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国土交通省「建築基準法の見直しに関する検討会」についてのご報告

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2010年10月1日

弁護士 齋藤 拓生

1 はじめに

平成18年の建築基準法等の一部改正,建築士法等の一部改正(以下「18年改正」という。)は,構造計算書偽装事件の教訓に基づき,建築物の安全性についての最低基準である建築基準法令の遵守を実現するためのものであった。ところが,18年改正については,業界団体等から,「18年改正の結果,建築確認手続が大幅に遅延し,建築着工が激減している。」との批判が出された。そこで、国土交通省は、18年改正の問題点を検討するために、「建築基準法の見直しに関する検討会」を設置した。検討会では、構造計算適合性判定制度、建築確認審査の法定期間、厳罰化の3つを中心的検討課題として議論を行ってきた。平成22年月日に第1回検討会を開催し、同年月日までに、10回の検討会が開催された。

検討会のメンバーは、秋山和美(住宅生産団体連合会建築規制合理化委員会委員長),・・・・・・・(以下、別紙を基に入力してください。)となっている。

2 これまでの議論状況

  1. 構造計算適合性判定制度について

ア 対象範囲

特定行政庁の委員、判定機関の委員、弁護士委員からは、構造計算適合判定制度の対象範囲については、見直す必要はないという慎重意見が出された。他方、建築士団体や生産者団体の委員からは、「構造設計一級建築士が関与した場合に不要とする」、「自ら完成後の建築物を使用する予定の建築主が同意する場合に不要とする」、「サンプル調査を実施する」、「対象とならない建築物の規模等の範囲を拡大する」、「比較的容易な構造計算による場合は不要とする」といった多様な見直し提案がなされた。 結局、対象範囲を変更するかどうかも含めて一定の意見を取りまとめることはできなかった。

イ ワンストップ化

指定構造計算適合性判定機関が自ら引き受けた建築確認に係る構造計算適合性判定を行うことができるようにする所謂ワンストップ化については、三者性が確保されるような機関内での体制整備、必要な審査能力を有する人員の確保、審査上の役割分担の明確化等を条件として、賛成の意見もあったが、他方で、ワンストップ化による審査期間短縮効果は小さいとの指摘や、異なる組織によるダブルチェックを堅持すべきであるとの反対論も出され、意見の一致を見ることはなかった。

ウ その他の意見

「エキスパンションジョイントで接続された複数の部分で構成される建築物に関し、構造的に分離された部分ごとに制度の適用対象か否かを判断する」、「構造計算の大臣認定プログラム制度を廃止する」といった意見も出された。

(2)建築確認審査の法定期間について

建築士団体や生産者団体の委員からは、法的機関を短縮することを求める意見が出されたが、議論の結果、平成22年6月の運用改善後の実態等を見定めたうえで、結論をだすべきであるとういことで概ね意見の一致をみた。

(3)厳罰化について

性善説に立ち設計側に対するチェックを緩和するのであれば信頼を裏切った者は、より厳罰に処すべきとの意見、罰則は十分強化されているとの意見、刑事罰の強化よりも業務停止等の行政処分による制裁強化により対応すべきとの意見などが出され、意見の一致をみなかった。

(4)その他の議論、意見

① 工事監理・中間検査・完了検査について

これらを徹底する仕組みの構築が重要であるとの指摘が多くの委員からなされた。特に中間検査については、全建築物に義務付けるべきとの指摘や、地域の実情を踏まえた特定行政庁による特定工程の指定を促進すべきとの指摘がなされた。

② 既存不適格建築物の増改築等について

既存不適格建築物の増改築等については、既存部分の延べ面積の1/2を超える増改築についても構造規定の緩和措置の対象とすることを求める意見が建築士委員から出された。また、平成19年に施行された法改正により既存不適格となってしまった新耐震基準施行以降の建築物の増改築が制約されてしまっていることが特に問題であるとの意見も出された。他方で、現行の構造規定に対して既存不適格となる建築物がどの程度まで残ることを許容するのかについて社会的コンセンサスの形成がそもそも必要であるとの指摘や、緩和措置対象となる計画が構造計算適合性判定の対象とならないことは問題であるとの意見も出された。

