河合敏男(東京・弁護士) |
本件は、 昭和58年建築の中古住宅 (木造在来2階建) の売買の事案で、 不同沈下 (最大1000分の7)、 筋かい、 火打梁の欠落及び緊結不良、 雨漏り及び白蟻被害による構造部材腐朽等の構造欠陥の存在する建物でした。 判決は、 土地建物の合計代金3200万円の内、 建物の客観的価値は0であるとして、 建物代金相当額である1280万円の賠償を認めました。 本件は、 技術上の点ももちろん争点となりましたが、 いくつか法律上の争点が議論されましたので、 ここでは後者について報告いたします。 一つは、 本件売買契約書に 「現状のまま」 の売買 (いわゆる 「現状有姿」 の売買) と記載があるが、 これは瑕疵担保責任を一般的に免除する趣旨か否か、 という解釈の問題です。 裁判所は、 契約書の 「現状のまま」 との記載は、 「単にあるがままの状態で売買するという意味に解するのが相当である。」 として、 瑕疵担保責任免除の特約との説を排斥しました。 買い主は、 契約前に物件を見ているわけですが、 「現状のまま」 であることを容認しているのは、 外観目視で分かる範囲内の経年変化による内外装の傷みや設備の不具合程度であって、 構造安全性の欠落即ち 「安全に居住できない可能性」 をも是認して買い受けたと解釈することはできないのです。 第2に本契約書に、 「本物件について、 別添 「付帯設備及び状態確認書」 に記載された内容と異なる瑕疵があった場合は、 売り主は買い主に対して、 その修復の義務を負う。」 との記載がありましたが、 これは瑕疵担保責任の特則か、 瑕疵担保責任とは別個の保証条項か、 という点が争点となりました。 最近は新築物件でも契約書とは別に保証書が添付され、 いろいろな項目毎に細かく保証期間が定められていることが多いようですが、 この保証書の法的性質について、 売り主の瑕疵担保責任の範囲を保証書記載内容に限定する特則の趣旨なのか、 それとも一般的な民法上の瑕疵担保責任を認めつつ、 これとは別個独立の保証を付け加えた趣旨なのか、 という点が問題となるのです。 これを論じた裁判例は見あたりませんが、 学説は両説分かれています。 瑕疵担保特約説は、 瑕疵担保責任の規定は任意規定であり、 当事者は原則としてそれと異なる約定ができることを前提として、 瑕疵が生じた場合におけるいかなる瑕疵担保責任を負うかについての特約をしたものであるとする見解です。 これに対して、 独立的保証契約説は、 保証契約は、 売買契約又は請負契約とは別の独立した契約であり、 修理や部品取替えによって不完全な履行を追完する給付が約束されているという見解です。 本判決は、 ①売買契約では瑕疵担保の効果として修理 (補修) が認められていない以上、 保障内容としての修補請求権は瑕疵担保の枠に入らない特約がなされていることになるべきであり、 瑕疵担保特約とはいえないこと、 ②本件売買契約は居住の用に供することを目的とした契約であり、 従って本件建物に居住するに必要な程度の安全性を有することが必要であると解されるから、 本件建物の瑕疵につき 「付帯設備及び状況確認書」 に記載された内容についてのみ被告が瑕疵担保責任を負うと解することはできない、 との理由で後説を採用しています。 この論点に関する詳しい文献としては、 浜上則雄 「品質保証の法的性質」 (ジュリスト494号14頁)、 北川善太郎 「品質保証と契約法」 (商事法務研究会・現代契約法Ⅱ) があります。 第3に、 売買の瑕疵担保責任における損害賠償額について、 履行利益の賠償か信頼利益の賠償か、 という古くからの論点があり、 また、 その額は物件の代金額の範囲に限定されるか否かという点も議論されています。 一般的に、 信頼利益は、 「当該瑕疵がないと信じたことによって被った損害」、 或は 「当該瑕疵を知ったならば被ることがなかった損害」 と、 履行利益は、 「当該瑕疵がなかったとしたら得られたであろう利益」 と定義されていますが、 具体的な適用に当たっては必ずしも明瞭でないのが実情です。 本判決は、 「瑕疵担保責任については、 …その損害賠償の範囲は、 いわゆる履行利益の賠償ではなく、 いわゆる信頼利益に限定されると解する。 そして、 買主はその物の品質等につき一定の信頼をして買ったのであるから、 売買代金と売買時の客観的取引価格との差額は、 前記信頼利益に属するものであり、 買主はこの差額を瑕疵担保による損害賠償として売主に対して請求できるというべきである」 とし、 本件建物は取壊建替えを必要とするから客観的価値は0であるとして、 建物代金相当の賠償金を認めました。 しかし、 同判決は、 賠償額は瑕疵ある目的物の価格が責任の上限となるとの理由から、 本件欠陥の調査鑑定費用、 補修期間中の住宅等借賃相当損害金、 引越費用の損害賠償を認めず、 この点については不満が残ります。 本原稿の校正直前に控訴審判決が出され、 残念ながら認容額が約 416 万円に減額されてしまいました。 これは建物代金相当額の評価に関する事実認定の違いによるものです。 法律論については、 建築士の調査鑑定費用を損害の範囲に含めた点で前進しており、 その他については1審と大きく変化はありません。 |
勝訴判決の報告 (2)中古住宅で建物代金相当額の賠償を認めた判決(東京地裁平成14年1月10日判決) 河合敏男(東京・弁護士)
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