良質な大工の養成について | |
宮大工・一級建築士 大森健司(埼玉) | |
◆ 造り手の教育が急務です 私は「木造伝統技術伝承教室」を平成12年9月より開校して、丸3年がたちました。大工の棟梁を育てたく、また、奈良薬師寺で学んだ技術を伝承すべく、 賛同者に工学博士 太田博太郎氏、工学博士 櫻井敏雄氏、その後、工学博士 伊藤延男氏、工学博士 初田亨氏がご指導くださっております。「木造伝統技術 伝承教室」では、縮尺 1:10、1:5、1:2、1:1の図面を手で書いて学んでいます。 大学の建築学科では木造の建物を教えず、設計事務所や工務店に就職してもお手本となるものが悪く本質を学ぶことができないのが現状です。 大工は設計図・施工図が書けない、読めないのです。設計士は木を組むこと、木の本質がわからないのです。 良質な大工、設計士を育てるには基本となる基礎工事・木工事・屋根工事について述べたいと考えます。 ◆ 基礎工事について 設計者は基礎に対する考え方を変えるべきである。例えば盛土した所に根入れの浅い(住宅金融公庫適合仕様)ベタ基礎を造れば、不同沈下が起こらないと 思っている設計者や施工者が沢山いる。更に、配筋やコンクリート強度などについても無関心である。以上のことを考慮して、施主は自ら現地へ行って自分の目 で確かめることが必要となる。又、地域の人の話も聞いてみることが大切である。例えば敷地の以前の状態や水が出やすい所、地震で土砂崩れがあったか、風が 強い所か、戦争中の防空壕がある所等々。 近年は住宅地が適さないような軟弱な地盤にも住宅を建てるようになったが、木造住宅でも地盤調査業者にボーリングや載荷試験を依頼しなければならない場 合がある。更に「品質保証を付けるからには杭を打ったほうがいい、と業者にいわれ、最近基礎にお金がかかって仕方がない」という意見を聞くが、造成経過を 考慮して、判断しなければ長寿命の住宅を造ることはできない。地盤や基礎について適切な判断を養い、木造住宅だからこのくらいで大丈夫という安易な考え方 を改めなければならない。 布基礎 <住宅金融公庫適合仕様> 1.布基礎の構造は一体の鉄筋コンクリート造とする。 2.地面から布基礎の立上がり高さは400mm以上とする。 3.布基礎の立上がりの厚さは120mm以上、150mmを標準とし、底盤の厚さ150mm以上、幅は450mm以上とする。又、根入れの深さは地面から 240mm以上とし、かつ建設地の凍結深度よりも深いもの、もしくは凍結防止するための有効な措置を講ずるものとする。 このように書かれているのだが、建設地の地盤の条件などは無関係に、立上りの高さ、厚さ、幅はmm以上とあるところが、いつの間にかmm以上が消滅して 数値のみ一人歩きしている。更に根入れの深さも数値までで、凍結深度より深くなど学んでいないのが現状である。 建設地の役所に問い合わせれば、凍結深度の数値を教えてもらえるので参考にして設計すること。 ベタ基礎 <住宅金融公庫適合仕様> 筆者はこの形式のベタ基礎は本来のベタ基礎(根入れの深い)と違っているのでベタ基礎とは呼ばない。 1.ベタ基礎の寸法及び配筋について、建設敷地の地盤状況を勘案の上、構造計算により決定すること。 2.1階床下地面は建物周囲より5cm以上高くする。 このような注意事項があるが、現状はどうであろうか。盛土した土地に造成経過時間も考慮せず、公庫仕様のベタ基礎が構造計算もせずに造られている。 この形式の基礎を考えたのはたぶん、建設敷地から根切した土をたくさん出さないように考えたものとみる。残土を処分するにも費用がかかり、又、埋め土す るにも敷地内に保管場所がなければ、お金を出して買って来なくてはならないからである。