア協会副会長のトム亀井氏のご出席をいただき、私(吉岡)を進 行役として、それぞれの立場から上記問題について議論を展開していただいた。 2 トム亀井氏(元カリフォルニア州構造エンジニヤ協会副会長)の発言要旨 (トム亀井氏は、アメリカで生まれ12歳で渡日、学校卒業後アメリカへ帰り、構造エンジニアとして40年以上の実務経験を持つ方である。) 15年ほど前に買った伊豆高原の別荘を売却しようと考えて不動産業者に相談したところ、日本の住宅は20年が寿命で建物の価値はない、土地の値段でしか 売れないといわれ失望と驚きの念を抱いた。最近の材料・工法からすれば戸建住宅でも50年~100年は使えるようにすることを望みたい。アメリカでは建築 確認申請時に厳格な審査をすること、その際、建築主事と徹底した議論をすること、詳細な図面を作成し施工業者は図面どおりに施工することが常識になってい る。日本の最高裁が30センチ柱を要望したのに25センチしかなかったことについて判断したというが、アメリカでは図面に反した施工は契約違反であること は明らかで議論の余地はなく、そもそも裁判になどならない。設計変更の場合は、きちんと図面を作り直し建築主事の承認をもらって初めて変更が可能なこと、 インスペクター(筆者注・検査官)は要所要所で中間検査をなし、図面に反する施工には赤紙が貼られてやり直しを命じられる仕組がとられていること、違反に は厳罰をもって望むことなどを紹介したうえ、我が国の建築法制について、建築士の専門分野を明確にすること、インスペクションを徹底すること、事前チェッ クによる事前予防を是非充実させてほしいこと、職人の質の向上が大切であると考える。 3 小倉善明氏(JIA副会長)の発言要旨 建築家・弁護士・医師は三大プロフェッションといわれている。しかし、医師法や弁護士法と違って、建築家には倫理規定を定めた法律がなかった。建築士法 はあるが、昭和26年、戦後復興を早めるために作られた法律であり、先進国とならぶレベルまで復興すれば、欧米と同様の建築士法に改正すべきということに なっていた。建築士は技術的専門家であることだけで、職能としての建築家について特に定めていないかった。そこで、資格制度を作ろうという動きになり、昨 年12月1日から登録建築家の審査の受付を始めている。優れた芸術性・技術性をもった設計ができるかを国際的基準で審査し、それをクリアした人が倫理規定 を満たしているかを判断する。資格者は更新の要件として継続教育を義務づける。そして、登録建築家の写真、経歴、考え方、得意分野等をホームページで公開 することで一般人がこれらの情報にアクセスできることにする。こうした資格制度の創設の直接の目的は消費者保護にある。この資格制度は消費者のための資格 制度だと考えている。1つ1つの建築は良くても街全体としては良くない場合がある。依頼者は発注者とパブリックという視点が大切である。建築家は施主のた めに働くということと併せ、街並みをどのように構成するかという意識が日本でははっきりとしていない。ハウスメーカーやゼネコン、デベロッパーにも建築士 がいる。直接のクライアントもいるが会社もある。会社の利益を取るのか、発注者の利益を取るのか。発注者と施工者と設計者との役割を文書で明確化すること が重要だ。クライアントはあまりにも建築の勉強をしていない。食や衣については勉強があるのに、住に関しての勉強の機会がなかった。どのような図面が必要 か、市民教育も大切だ。依頼者と建築家がそれぞれの役割を理解することが欠陥住宅をなくすことにつながると考える。 4 宮本忠長氏(日本建築士会連合会会長)の発言要旨 現在、建築士は、1級・2級・木造の各建築士を合計すると、推計で96万人と言われている。しかし、登録更新制度がないため、現在、何名の建築士がいる のかわからない現状にある。元気に働いている人は60万人ほどかと思われる。連合会で業務の実態調査を行ったが、建築士会に入っている会員は有資格者のう ち約2割にすぎず、約8割が野放しになっている実態がある。建築士会としてショックを受けた。建築士法は資格法であり職能法ではない。業務独占に甘えて問 題を起こしている。 