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台湾視察報告~阪神大震災を体験した一級建築士の見る被害状況と考察

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野口 志乃(兵庫・建築士)
5年前の阪神・淡路大震災の渦中にあって、 私は愛するわが街・神戸が壊滅的な被害を受け、 6,000人以上の人命が瞬時に奪われるという悪夢に遭遇しました。 建築士として、 また生き残った市民の一人として復興に向け猛進した5年間が過ぎつつあった昨年9月、 活断層直下型地震が台湾にて発生との報に接し、 同様の悲劇にある隣国の震災報道に為す術もなく心を痛めたものでした。
本来ならば、 隣国の震災復興の一連の活動の中で、 同じ震災体験者である我々建築士は直ちに視察、 または何らかの形での援助に赴く機会を作るべきであったかもしれません。 しかし実際、 一設計事務所に勤務する一介の建築士である私にはそれもかなわずに居りました。 従って中華民国消費者文教基金会から欠陥住宅被害全国連絡協議会に、 被害状況視察を前提としたシンポジウムへの出席をお求め頂いたのは、 実に得難い機会でした。 同じ被災体験を持つ神戸の一建築士として、 この視察の印象及び考察を、 ここに報告します。

*被害状況から見た二つの震災の相違点
同じ直下型地震であるにもかかわらず、 台湾と神戸との被害状況は非常に異なった様相を呈しています。 神戸の被害状況が極めて面的で広範囲にわたり都市域が壊滅状態にあったのに対し、 台湾のそれは非常に線・点的で局部的なダメージが目立つものでした。
この相違の主因の一つとして震源の深さの違いが挙げられます。 神戸では震源の深さが地表から約16kmと比較的深い位置なのに対し、 台湾ではその深さは約1kmと、 ほぼ地表付近で断層活動が生じています。 つまり神戸では震源から地震エネルギーが拡散しつつ地殻の中を伝播した結果、 地表の非常に広い範囲に被害を生んだ訳です。 一方台湾では、 地表に現れた活断層上にある建築物のみが、 主にそのものの建つ地盤の崩壊という物理的理由によって破壊されています。 両被災地の風景はこうした破壊状況の違いにより、 同じ活断層直下型地震でありながら、 大きく異なるものとなっています。
また、 都市域であるか否かによっても被害状況は大きく変わってきます。 台湾の震源地が都市部を外れていたのは非常に幸いでした。 インフラ被害が神戸に比べ少なく、 火災発生率も格段に低かったのは震源が都市域になかったからこそであると感じます。
しかし同じ活断層国家として、 神戸の悪夢が将来同じく大都市域である台北や台中・高雄等で起こる可能性は極めて高いと思われます。 だからこそ我々都市域の被災体験者が為しうる今後の情報提供の意義は非常に大きく、 また台湾のような極めて危機管理意識の高い国家はその情報をより有効に活用出来るでしょう。 今後の両国間でのより密な情報交換の必要性を切実に感じます。

*視察期間を通じて~台湾大震災から受ける疑問点と予測される今後の課題
倒壊した台湾の建築物を検証すると、 台湾の耐震基準や建築法規の遵守状況に対する疑問を抱かざるを得ません。 神戸でも数多くの構造上問題のある、 または手抜き工事に起因する倒壊建築物を我々は目にしましたが、 被害建築物の大多数は木造家屋でした。 しかし台湾は大陸の石造建築の流れをくんで、 建物の多くはRC造や煉瓦等による組積造です。 これらが台湾の被害建築物の主体であったことを考えると、 今一度RC造や組積造の耐震・構造基準チェックの必要性を感じるのです。 実際、 視察期間中もRC造で、 鉄筋のピッチや定着長さ・コンクリートかぶり厚などが明らかに不足していると思われるいくつかの倒壊建築物に遭遇しました。 柱・梁構造においても、 RC造のコンクリートの柱や梁と単なる煉瓦組積造の壁によるものが非常に多く、 同じRC造の耐震壁を交えたバランスの良い耐震設計の概念はあまり浸透していないように思われます。
台湾の建築法体系は、 我が国の建築関連法規をベースにして成り立っていると聞き及びました。 実際法文書をひもとき、 両者を比較してみてもそれらは驚くほど一致しています。 では現在、 台湾ではどのような法的チェックがなされ、 あるいはどのような検査体制が整っているのか、 先に述べた懸念すべきポイントも含めシンポジウム席上で積極的に質疑応答を重ねることを希望したのですが、 時間不足で果たなかったのは非常に残念です。
もっとも我が国が新耐震基準を採用したのは1985年、 台湾が耐震基準の見直しを行ったのは1998年です。 比率的にRC造の倒壊率が神戸で少なかったのは、 当然といえば当然の事かもしれません。 同程度に新耐震基準採用時期が早ければ、 台湾の被害もさらに最小限度に押さえられたことでしょう。 台湾で今回倒壊に至った建築物の殆どは耐震基準見直し以前のものと思われるからです。

*今後の大都市直下型地震に備えて~集合住宅は何を生かし、 教訓とすべきか
我々が神戸で震災後の様々な建築物の再建業務に携わる中で最も難行し、 複雑な事業要素を内包していたのは集合住宅の再建でした。 被災建物を再建するのか補修するのか、 新たに抱え込む二重ローンの中で住民の生活は立ち行くのか、 高齢で融資も受けられない居住者をどうするのか…誰もがこうした課題を解決しなければならない中で、 肝心の専門家すらはじめて直面するこの事態に何の解決策も持ち合わせず、 適切なアドバイスができないという状況が続きました。 しかし手探りで再建業務を続ける中で、 問題解決方法も含め、 我々は集合住宅ならではの良好なコミュニティづくりの達成など、 数々の貴重なノウハウを獲得するに至っています。
台湾は我が国以上に職住接近を希求する傾向にあり、 今や集合住宅は既に都市生活形態のスタンダードと言っても過言ではないでしょう。 隣国が、 来るべき大都市直下型地震への備えに際して被災集合住宅の再建・補修業務を日頃から想定することは、 隣国の都市状況を鑑みると何より重要であると思われます。
☆    ☆    ☆
我が国でも近年、 住宅品質確保促進法の施行や建築基準法改正・建築物に対する中間検査の義務付けなど、 遅まきながらも積極的に建築物の性能維持や消費者保護に努める試みがなされてきているのは周知の通りです。 一方台湾では団体訴訟制度の確立など、 欠陥住宅問題をはじめとする消費者問題に対応する仕組みが既にかなり先行し、 充実しているという印象を受けました。
こうした両国の制度・システムの相違点や実例についての情報交換はこれからますます不可欠なものとなっていくことでしょう。
ともに大震災を経て、 また、 それが一つの契機となって欠陥住宅問題に対する消費者意識が高まりつつある昨今、 その被災体験を教訓とし、 今後のより良い住環境の創設に努めることは我々にとって必要でもあり、 また急務なのではないでしょうか。

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