日弁連カナダ・アメリカ調査報告 |
弁護士 千葉晃平(宮城) |
1 視察・調査概要について ▽日時=2002 (平成14) 年8月23日から9月1日 ▽調査地=カナダ (バンクーバー)、 アメリカ (ロスアンゼルス) ▽視察目的= 『中古住宅売買の実態調査及び日本におけるシステム導入の是非・問題点・参考点等の考察』 『日本の住宅新築における充実した中間検査の実現のための実態調査』 等 ▽視察団=弁護士吉岡和弘、 同岩城穣、 同河合敏男、 同重村達郎、 同粟生猛、 同鈴木覚、 建築士芦澤弘樹、 伊藤瑞穂 (吉岡事務所事務員)、 丹野美里 (同)、 弁護士千葉晃平 2 カナダ~バンクーバーにおける視察 カナダ (バンクーバー) では、 伊藤公久氏に視察先のアレンジをお願いし、 充実した視察ができました。 伊藤氏は、 ブリティシュコロンビア州 (BC州) のプロフェッショナルエンジニアの資格を有し、 一般住宅技術開発機関であるカナダ連邦政府住宅ローン公社 (CMHC) 認定国際建築技術指導員として活躍され、 年5回ほど日本を行き来されている方です。 (1) カナダの建築法制 まず、 前提としてカナダの建築法制について概観しますと、 カナダ全体では、 NBC (NationalBuildingCode) という建築基準法が定められています。 NBCは、 カナダ国立研究所の建築部門が研究開発して定めています。 各州は、 NBCの技術基準に関する条例を定めることができ、 州によってNBCの取り入れ方が違っています。 例えば、 バンクーバーがあるBC州は、 NBCをそのまま取り入れているが、 他の州ではそうでないところもあるようです。 さらに、 市町村は、 BC州の基準のテクニカル部分を変えることができ、 バイ・ロー (By-law、 条例) という形で、 その土地・気候に応じて、 建ぺい率、 容積率、 後退距離などを定めることが出来るとのことです。 また、 建築許可の受託・審査、 インスペクションが各市町村の義務付けられた仕事となっているそうです。 以上を大雑把に言えば、 『国は最低基準を定めるが、 土地・気候等は地方によって異なるのだから、 それは地方が実情に応じて決めればよい』 ということのようです。 また、 カナダでは、 日本の建築士と異なり、 アーキティクト (意匠設計) とエンジニア (構造設計) とに分けられており、 エンジニアは建物を安全に設計するための資格が必要とされ監理義務を負い、 そのために責任保険に入っており、 責任の所在は明確かつ厳格であり、 日本におけるように名義貸しということはあり得ないそうです。 (2) カナダ (バンクーバー) での新築住宅の検査制度 では、 カナダ (バンクーバー) での、 新築住宅の検査制度をみてみます。 カナダ (バンクーバー) の建物新築に際してのチェック制度は、 多数の関係者が関与してそれぞれの視点からチェックを行っている上、 それぞれの検査内容は厳格かつ各段階ごとに実施されており、 それらが、 欠陥建物の防止という目的のために有効に機能しているとのことでした。 検査を行うものは行政のインスペクター、 スーパーバイザー (現場監督者的な者)、 設計者、 施工者、 保険会社のインスペクター等でそれぞれに役割分担・責任範囲が分けられており、 各施工段階で実質的な複数のチェックが入るシステムになっています。 時系列でみれば、 基礎工事→建て方→上棟→外装・内装→完成という各段階でインスペクションが入り、 項目的には建物の全体、 電気、 ガス、 衛生設備に分かれるようです。 そして、 各検査主体でなにが異なるのかといえば、 行政によるインスペクターは、 基本的に、 「Safety and Helth」 (安全と健康) という基準に対して矛盾がないかどうかという観点からのインスペクションであるが、 それ以外の内容、 例えば、 曲がり・小口が合っているか等のチェックは、 スーパーバイザー (現場監督) やプロフェッショナルエンジニアの範疇となります。 項目上は行政のインスペクションとプロフェッショナルエンジニアによるインスペクションとダブルチェックになる部分もありますが、 実際上は、 プロフェッショナルエンジニアよるインスペクション及び報告書があれば、 行政のインスペクションは簡易に済まされているようです。 また、 保険会社も、 住宅の品質 (クオリティ) に重点を置いており、 保険会社におけるインスペクションが通らないと、 入居許可が下りない仕組みになっており、 保険会社のインスペクションは重要かつ効果があるとのことです。 (3) カナダ (バンクーバー) の中古住宅売買における検査制度 次に、 中古住宅売買における検査制度ですが、 カナダ (バンクーバー) ではアメリカ (ロスアンゼルス) のようなエスクロー制度がないこともあり、 紙面の都合上省略させていただきます。 