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勝訴判決報告   (1) 木造3階建住宅の重大な欠陥を認め売買契約の解除を認めた事例(大阪地裁平成12年9月27日判決) 田中厚(大阪・弁護士)

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田中 厚(大阪・弁護士)

1 堺市からの調査結果の通知と欠陥の判明
原告は、 平成9年6月に土地付き木造三階建住宅を堺市内の不動産販売業者から約 3100万円で購入し、 同10月に引渡を受けて居住していた。 平成11年2月原告は突然堺市開発調整部から、 「建築基準法の定める構造基準を満たしていないように見受けられるので、 調査のうえ補修を勧める」 旨の通知を受け取った。
堺市は、 急増する木造三階建住宅の9割以上が建築基準法で定められた完了検査を受けていなかったことから、 平成10年に約 1000件の物件を対象に外部からの目視検査などを実施していた。 検査の結果、 そのうちの多くの物件に、 業者が建築確認を受けた設計を勝手に変更して一階に大きくガレージを設置したことなどによる耐力壁の不足などの構造上の欠陥が明らかになった。 そこで堺市は平成10年1月に約 600の所有者に調査結果を送付した。 本件はそのうちの一件であった。 堺市は右通知に併せて住宅相談会の案内も同封しており、 大阪弁護士会消費者保護委員会もこれに協力して相談弁護士を派遣していた。 私もその一人であったところ、 原告から相談を受け弁護士会を通じて本件を依頼されるに至った。
私はかねてから協力関係にあった平野憲司建築士に本件住宅について予備調査を依頼したところ、 ①構造耐力上必要な軸組長さの不足、 ②軸組配置の釣り合い不良、 ③筋交い及び火打ち梁の緊結不良、 ④布基礎のはつり、 ⑤外壁防火性能の欠如、 などの欠陥が明らかとなり、 現状の空間利用を損なわずに補修するには取り壊し立て替える他はないことが明らかとなった。

2 提訴と訴訟の経過
販売会社に買い戻しを要求したが応じないので、 平野建築士に正式鑑定を依頼し、 同鑑定書を書証として添付した上で平成10年10月6日大阪地方裁判所に提訴に踏み切った。 この段階で榊原美紀弁護士にも加わってもらった。 訴訟の相手方としては、 販売会社が中小企業のため資力不足の可能性も考慮して、 本件建物の建築主でもあった販売会社の代表者、 本件建物を建築した施工業者、 及び、 建築確認申請において監理者として届出をしておきながら何らの工事監理を行わなかった建築士も被告に加えた。
販売会社に対しては、 瑕疵担保責任、 債務不履行責任、 不法行為責任を根拠に、 その余の被告については不法行為責任を根拠に、 連帯して、 取り壊し建て替え費用相当額の支払をするよう求めた。
弁論準備手続のなかで、 裁判所は、 本件は特定物売買と考えられるが販売会社に瑕疵担保責任だけではなく債務不履行責任が認められるのか、 瑕疵担保責任の信頼利益に取り壊し建て替え費用が含まれるのか、 建築士、 施工業者に不法行為責任を問うているがその場合の被侵害利益は何か、 といった点に疑問を有していることが明らかになった。 そこで、 私は方針を転換して、 瑕疵担保責任による解除の除斥期間を経過しないうちに、 解除に踏み切ることにし、 主位的請求として解除を前提とした代金相当額及びその他の諸費用を請求し、 従来の補修費相当額の賠償請求は予備的請求とした。
販売業者は平成12年2月までに欠陥や補修方法につき建築士の鑑定書を提出すると言いながら、 同年7月になっても結論を記載した程度の簡単な意見書しか提出しなかったため、 裁判所は、 書証のみ取り調べて証人調をすることなく、 平成12年7月7日弁論を終結し、 同年9月27日判決が言い渡された。

3 判決の概要
判決は、 原告の主張する本件建物の欠陥ないし瑕疵を認め、 「本件建物の現状の空間利用を損なわずに本件瑕疵を除去し、 安全性を有する建物にするための補修方法としては、 本件建物を全て解体し、 新たな建物を再築するより他に方法がない。 そして、 本件建物にかかる補修方法によらざるを得ない瑕疵が存する以上、 本件瑕疵の存在により、 本件不動産を住居として使用するという本件売買契約の目的を達成することが不可能であるといわざるを得ず、 原告は瑕疵担保責任に基づき本件売買契約を解除することができる。」 と述べて、 販売会社に対し、 代金相当額のほか、 登記費用、 火災保険料、 住宅ローン保証料、 住宅ローン既払い金利、 契約印紙代、 固定資産税、 建築士調査費用、 慰謝料、 弁護士費用の賠償を命じた。
その余の被告については、 販売会社の代表者に対しては、 取引主任者として原告に対し重要事項の説明も行っていたところ、 その際に、 建築確認を受けた設計と異なる施工をしたこと及び本件瑕疵について全く告げなかったことを以て不法行為の成立を認め販売会社と連帯して同額の損害賠償をおこなうよう命じた。
しかし、 建築士と施工業者の不法行為責任については、 「単に、 契約に従った目的物の給付を受ける権利 (債務者の行為を通して債権者が獲得しようとしている利益) のような契約法上の利益が侵害されたというだけでは、 詐欺行為などがあった等特段の事情がない限り、 不法行為が成立する余地はない」 として否定した。

4 判決の評価とその後の経過
判決は、 本件建物の重大な欠陥を認定し解除を認め、 販売会社とその代表者に対する請求について、 慰謝料を減額した以外は全て認容したものであり、 それらの点では被害者の十分な救済を図ったものと評価できるものであった。 その意味で、 行政の調査が一役買った住宅購入者勝訴の判決として翌朝の日本経済新聞にも大きく報じられた。
しかし、 建築士と施工業者の責任を否定した点については、 審理中裁判所が疑問を表明していた不法行為の要件としての 「被侵害利益」 について、 原告は 「建築基準法令等の定める最低限度の安全性を有した住宅の供給を受ける利益」 であると主張していたにもかかわらず、 買主の売主に対する建物引渡請求権という債権を第三者が侵害したケースとしてとらえ、 不法行為成立の要件として詐欺行為などの特段の事情を要求した点には大きな問題がある。
現在双方控訴して大阪高等裁判所に係属中であるが、 同時期に大阪地方裁判所で出された判例 (上記のような限定的要件を定立せずに、 名義貸の建築士の不法行為責任を認めたもの) や、 これらの判決に関する立命館大学の松本克美教授の論文を証拠として提出して、 是正を求めている。
なお、 判決には仮執行宣言が付されていたので、 早速強制執行に着手したが、 販売会社及びその代表者とも不動産を所有していないようで、 預金債権の差押により 600万円余りを回収できただけであり、 完全な被害の回復には至っていない。  以上

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