幹事長 吉 岡 和 弘
1 行政刷新会議と規制緩和の潮流
内閣府に行政刷新会議が設置(平成21年9月18日閣議決定)され、その下に、規制・制度改革に関する調査を行うため「規制・制度改革に関する分化会」、及び、グリーンイノベーションWG(環境・エネルギー分野)、ライフイノベーションWG(医療・介護分野)、農業WGが設置された。グリーンWGの下には「住宅・土地サブグループ」が設置され、区分所有法上の建替え・改修に係る要件の緩和(関係府省庁・法務省)、借地借家法における正当事由制度の明示(同・法務省)、容積率の緩和(同国交省)、既存不適格建築物の活用のための建築基準法の見直し(同・国交省)、建築確認・審査手続きの簡素化(同・国交省) などの検討項目につき対処方針を明示しようとしている。
2 建築基準法の見直し問題
2010年1月22日、建築確認手続き等の運用改善(法改正せず)がなされ、6月1日から施行されたが、同年3月8日、「建築基準法の見直しに関する検討会」が発足した。9回程度の開催を予定し、夏には意見とりまとめをするとのことである。ここでは、確認審査の迅速化、簡素化、厳罰化、適判制度の対象範囲などが議論されることになっている。しかし、建物の安全が損なわれないか。本日、アピール提案が予定されているので議論されたい。
3 建築士の懲戒処分と瑕疵判断
ファースト住建(株)をめぐる建築士の懲戒処分がなされている。例えば、建築基準法令に定める構造基準に適合しない設計(木造建築物の地震力及び風圧力に対する耐力壁量不足及び配置不良)を行った建築士に対し、平成19年6月19日に業務停止3月の処分を受けたにもかかわらず、再度、懲戒事由に該当する行為を行ったとして免許取消とした。また、別の建築士は、一(はじめ)建設(株)の事案で業務停止12月の処分を受けている。日本オーチス・エレベータ(株)製エレベーターをめぐり、エレベーターの床版の鋼材がSPHC材であるにもかかわらず、確認申請における強度計算書において当該床版の鋼材がSS400材となっていたことを看過し不適切な設計を行った建築士に免許取消の処分をした。パナホームの型式認証の事案で、実際に使用する屋根材(屋根材兼用型太陽電池パネル)が、型式部材等製造者の認証を受けた型式に含まれていないにもかかわらず、確認申請書に当該型式部材等製造者の認証を受けた型式の認証番号を記入するなど、実際に建築する内容と異なった建築計画による不適切な確認申請書を作成した建築士らに対し、業務停止3月ないし1月の処分を行った。
4 更なる理論的進化を目指そう
-
瑕疵=欠陥の判断基準については、ほぼ通説・判例となった。しかし、日本建築学会「建築ハンドブック」、民事法研究会「建築訴訟」(第2部第2章)への反論の必要性あり。例えば、同「建築訴訟」では、・施工誤差→建築工事は工場での生産とは異なり現場における職人の手による施工であり施工誤差は不可避である(270頁)とか、材料の特質、例えばコンクリートは、その材質上、収縮を原因とするひび割れは避けられないものとされ、木材も同様であるが、建築の素人であることが多い注文者からみると、ひび割れがあると構造的な問題があると思い込みがちである(270頁)、などという点は看過しえない記述である。今後、反論を準備していこう。
-
近時の問題は、建築基準関係法令を充足しなくても膏薬ばり的補修で事足りるという判決をいかに乗り越えるかである。この点についても、同「建築訴訟」では、同じ目的を達するために、いくつかの工事方法をとりうる場合には、最も安価な工事費用額の限度で損害を請求できるにとどまる(303頁)、注文者が本件建物に居住し、一定の利益を得てきたことも否定しがたいから、建替えに要する費用全額から、本件建物の居住によって注文者が受けた利益を控除すべきであろう。また、建築建物は、年々古くなり、年数を経るごとに価格は下がるのに、建替費用相当額の損害を認めた場合、注文者は何年も経ってから全く新しい建物を取得し、耐用年数も延びるのであるから、その分の利得を控除すべきであるとの議論もありうる(304頁)、監理業務は、監理契約上、常駐監理ではなく、重点監理の場合が多い。監理責任は、監理業務の範囲内で生じるから、法令上あるいは監理契約上、監理者の監理業務の範囲に属するか否かの検討が必要であり、単なる施工上の瑕疵があるからといって、直ちに監理者に責任が生じるものではない(284頁)、具体的な確認方法は監理契約の内容によって定められるが、一般的には、合理的な方法によって確認すれば足り、その責任の有無も合理的方法による確認がされたか否かという観点から判断される。そして、何か合理的方法であるかは、監理契約で定められた監理の方法、例えば、巡回方式か、書面方式かによっても異なるであろう(284~285頁)などというものである。更なる理論的進化のために議論しよう。
5 研究成果を問う資料集等を発行していこう
前回・東京大会で田中亨二・東京工業大学教授(建築物理研究センター)に「エポキシ樹脂によるコンクリートのひび割れ補修」の問題点をご講演頂く機会に恵まれた。河合事務局長の尽力で講演内容を冊子化させて頂いた。今後も、私たちの議論の成果をまとめ、世に問うていく作業をしよう。