3 アメリカ~ロスアンゼルス~における視察 アメリカ (ロスアンゼルス) では、 トム亀井氏にディスカッションのアレンジをお願いし、 充実した議論・説明を受けることができました。 亀井氏は、 カリフォルニア州在住の建築家でアメリカ建築家協会の副会長を務められていた方で、 ご自身もロスアンゼルス中心に既に5回ほど中古住宅を購入・転居された経験を有するとのことでした。 1996年のアメリカ (ロスアンゼルス) 視察際にもご尽力いただいた方です。 アメリカ (ロスアンゼルス) における視察、 といいますか今回の視察でのとりわけ報告に値するのがエスクロー制度と思われます。 新築時のインスペクションについては、 96年視察報告もありますから、 ここではエスクロー制度を中心に報告いたします。 まず、 アメリカ (ロスアンゼルス) における既存住宅売買の流れをみてみますと、 売りたいときはまず不動産業者に頼む。 そうすると、 インターネットで全米の不動産を閲覧することができるシステムにのり、 オープンハウスで公開したりする。 買い主、 売り主のブローカーは別になっているのが通常とのことです。 交渉の開始は、 カウンタオファーと呼ばれる定型の書面を相手方にファックスすることから開始されます。 それに対して、 種々条件を記載した書面を送り返す。 これも定型書面ですが特約事項的なことについてはその記載欄がある。 上記のようなやりとりを数回重ねて、 各項目について合意をしていき、 契約が成立する。 契約の成立は、 契約書に署名欄があってそこに署名することによって成立仕組みである。 上記交渉の開始以降契約成立までにやりとりされた書面が一式契約書となるとのことです。 すなわち、 日本のごとく 『契約交渉過程』 後に正式かつ簡潔な 『契約書』 が交わされるのではなく、 契約交渉過程で出された諸条件に関する各合意がすべて契約内容となるのです。 契約書自体は複数枚にわたり一見すると契約内容が判別しにくいのではないかと思われますが、 後日紛争が生じた場合には、 合意事項をフィードバックできるので紛争解決には有益です。 そのうえで、 成立した契約書をエスクロー事務所へ持参する。 これを 『エスクロー・オープン (エスクローを開く)』 というそうです。 エスクローの指定は、 売り主あるいは買い主からします。 売買契約書に指定がされています。 エスクローに契約書と小切手 (3%ほどの頭金) を持っていき、 エクスローインストラクションを見せら、 エスクローによってはタイムテーブルを双方に渡します。 費用は折半されます。 売買契約書には、 『インスペクションは何日までに行う』 『ディスクローズは何日まで行う』 『何日までやらなければ契約放棄する』 『欠陥があれば減額する』 『ローンが下りなければ (審査は通常21日間) 無理由解除可』 などとの条項がいくつも定められておりエクスローはそれの実現を確認していく。 エスクローの重要な仕事として、 タイトル・インスアランス・カンパニー (名義の権利を保証する保険会社) から、 名義のレポート (タイトルレポート) をもらってくる (このタイトルレポートの仕事が必要とされるのはアメリカ (ロスアンゼルス) の歴史的事情によるようです)。 エスクローの日数は契約上1ヶ月などと決められているが、 平均して45日位が多いとのことです。 駆け足ですが、 以上が中古不動産売買の流れ及びエクスロー制度の概要です。 なお、 エスクロー制度 (ESCROW) 自体は中古住宅売買に限られた制度はありません。 エスクローとは、 信託であり、 エスクロー・オフィサーが一時的に売買のお金を預け、 固定資産税の支払いや名義の確認をチェックしてお金の受け渡しをすることをいい、 日本でインターネットで 「エスクロー (エスクロウ)」 を検索しますとネット売買なんかがでています。 4 さいごに 他にも、 カナダ (バンクーバー) でも欠陥住宅問題が多いこと、 保険システム、 カビ等が大きな問題となっていること、 歴史・文化の根本的違いによる欠陥住宅発生原因の相違・中古住宅流通の多さなどご報告すべきことが多々あり、 それらを基に日本への示唆についても言及させていただきたいところですが、 紙面の関係上、 それらについては報告書 『カナダ・バンクーバー アメリカ・ロスアンゼルス視察報告書~日本の住宅新築における充実した中間検査の実現と中古住宅売買における新たなシステム導入への示唆』 へ譲り、 取り急ぎ私からの報告とさせていただきます。 |
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