そこで、現在、建築5団体、即ち、日本建築士会連合会、日本建築家協会(JIA)、日本建築士事務所協会連合会、日本建築学会、日本建築業協会で専攻建 築士制度の導入を検討するための協議を行っている。その目的は、消費者が住宅を建てたいときにどの建築士を選定すべきかその情報がない。誰のための業務独 占かという視点から消費者保護を念頭に置いている。 欠陥住宅をなくすという視点からは、設計と工事監理の重要性が決定的だが、3回や4回程度現場に行くだけで家が建つと考えることは大間違いである。設計図は記号であり監理者は欠かせない。法律的に工事監理を何回すればいいかなどといっているのは許されない。 5 加藤哲夫氏(千代田区役所建築指導課)の発言要旨 鉄骨建築の不良施工問題に長年取り組んできた。その結果、中間検査制度の導入が不可欠と考えた。阪神大震災後、中間検査制度が改正建築基準法に盛り込ま れたが、どんな建物にどの範囲で実施するかは自治体の選択に委ねられたため、現段階では木造3階以外の戸建住宅につき中間検査を実施する自治体は少ない状 況にある。この範囲を拡大して中間検査を充実すべきと考える。一般国民の木造戸建建築を放置していていいのかという問題だ。しかし、一方で中間検査をする スタッフも不足しているし、国は時限立法だと言っている。阪神大震災では、住宅金融公庫の融資を受けていた木造建築の被害がそうでないものに比べて少な かったという事実がある。 また、規制緩和により民間に検査を開放したが、民間の確認検査機構が本当に消費者の視点に立ってやっているか検証を要する問題だ。 6 会場討論 では、どうやれば欠陥住宅を防げるのか。会場の参加者とパネリストから熱心で白熱した様々な議論が出された。要約すると以下のようなものであった。 ① そもそも工事監理とは何か、とりわけ戸建住宅の監理とは何か、その定義が建築士によって認識がバラバラなのではないか。改めて戸建住宅における工事監理の意味をしっかりと把握する必要がある。 ② 代願と名義貸しが横行している実態にメスを入れるべきだ。ここを正さないと高邁な監理概念を議論しても無駄だ。 ③ 現場に張りついて監理をするに等しい程度の監理をすべきだという意見に対し、建築士の経済的安定を保障する仕組が必要との意見もあった。 ④ 建築確認申請書の工事監理者欄が空白でも申請を通す行政に問題があるとの意見もあった。 ⑤ 建築士に対する懲戒や罰則を強化することで建築士の襟を正させるべきだ。併せて主務官庁や建築士会らは違反した建築士の氏名公表をすべきだ(トム亀 井氏からはアメリカの自治体広報誌に違反建築士の氏名が掲載されている記事の紹介とその広報誌を提供頂いた)。 ⑥ 裁判所の慰謝料が低すぎる。違反者に対し高額の慰謝料を認めさせることが大切だ。 ⑦ 裁判にかかわる建築士(鑑定人、調停委員)が欠陥を容認するかのような意見を述べることが違反者をのさばらすことになる。鑑定人や調停委員の質の向上が緊急の課題だ。 ⑧ 設計・監理をした人が資格者なのか確認する方法がないというのは問題だ。登録番号さえ分からない。台帳もないという。名簿整備の必要がある。 ⑨ 完了検査さえ満足に行われていない現状が問題だ。東京都の場合、木造・非木造含め確認交付50970件、中間検査5266件、完了検査申請19493件となっている。完了検査の数字が低いことは明らかだ。 ⑩ 建築士団体に加盟しない建築士が多い。強制加入のようにならないのか。 ⑪ 我々、全国ネットや消費者側から、『消費者が望む建築士』を公表してはどうか。登録建築家制度、専攻建築士制度と矛盾しないのではないか。 ⑫ アメリカでは消費者擁護のため、アーキテクトやエンジニアは社会に役立っていることを証明しなさいとされている。日本でも参考になろう。 7 おわりに 以上の議論を踏まえて、今後、全国ネットとしてどのような取り組みをするのか、引き続き検討していくことにして、取り敢えず本日の議論を終了することにした。 (なお、本記事は当日の議論の要約であり、また、要約内容の責任は全て原稿をまとめた吉岡にありますことをお断りしておきます。) |
(欠陥住宅全国ネット機関紙「ふぉあ・すまいる」第11号〔2004年4月28日発行〕より) |
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