③ 大臣認定について

平成19年施行の法改正以降、大臣認定の適用の厳格化等を図った結果として、認定件数が大幅に増大し、国土交通省側の処理能力の問題もあり、結果として着工前及び着工後の計画変更に係る手続き期間が長期に渡っていることは問題であり、複数仕様に係る認定や軽微な変更に係る取扱いの合理化等の改善を図る必要があるとの意見が建築士委員及び生産者団体委員から出された。他方で、、新技術の開発・活用の円滑化に向け、旧第38条の規定に基づく大臣認定と同様の技術認定制度の創設等、建築技術の進歩を推進する仕組の整備を求める意見も提起された。

④ 4号建築物の構造等審査省略特例を廃止すべきである。

⑤ 構造設計一級建築士制度は廃止すべきである。

⑥ 設備設計一級建築士制度は廃止すべきである。

⑦ 設備設計一級建築士制度において、建築設備士を活用すべき である。

⑧ 建築設備士に設計・工事監理の業務権限を付与すべき(又は建築士のもとでこれらの業務を可能とすべき) である。

⑨ 囃z士・建築士事務所について関係団体による自律的監督体制を整備すべきである。

⑩ 囃z士事務所法を制定すべきである。

(5)なお、検討会の議事の詳細は、国土交通省のホームページにおいて公開されている。

3 座長の中間とりまとめ案の問題点

以上のような議論状況を踏まえて、平成22年9月13日の第10回検討会で、深尾座長の中間取りまとめ案が提示された。とりまとめ案については、国土交通省のホームページに掲載されている。

座長の中間取りまとめ案には、次のとおりの問題点があると考える。

  1. 座長案には、「建築基準法を抜本的に見直すためのロードマップを早急に策定するが必要で

ある」との記述があるが、それは、本検討会の主要テーである「3つの検討課題」とは、直接的には関係がないし、当検討会においては,建築基準法の何をどのように抜本的に見直す必要があるのかについては,正面から議論していないのであるから、そのよう記述は、相当でない。

  1. 座長案には、「構造計算適合性判定を不要とすることが可能な範囲について精査することが

強く求められた。」と記述があるが、「構造計算適合性判定の適用範囲の見直しの是非、仮に見直すとした場合における見直しの範囲について精査することが強く求められた。」とすべきである。建築主事の審査能力との兼ね合いを問題とするのであれば、そもそも「構造計算適合性判定の適用範囲の見直しの是非」についても精査する必要があるからである。

  1. 座長案では、構造計算適合性判定制度の対象範囲を検討するための専門家委員会を設置する

としているが、委員会の構成員の人選にあたっては、構造計算適合性判定の適用範囲の安易な見直しがなされないようにするための配慮が必要不可欠である。当検討会において、建築士会、日本建築家協会、事務所協会等の建築士関係者、生産団体関係者の方々は、見直しに極めて積極的であった。そのような方々のみで、委員会が構成されることになれば、18年改正の趣旨が大きく損なわれことが危惧され,建物の安全性確保=消費者保護の観点から,極めて問題である。

4 今後について

上記座長案については、10月19日に第11回検討会を開催して、さらに、議論することになってい

る。座長案に対しては、何ら結論ないし方向性が示されておらず問題であるとの意見もある。しかしながら,検討会での議論を通じて、建築士団体及び生産者団体からの18年改正に対する見直し要請がある一方で,建物安全性確保=消費者保護の観点からは,18年改正の安易な見直しには,問題があることが明らかになり、見直しという方向で意見の一致を見なかったことは、大いに評価することができる。

建築物の安全性の確保を図るという18年改正の趣旨は、正当なものであり、今後もとも、堅持されなければならない。そのうえで、18年改正の結果、不都合が生じているのであれば、適宜の修正を図っていくべきである。18年改正の趣旨が堅持されるかは,これからが正念場であり,建物安全性確保=消費者保護の観点から,今後の国土交通省の動向を注視し続ける必要がある。

以上

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