売買代金相当額の返金を命じた事例 1審京都地裁平成15年9月3日判決、2審大阪高裁平成16年3月9日判決 |
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弁護士 田辺保雄(京都) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
Ⅳ コメント 1 判決分析(意義・射程・問題点等) (1) 売買契約の当事者(売主)についても、代表者の不法行為責任を媒介して、それが代表取締役の職務を行うについてされたものとして、上述の法的構成により、責任を負わせた点に特色がある。 このように構成することにより、瑕疵担保による売買契約解除と同等の効果(売買代金相当額の返還)を持たせながら、居住利益の控除(解除により遡及的 に所有権が売主に復帰し、買主は、引渡時以降の賃料相当損害金の支払義務を求められる)を免れることとなった。 (2) 修補可能性が唯一、争点らしき争点であったと思われる。しかし、被告らの主張によっても、1365万円の費用がかかるということであり、またかかる修補を 行っても、必要な基礎地耐力の確保が明確でないこと、1階駐車場部分に鉄骨フレームをいれて補強するという補修方法の主張があったものの、これでは、利便 性が低くなること等が指摘され、社会通念上の修補不能が認められている。 (3) 集団規定違反について原告が知っていたことが被告らから指摘されたが、判決では、単体規定違反まで知っていたとは認められないと判断されている。 (4) 建築士については、本判決でも、監理者としての名義貸しがないことを理由に責任発生を否定された。しかし、本件は、敷地を広く偽って2階建ての建築確認を 取得しており、この点、行為の悪質性があったと思われる。訴訟活動の中で、責任追及が甘かったのでないかと反省するところである。 2 主張・立証上の工夫 (1) 今回も京都ネットの山本正道建築士に多大のご協力を頂いた。構造耐力関係については、訴訟終盤に検討書が相手方から提出された。これによって、構造耐力の 回復が図られるような内容ではあったが、そもそも、費用が多額にかかること、利便性が著しく損なわれること(判決中に指摘された駐車場の利便性低下以外に も、室内に耐力壁を設けるというものであり、間取りの点で、契約時の利便性が確保できない)は明白であった。 (2) 訴訟提起時には、構造耐力と防水性能の欠如のみについて建物の欠陥を指摘していた。しかし、訴訟中盤で、修補可能性について、被告らから具体的な反論が出 た段階で、地盤調査を行い、基礎底盤の不足を指摘することができた。より修補の困難な瑕疵が判明するであろうとの見込みがあったからである。被告らから は、「既設基礎に後施工アンカーを打ち込」み、「これに新設基礎を施工し、両者を一体化する」との補修方法が可能であると主張がなされた。この点の証拠資 料として、旭化成の「ARケミカルセッター施工要領書」や理工図書発行の「耐震診断と補強法」が提出された。しかし、これらは、必要な底盤幅を有する既存 の補強に関する資料であり、底盤幅が不足する場合の補修方法となりえないと感じた。結局、上述の通り、地耐力回復についての具体的な数値について立証がな かったのであるが、底盤幅が不足する場合の適切な補修方法については、疑問が残るところであった。 3 控訴審について 建築士の関係は、原審判決で確定し、それ以外の関係では、被告らから控訴がなされたが、控訴棄却の判決がなされ、確定した(大阪高裁平成16年3月9日判決)。 控訴人らは、従前の主張について補充をしたが、紙面の関係で、このうち2点だけをとりあげる。 第1に基礎修補が可能であるとの主張についてであるが、裁判所は、「控訴人らが主張する修補方法によっても1365万円もの費用を要すること、本件建物 の基礎底盤の幅の不足について、控訴人らが主張する修補方法によって建築基準法令において必要とされる地耐力を確保することができるかどうかは明らかでな いこと等の諸事情を総合すると、本件建物は社会通念上修補不能であるというべきである」と判示した。 第2に、土地に瑕疵はなく、建物にのみ瑕疵があるので、契約中、解除できるのは建物部分に限定されるべきとの主張に対し、「被控訴人らは、本件土地及び 本件建物を一体として買い受けたものであり、本件建物の上記瑕疵によって本件売買契約全体が契約の目的を達することができないから、本件売買全体を解除す ることができるというべきである」と判示した。 その他、控訴審における新たな主張とそれに対する控訴審裁判所の判断は概略以下の通りである。 (1) 過失相殺 (控訴人らの主張) 建物が建築基準法に合致しないことを承知していたのであるから、少なくとも3割程度の過失相殺をすべきである。 (裁判所の判断) 被控訴人らが、建坪率及び容積率の規定違反を知っていたからと言って、被控訴人らに過失があったとは言えない。 (2) 居住利益との相殺 (控訴人らの主張) 購入後の居住利益により不当利得返還請求権を控訴人らは有しており、これを対当額で相殺する。 (裁判所の判断) 不法行為に基づく損害賠償請求権を受働債権とする相殺は許されない(民法509条)。 (3) 引換給付の抗弁 (控訴人らの主張) 売買契約の解除において双務契約の牽連関係が認められることの趣旨は、不法行為の損害賠償請求権との関係においても維持されるべきである。 (裁判所の判断) 民法509条の趣旨に照らせば、同時履行の抗弁権を有していると解するのは相当でない。 |
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(欠陥住宅全国ネット機関紙「ふぉあ・すまいる」第11号〔2004年4月28日発行〕より) |
勝訴判決・和解の報告[8]売買代金相当額の返金を命じた事例(京都地裁平成15年9月3日判決、大阪高裁平成16年3月9日判決) 田辺保雄(京都・弁護士)
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