片山文雄(大阪・弁護士) |
大阪地方裁判所平成 10 年 (ワ)第 4811 号事件 (判決の特徴) ① 建売住宅の欠陥概念を、 建築基準法に従って厳格に解釈 (いわゆる 「実質的安全性」の主張を完全に排斥) し、 耐火性能基準を満たさない本件建物を、 無価値の建物と断定。 ② 建売業者の欠陥に伴う責任を、 瑕疵担保責任に限定 (完全物給付義務は認めず)。 不法行為責任も、 瑕疵担保責任の損害額に限定されるとしたが、 前述のように、 本件建物の価値を無価値とし、 契約時の建物代金を全て損害と認めた。 ③ 建売業者 (法人) の代表者についても、 商法266条の3の責任を認めた。 ④ 建築確認の名義貸しをした設計者にも、 不法行為責任を認めた。 ⑤ 建売業者が耐火性能の試験結果の数値を変造して証拠提出しており、 この点を不誠実な応訴態度として、 請求認容額の 13. 9%を、 被告の負担すべき弁護士費用とした。 (事案の概要) 原告ら5名は、 大阪市城東区内の建売住宅 (鉄骨3階建て 準防火地域内) を、 平成8年12月から平成9年2月にかけて、 各自約 4200万円~4450万円で工務店から購入。 各原告とも、 入居の遅れ、 仕上げの不備等があり、 工務店が誠実に対応しなかったため、 一級建築士平野憲司先生に調査を依頼したところ、 耐火性能が法定基準を下回るものであることが判明したため、 補修費用・調査費用・弁護士費用等を請求して、 平成 10年5月15日提訴。 (請求の趣旨) 耐火性能を回復するための補修工事費として一戸当たり約 1320万円~1400万円 工事期間の代替家屋賃貸・引っ越し費用として一戸当たり 125万円 精神的慰謝料として一戸当たり 200万円 建築士の調査費用として一戸当たり 35万円 弁護士費用として一戸当たり約 168万円~176万円 合計一戸当たり 1860万円~1942万円 (法律構成) 対売り主 (法人) 瑕疵担保・債務不履行・不法行為 対売り主代表者 商法 266条の3・不法行為 対建築確認申請をした設計者 不法行為 (監理義務違反) ・ 対住宅ローン設定銀行 融資の際の調査・説明義務違反 (被告の主張) 売り主の抗弁 実質的耐火性能があるので欠陥ではない。 当該瑕疵について確認申請図面と異なる実際の仕様図を事前に交付しており、 原告が瑕疵を承認していたと主張 設計者の抗弁 監理契約を締結しておらず、 建築確認申請の代理を受任しただけ。 銀行の抗弁 建物の安全性について、 銀行には情報開示・提供する義務なし。 (審理の経過) ・原告側建築士の意見書 (耐火性能基準を満たさない部分の指摘と補修方法・補修費用を記載) は訴え提起の時点で提出 ・現地検分 (事実上のもの) ・現地で、 平野先生が、 簡単な燃焼実験 ・原告・平野先生・売り主代表者・設計者の尋問 ・和解決裂 ・判決言い渡し前日に、 外壁の耐火性能が法定基準を上回るという試験結果が出た (試験機関は日本建築総合試験所) として、 被告が弁論再開申立 ・弁論において、 試験結果報告書の原本提示を求めたところ、 法定基準を上回る試験結 果の数値を売り主の担当者が変造して裁判所に提出していたことが判明し、 売り主・ 売り主代表者・設計者の代理人が辞任。 (判決) 1. 建物の欠陥について 法定の耐火性能を欠く欠陥を認定 事前に耐火性能の欠陥を説明したとの被告の主張を排斥 (仕様書の交付を受けても、耐火性能が法定基準に満たない欠陥があることを専門家でない原告が判断することは不可能) 売買目的物が建築基準法所定の要件を満たしていることは当然の前提 2. 売り主の責任 瑕疵担保責任・不法行為責任を負う 特定物売買であるから、 債務不履行責任はない。 3. 売り主代表者の責任 代表者が積極的に基準法違反の建築・販売を推進したのであるから、 266条の3の責任を負う。 4. 設計者の責任 建築基準法が、 建築士による工事監理者の設置を義務づけた趣旨を、 「建築工事監理を適正ならしめることにより、 建築物の安全を確保し、 広く国民の生命、 健康、 財産を保護しようとしたものと解される」 と理解し、 建築基準法・建築士法を、 当事者以外の第三者に対する私法上の義務の根拠規定と解釈 工事監理契約を締結した場合、 「少なくともその建物が転売を予定されており、 建築士の義務違反の結果、 工事が設計図書の通りに実施されていないことにより、 建築主以外の第3者である購入者が不足の損害を受ける虞があることを知りながら、 何らの措 置も講じなかったような場合には、 その第3者に対し不法行為責任が成立しうる」 建築確認申請に際し、 建築士が工事監理者の名義を貸したにすぎない場合、 「実際に工事監理業務を受任しながら、 建築士と意を通じて監理業務を怠る行為と比較してもほぼ同様の違法性があり、 又、 違法建築への寄与程度もさほど異ならない」 「さらに、 その建物が転売を予定されたものである当の事情があることを知り、 又は容易に知り得た場合には、 違法建築がなされた場合に建築主以外の第三者が不測の損害を受ける蓋然性が高いのであるから、 なおさらその義務の程度は高いと言わざるを得ず、 それにも関わらず、 何の是正措置も講じなかったような場合には、 不法行為責任を負い、 違法建築により第三者が受けた損害の賠償責任を負う。 よって、 本件では、 不法行為責任を免れない。 5. 銀行の責任 調査義務を否定 6. 損害 本件建物売買契約における瑕疵による損害は、 建物代金から建物の実質的価値を控除した差額である。 この理は、 瑕疵担保責任だけではなく、 不法行為責任・商法266条の3の責任に関しても同様 なぜなら、 売買契約においては、 瑕疵修補請求が認められず、 解除の場合 (代金返還)を超える賠償を認めるのは不合理だから。 本件建物の代金は 1400万円 (消費税額から逆算) 本件建物の実質的価値はゼロ (耐火性能という重要部分に瑕疵がある) よって、 請求金額のうち、 1400万円の限度で瑕疵担保責任 瑕疵担保なので、 引っ越し費用等は認められない。 瑕疵に基づく損害とは別に、 調査費用として、 一戸当たり 35万円、 弁護士費用として200万円 (損害額の13. 9%) を認める (被告らが偽造証拠を提出して弁論再開申立をした点を厳しく評価)。 |
勝訴判決報告 (2) 耐火性能基準を満たさない建物は無価値の建物と断定(大阪地裁平成12年10月20日判決) 片山文雄(大阪・弁護士)
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