公庫仕様より丈夫な形式だという井桁に梁を配した案でも本来のベタ 基礎の姿ではない。 ベタ基礎は大切な建物を永くもたせる本来のベタ基礎の上に建物を建てたい。筆者は「船の上に建物がのっているような考え方ですよ。」と言っている。 設計の注意点 根入れは地下水が出ない限り、深く入れたい。底盤部分(ベース)の厚さは250mm以上とし、配筋は縦・横筋D13を250mm間隔のダブル配筋とし、幅止めD10を1000mm間隔で配する。 根入れが深くなり立上り部分が900mmを超えたら立上り部の幅を180mm以上に変更したい。配筋も主筋はD13以上の梁配筋としたい。 床下部は屋内の設備配管や保守点検もしやすくなる利点があり、更に床下収納も広く取ることができる。このベタ基礎を利用して雨水を貯めて、水洗トイレの洗浄水や庭などの水撒きにも使用できる。 施工上の注意点 ① 根切の余堀を必ず行なうこと。 余堀を怠ると根切側壁の土が割栗石をおいて目潰し砂利を敷きこんで転圧した時に割栗の上に崩れる。又、作業スペースの確保にも必要である。 ② 根切底の確認 施主本人が根切底で飛び跳ねる。水が出ていないか、木の根があるか、木片がはいっていないか、ガラやゴミがないかを確認する。 ③ 捨てコンクリート地業を必ず行なうこと。 建物の位置を決定する通り芯の墨だしには捨てコンクリート地業が必要である。更に、基礎の位置、鉄筋のかぶり厚さ、底盤の厚さが不均等にならないようする。捨てコンクリートは全く役に立たないのではなく、役に立っている。 割栗地業をせずに捨てコンクリート地業を200mm以上の厚さに打って換える方法もある(栗コンという)。 ④ 鉄筋の配筋について 鉄筋の端部にはフックを付ける。底盤部分の横に配する鉄筋の端部は90度に曲げる。立上り部分の縦方向の立上り鉄筋の端部は180度に曲げる。 住宅の施工現場を見ると、全部といってよいほど鉄筋の端部は曲げていない。このような施工は決してしてはいけない。しかし、これが現場の常識になっている。 隅角部の鉄筋の納まりは重ね継手(継手長さ 35d)でおこなう。例えば横筋D13とすれば、13×35=455mmが得られ、この部分の鉄筋の重ね継手長さとする。 公庫仕様注釈で 「隅角部では各横筋を折り曲げた上に直交する他方の横筋に300mm以上重ね合わせる。」 とあるが、D13を使用の場合は不適である。 ⑤ コンクリート打設について 底盤部分と立上り部分を一度にコンクリートを打設しているが、基礎の底盤と立上り部分を別に打設する。底盤部分を打設して養生期間3~4日程度おいて 立上り部のコンクリートを打設する。打設するコンクリートは固練りのコンクリートを使用する。スランプ12~15㎝までがよい。 底盤を打設後、立上り部分の鉄筋にコンクリートが付着していたら、清掃後にコンクリートを打設する。コンクリートが付着したままでは、良質な鉄筋コンクリートの基礎ができない。 コンクリート打設後の養生は必ず行う。 [養生の一例] 全体をシートで覆う。 夏季は水で冷やす。冬季は暖める。 関東地方(筆者は埼玉県)ではコンクリート打設後、養生シートをかけるよう指導するが、養生することすら知らない。新潟県新発田市での設計監理実績 では、「夏でも冬でもコンクリート打設後直ぐに養生シートを全面にかぶせるのが、通例です。」という。コンクリートのことをよく理解している技術者でし た。 木工事・屋根工事について述べます。 ◆木工事について 設計図 2階床伏図や梁伏図は設計者が一番理解しにくく、書けない図面である。 胴差や桁は継手を設けずに長尺材を使用することが望ましい(継手は弱くなり、下手な大工が造ると手間ばかりかかるので)。見積する上で、どのような部材 の断面寸法になるか、長尺の一本物で納めるか、材木を継ぐのか、継手はどこに設けるか、その種類は?