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欠陥住宅をめぐる判例・学説動向と今後の課題

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松本 克美(京都・立命館大学教授)
1 欠陥住宅の建築者の責任
欠陥住宅の注文者が建築者に損害賠償などの民事責任を追及をする場合の法的構成の中心は、 請負契約上の瑕疵担保責任 (民法634条以下) になります。 その場合の最大の論点は、 建物の瑕疵 (欠陥) が重大で建替えが必要な場合に、 a契約解除をして、 請負代金の支払義務を免れたり、 既に支払った請負代金の返還を請求できるか、 b或いは再築請求ができるか、 c建替費用相当額の賠償金を請求できるかという点にあります。
abcのいずれも否定するのが従来の通説 (我妻栄、 内山尚三、 後藤勇など) と言われてきました。 欠陥住宅ネットの弁護士さんからも、 こうした通説の考え方に支配されている裁判官が多いと聞きます。 しかし、 これらの問題を欠陥住宅につき正面から判断した最高裁判決は少なくとも公刊された判例集にはなく、 下級審判決では肯定例も蓄積されてきています (大阪高判昭58・10・27判時1112・67、 大阪地判昭59・12・26判タ548・181、 神戸地判昭61・9・3判時1238・118など。 近時の判例動向については末尾の判例集参照)。 更に、 近時の学説はむしろ、 abcを肯定する説の方が多数を占めてきています (篠塚昭次、 高橋弘、 岡孝、 青野博之、 織田晃子、 石外克喜、 池田恒男、 高木多喜男・久保宏之、 北川善太郎、 笠井修、 私見。 但し、 これらの論者がabc全てについて論じているわけではない)。

2 近時の責任肯定説のポイント
近時の肯定説のポイントは以下の3点にあります。
(1) 消費者問題としての欠陥住宅問題の重大性が認識され始めてきたことです。 欠陥住宅問題は、 財産権の侵害であると同時に、 居住権の侵害、 生命・健康・身体の侵害にもいたる極めて重大な問題です。 また、 住宅建設が産業として大きく発展してきた高度成長期以降、 こうした被侵害利益の重大さに加えて、 この問題が、 土地の造成や建物の設計、 建築、 販売、 仲介、 金融などにかかわる事業者 (住宅関連産業) や専門家対そのような専門知識を有しない市民との間で生ずる構造的な消費者問題である点も意識されるようになってきました。 欠陥住宅問題の深刻性は阪神大震災を契機にますます明らかになってきましたし、 現在大きな社会問題となっています。 従って、 今後も肯定説の方が更に有力化する社会的背景があると見ることができます。
(2) 立法者意思の捉え直しです。 従来の通説のポイントは上記abcを否定するポイントを、 民法635条但書が、 契約目的が達成不能なほどの欠陥が建物にあっても解除を認めていないことに求めてきました。 しかし、 1980年代以降、 民法典起草段階での議論の検討から、 起草者たる穂積陳重自身も、 建物の欠陥が重大で住むのが危険な場合には、 いくら費用がかかっても修理すべきと明言していることが明らかにされました。 また、 この規定の根拠として挙げられてきた建物取り壊しによる社会的損失の回避についても、 建替えなければならないほど重大な欠陥がある建物については、 その存続の方がむしろ社会経済的に損失となるとして、 635条但書を限定解釈する考え方が多数になっているわけです。
(3) 比較法的研究の進展です。 明治民法典起草当時に参照された諸外国の法典 (案) のうち、 スイス債務法も建物の瑕疵の場合の契約解除を否定する規定を置いていましたが、 その後学説は解除を肯定する説が通説化しているといいます (岡孝、 高橋弘)。 また我が国の法解釈学に大きな影響を与えてきたドイツ民法典は、 契約解除の制限をしていませんし、 ドイツで広く用いられている建設工事約款では、 解除権制限を規定していますが、 ドイツ債務法改正に関する鑑定意見は解除権制限に反対し (Weyers,Kaichholz,1981,1983)、 債務法改正委員会最終草案でも (1992年)、 解除制限を規定していません。

3 責任論の課題
以上のように、 どんなに重大な欠陥があっても、 建物だからという理由で契約解除を否定したり、 再築請求、 建替費用の損害賠償請求を否定する考え方には、 合理性がないことがますます明白になってきていると言えます。 今後は、 請負人の瑕疵担保責任の法的性質を債務不履行責任や不法行為責任と関連での理論的に掘り下げていくこと、 近時専門家の責任として注目を集めてきている建築家の責任をはじめ、 不動産仲介業者、 欠陥建築への銀行の融資責任など、 解明すべき多くの理論的課題が山積しています。

4 消費者の自己責任について
ところで、 近時、 規制緩和の流れの中で、 消費者の自己責任が強調されるようになってきました。 ところで自己責任の前提には、 正しい自己決定をなし得るための前提条件が整備されていなければなりません。 近時制定、施行された 「住宅品質確保促進法」 も、 住宅の品質に関する契約上の保証責任についての規定を置いていますが、 何がどのように保証されるのかについて、 注文者や買主が正しく判断できるための情報提供が十分に行われる必要があります (説明義務の問題)。 また札幌全国大会では、 家の建築に関する知識が学校教育で全く行われていないことの問題性も指摘されていましたが、 今後はますます、 欠陥被害の事後的回復と同時に、 欠陥住宅を見分け、 買わない、 建築させないための、 教育を含めた社会システムの構築も課題となるでしょう。

5 欠陥住宅ネットの社会的役割
札幌大会の後、 私の京都の研究室に、 わざわざ札幌在住の市民の方から電話がありました。 札幌大会の新聞記事に出ていた私の講演の記事を読んで、 自分が買った住宅がどうも欠陥住宅らしいのだが、 建替や建替費用を請求できるかどうかという相談でした。 電話だけでは、 どのような不都合が建物にあるのか、 それを欠陥と判断できるのか否かについてはもちろんわかりませんし、 また私も建築の専門家ではありませんので、 早速、 札幌大会で知り合いになった札幌弁護士会の粟生弁護士の連絡先をお教えしておきました。
欠陥住宅問題のように、 建築の専門家と法律の専門家の関与が不可欠である問題に、 欠陥住宅ネットのような組織が全国でたちあがることの重要性を実感できる体験でしたが、 今後は筆者が所属する京都ネットでも行っているような不動産業者との研究会も含めて、 更に一層ネットの輪を広げていくことが実効性ある被害の回復や防止を実現するためにも必要となるでしょう。 「本来、 家をたてることは、 夢の実現である」 ことも札幌大会で強調されました。 皆が良い夢を見れるようにしたいものです。
◇       ◇
(なお札幌大会で筆者が行った報告のレジュメは、 欠陥住宅被害全国連絡協議会編 『消費者のための欠陥住宅判例 [第1集] ―安心できる住まいを求めてーー』 455頁以下に収録されていますので、 それをご参照下さい)。

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