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勝つための鑑定書づくり 纐纈誠 (愛知・建築士)

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勝つための鑑定書づくり
建築士 纐纈 誠(愛知)

名古屋において 「欠陥住宅をつくらない住宅設計者の会」 が設立されて6年になります。
私は設立時から参加し、 数十例の調査・鑑定を行なってきました。 その過程において会員同志また弁護士を含めた勉強会を重ねることで 「鑑定書の書き方」 も見えてきました。
鑑定書には多様な必要性が生じてきますが、 今回は 「勝つため」、 その中でも裁判官に向けて鑑定書を有効なものにするために建築士に出来ることを報告します。

1. 勝つためには
勝つためには、 建築の専門家である一級建築士の作成した鑑定書が重要な意味をもつことは言うまでもないが、 その鑑定書を建築に関して素人である裁判官に対して有功なものにするに、 特に以下のことに留意する必要がある。
・分かりやすいものであること。
・説得力があること。
・建築士サイドの考え方や書き方をしないこと。 (建築士サイドの考え方や言いまわしでは理解を得にくい。 判断するのは裁判官であるから、 裁判官側に向けた書き方をする。)
・鑑定書は裁判に勝つためのものではあるが、 相手側に反論させない書き方をすることも必要である。

2. どのように書くか
a. 法令からの指摘
鑑定書には、 建築基準法・同施行令・同施行規則や住宅金融公庫工事共通仕様書等の技術基準のどこに (…法…条) に違反しているかを具体的に明示する必要がある。 これが一番分かりやすく、 説得力がある。
また、 添えてその法令や技術基準の制定趣旨の説明があると分かりやすい。
特に 「これはこうだから良くない」 とか、 「一般的にはこうだから間違っている」 などの書き方は建築に携わっている者にしか分からず、 建築の素人である裁判官には理解できないので、 説得力もなく意味を成さない。 また、 弁護士も十分に使いこなせないものになってしまう。
したがって、 「こう考える」 的な書き方ではなく、 断言できる材料を持って書かなくてはいけない。
悪くまでも、 建築の常識で闘うのではなく、 法の中で闘う意識がまず必要である。
b. 資料の活用
鑑定書作成にあたっては、 欠陥の根拠を示す資料が不可欠である。 たとえば、 建物の沈下に関するものについては、 地盤調査を行ない、 そのデータを基に沈下に至った原因、 また補修工法の選択理由を計算書等により明解にする。
また、 基礎の寸法やかぶりについてもコア抜きや非破壊検査等の検査によって、 法令と比較し具体的に数字で欠陥を指摘する。
こうした資料の活用は事実認定する上で有効であり、 相手側に反論の余地を与えないためにも必要である。 結果的に審理の長期化を防ぐことともなる。
c. 説明図面等の作成
鑑定書は裁判官へ分かりやすく説得力あるもととするには欠陥である原因・理由を順序建てて明確にしなければならない。 そこで、 写真、 図面、 模型等で現状と正しい施工方法を比較できる様な材料を添える必要がある。
簡単にその例を添える。
(例) 被害状況:断熱効果が期待できない。
要因:床のグラスウール断熱材が下がっている。 ・・・・・・・・・写真で説明
理由:断熱材の下がり止め用の受け材がない。 ・・・・・・・・・・・写真で説明
根拠:住宅金融公庫工事共通仕様書7・6・3に抵触・・・・仕様書の提示
補修方法:受け材を入れる。 ・・正しい施     工方法を写真または図面で説明
d. 見積書の作成
鑑定書には当然訴訟の根拠となる補修の見積書が不可欠である。 どの様な理由でこの見積りに至ったかの理由を明快に示さなければならない。
それには、 現状の確認と施工可能な工法の選択の根拠となる資料 (写真・説明図等) で具体的に分かりやすく説明する必要がある。
構造に係わる部分は補修できる限度がある。 得に基礎などは地盤の強度や敷地廻りの状況などにより補修できる工法の選択が変わり、 建て替えにまで発展する可能性がある。 (たとえば、 杭等で建物を支持しなければならないが重機等が入る空地が無いなど。)
状況の説明となぜその工法 (若しくは建て替え) に至ったかを明確にしなければ、 見積書が説得力の無いものになってしまう。

3. 今後の展望
9月24日の最高裁判決で鑑定人の大島巌氏は 「瑕疵は基礎構造及び木構造の本質に係わるもので建物全体におよぶ。 瑕疵部分を特定し、 修理の方法、 その工費の積算を集積して一つづつ直したとしても瑕疵を除去しえないため、 建て替えが必要。」 としている。
建築士から見ればこの様な瑕疵が非常に多い。 本当の意味での補修、 また本来の目的物までに回復する必要を常に痛感している。
今まで民法634条及び635条但し書きに拒まれていたものが、 大きく変わろうとしている。 今後、 訴訟の切り口も大きく変わるであろう。 したがって、 ますます鑑定書の書き方も重要になると考える。

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