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品確法の実施状況と既存住宅に対する性能表示・評価制度の導入 重村達郎 (大阪・弁護士)

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重村 達郎 (大阪・弁護士)

品確法に基づく性能表示住宅については、 昨年末で約6万戸の設計段階での評価書の申請がでている状況にある。 新聞のチラシや広告でも、 性能評価住宅であることを売り物にする新築住宅の宣伝も少なからず見受けられるようになった。 当初、 初年度は年間10万戸、 5年後の制度安定期には年間新築住宅戸数の約40%にあたる50万戸の利用を想定していたことからすれば、 景気の低迷もあって出足は鈍いものの、 この住宅性能表示制度は、 建築基準法改正における性能規定化、 及び品確法で全ての新築住宅について建物の基本構造部分の10年間の瑕疵担保責任が定められたことと相まって、 まずは良質な住宅のストックにむけて着実な一歩を踏み出しているといえるであろう。
ただ、 国土交通省が公表している同制度の実施状況に関する資料によれば、 次のような問題点が指摘できる。
まず、 個別住宅での利用が比較的少なく (1万戸強)、 うちプレハブ住宅が60%近くを占めているうえ、 マンションでの利用に偏っていることである。 このことは、 客観的な住宅性能の比較と個別性能の特性による住宅供給及び購入のインセンテイブを与えることにより、 設計の自由度の拡大と中小の工務店でも技術力と商品開発力さえあれば勝負できる環境を作り、 設計・施工一括請負ー坪単価方式と重層的な下請構造に乗っかった建築業界の旧い体質を打破して、 建築士の独立性の強化と業界の活性化を図るという同制度のもう一つの狙いが十分機能していないことを示している。 これには、 中小工務店では未だ性能規定化、 性能表示ー評価制度に即応した技術力、 検査体制が整っていないということの他に、 基準法改正及び公庫融資住宅における中間検査に加えて、 この制度の利用による4回の建築途上での検査が重複し、 その結果、 一定調整が図られているとはいえ、 煩雑な報告書作成を要するとともに現場工事の段取りがつきにくいためにこの制度の利用が敬遠される傾向にあるという現実的な理由も否定し難く、 利用しやすくするための是正措置が必要である。 実利を重視する大阪を始め関西において、 性能表示住宅の利用が人口に比して低い傾向にあることは、 現制度の経済的合理性にやや問題があることを暗示しているようにも見える。
第2に、 設計段階で性能評価書の交付を受けながら、 建設段階で評価書の交付申請をしない業者が、 統計上、 2―3割近く存在していることである。 これは、 性能表示住宅であることを売りにして顧客を誘引し、 設計しながら、 建設段階では第三者機関ではなく自社による性能評価に切り替え、 責任軽減を図ることを意味する。 即ち、 同法によれば、 評価書を交付した場合はそれが契約内容とみなされ、 できあがった住宅が評価書と異なっていれば契約責任を追及されるからである。 しかし、 完了―引き渡し段階での性能を第3者評価機関がきちんと検査するのでなければこの制度を利用する意義は半減するし、 また、 建設性能評価書のあることが各弁護士会内に設けられた住宅紛争審査会への申立要件になっているのであるから、 同制度の運営や利用にも支障をきたす。 従って、 このような制度本来の目的に背く潜脱的な利用を制限するための手当てが必要である。
今後とも、 住宅性能表示制度の積極的な利用にむけて、 融資や税制面での優遇措置、 及び広報につとめることはもちろんであるが、 上記の点について改善がなされ、 消費者にとっても多様な選択・利用の機会が提供されなければ、 規格化住宅やプレハブ住宅に適用される型式性能認証制度等の利用とそれに伴う建築確認・検査の簡易化等、 この制度が結果的には大手住宅メーカーにとって使い勝手のよいものに終わり、 また、 規制緩和による民間建築確認・検査機関の創設等ビジネスチャンスの提供、 異業種大資本の新規参入と、 ひいては旧建設官僚や自治体建築主事0B等の新たな天下り先・再就職先をつくっただけになりかねない。
更に、 国土交通省は既存住宅 (中古という言葉はイメージの点で敬遠されたらしく、 当初案から用語が変更された) についても、 性能表示―評価制度を本年7月には導入―即日施行する方向で、 現在鋭意検討を進めており、 同省では、 日弁連―各弁護士会に対し、 広く中古住宅をめぐる紛争についても住宅紛争審査会で扱ってほしい旨、 打診してきているところである。
もともと、 品確法では、 法改正しなくても、 大臣告示により中古住宅を性能表示・評価制度の対象とできるように制度設計されており、 現段階の案によれば、 全ての中古住宅について、 目視を原則として、 半日、 3-5万円程度の時間と費用で現場検査をし、 既存住宅について 「現況検査・報告書」 が交付される予定である。
この制度ができると、 ①自宅をリフォームする際の現況判断と修理の必要性・箇所の目安として利用したり、 また、 ②中古住宅やマンションを購入しようとする場合に、 この制度のモデルともいうべき米国のホーム・インスぺクション制度と同様に、 停止条件付売買として契約し、 この現況調査結果をふまえて購入価格やリフォーム代金の交渉に利用したりすることができる。 また、 ③中古住宅について現状の築何年という物差しから具体的な住宅性能を反映した価格査定システムの構築を促すとともに、 ④欠陥住宅の相談依頼があった場合の簡易な予備調査に代行するものとして利用することも考えられる。
しかし、 法律上は 「住宅性能評価書」 として取り扱われるとしても、 実態は目視をもとにした単なる 「現況調査報告書」 の域を出るものではない。 また、 新築住宅と異なり、 評価書の交付が必ずしも契約内容になるものではないとされ (その旨が表紙に明記される予定である)、 中古住宅売買における慣行ともいうべき 「現状有姿売買」 ―瑕疵担保責任の免除又は期間制限を否定するものでもない。
また、 新築住宅について設計及び建設段階での性能評価書が交付され、 建設途上での検査結果や工事監理報告書等もそろっていて瑕疵の有無の客観的な判断材料があることを前提に、 簡易・迅速な紛争解決ができる条件があるとして各弁護士会が住宅紛争審査会を受け入れた経緯からしても、 こうした新築性能表示住宅が中古になった場合はともかく、 およそ 「現況検査・評価書」 の交付をうけた中古住宅をめぐる紛争が広く持ち込まれることについて、 とりわけ地方の小規模単位弁護士会からは、 職員や紛争処理委員の負担増等もあって反対論も根強いところである。
従って、 既存住宅についての性能表示―評価制度の導入については、 前記の瑕疵担保責任との関係の整理、 宅建業法の改正を含めた住宅取得者への説明義務の徹底、 住宅紛争審査会における受け入れの範囲等について、 詰めた議論が必要である。
そのうえで、 所詮、 実態がこの程度の現況調査報告書であれ、 こうした制度を導入することが、 中古住宅・マンションの購入者に対する性能情報の開示とそれを反映した価格形成を通した中古住宅売買市場の適正化・活性化及び適宜のリフォーム等を促し、 個々の住宅についての修補・検査履歴台帳を整備することにより、 ひいては日本の住宅全体の質の向上につながるものとして一定肯定的に評価するのか、 それとも、 こんな不十分なものならば導入しない方がましであり、 中古住宅売買における瑕疵担保責任制限の厳格化ー特例制度の創設や、 欠陥住宅の撲滅にむけた宅建業法の説明義務の強化、 監理放棄建築士の処罰の徹底及び強制的な建築過誤保険制度の導入等のほうが先決であるとするか、 対応が別れるところかもしれない。
ネットの活動は、 個別欠陥住宅被害の救済から始まり、 現在でもそれが後を絶たない状況から、 引き続き粘り強く取り組むべき課題であることにかわりはない。 しかし、 その段階から、 現在では、 被害の予防、 更には、 自分だけがよければいいという発想ではなく、 住宅が都市及び都市計画において果たす役割、 街づくりにも眼を向け、 日本の住宅の質全体及び住環境をどう良くしていくかという視点で活動すべき時期にきていることは間違いない。 新築・中古を問わず、 住宅性能表示・評価制度は、 少なくとも、 こうした内在的な契機と問いかけを含むものである。 改革を恐れてはならない。

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