など見積内容の材料費と大工手間が得られ、ユーザーに とっても大事な図面である。 大工が仕事していく上で大切な図面で墨付け及び加工するための板図を書くのに必要なものである。 材木検査 製材した木材を製材所で検査する。等級・死に節・あて・ねじれ・割れ・くされ・虫くいの有無を確認(材木検査)する。その後、工務店に搬入して加工する。加工後、加工検査をして合格のみ現場に搬入する。この材木・加工検査ができない。 主要軸組 ① 隅通し柱と隅管柱と土台 隅通し柱と隅管柱は直接基礎上端から建てると丈夫な建物となる。 ② 柱と土台 柱のホゾは長ホゾコミ栓打ちとし、ホゾ長さは土台成より2mm位長くして、基礎上端と接する。木材は繊維方向には強いが、繊維と直交方向には弱いのでめり込む。これを助けるためにホゾを長くする。 ③ 通し柱と胴差、胴差と管柱 胴差は通し柱から通し柱までの一本物とする(12mまで長尺材がとれる)。 胴差には管柱を長ホゾコミ栓打ちとする。 ④ 通し柱と桁、桁と管柱 桁は通し柱から通し柱までの一本物とする。桁には管柱を長ホゾコミ栓打ちとする。 ⑤ 間柱 間柱ほど寸法がいい加減に取り扱われる部材はない。たとえば厚さ27~30mm×105mmを多用しているが、本来は柱の半分以上の厚さ(75mm×105mm)を必要とする。 ⑥ 各部材寸法について 現在は経済コストばかりに力点をおいている(小さい断面や定尺材の使用)。 長尺材や形状の太いものを使用する。 ⑦ 耐力壁と水平構面について (イ) 筋違や火打ちは効かない(有効でない)。 柱芯々910㎜の幅に、土台~胴差、桁までが2700mm~3000mmの高さの箇所に筋違を入れても効かない。また、長さ900㎜の火打ちも効かない。 (ロ)望ましい耐力壁と水平構面 1.耐力壁 柱と柱の間にたて材と横材を格子状に組入れる。その方法は柱に縦胴縁(和室は54mm×65mm、洋室は54mm×120mm)を打ちつけ、間柱 (和室は65mm×75mm、洋室は75mm×120mm)と縦胴縁とを横胴縁(和室は54mm×65mm、洋室は54mm×120mm)でつなぐ。ま た、土台上端、胴差下端と上端、桁下端にも横胴縁を打ちつける。横胴縁の割付は土台下端より455mm間隔に入れて格子状(組込みとする)に作り、構造用 合板厚さ15mmを両面張りとし、ステンレスビス45mmを10mm間隔で打ちつける。縦胴縁や横胴縁は厚さ、幅を一定とする。 洋室では外部、内部も土台下端から張る。和室は床を張ってから耐力壁を建てこむが、洋室は耐力壁を造ってから、床を造る。 2.水平構面 (1) 1階の床組 幅、奥行、高さが18mmのコンクリート製のブロック材を基礎部のコンクリート底盤の上に設置し、その上に束材を建てる。 束材と大引は長ホゾコミ栓打ちとする。大引と土台はアリ落としとして組む。土台には根太掛けを打ちつけて、構造用合板 厚さ15mm(ノンホルム アルデヒドタイプ)を打ちつける。根太(54mm×75mm)は303mm間隔に配置する。大引の上には根太コロビ止メを入れる。その上に洋室は構造用合 板 厚さ15mmを打ちつけ、仕上材として杉材厚さ45mmで仕上げる。また、和室は杉材厚さ 30mmを打ちつけ、タタミ下地とする。 (大引、根太、根太掛けの厚さ、幅を一定とする。) 1階床は主要構造材でないと言って大引と束を納めるのに、大引にホゾ穴を掘らず、束にもホゾを作らずに束の上に大引をのせているだけでカスガイ止めや釘打ちとし、束の振れ止めもしていないのが現状である。これは望ましいことではない。 1階部分だからといって安心しないこと。重い本やピアノなどが入る部屋全体の大引や根太間隔は細かく計画するのも大切なことである。 (2) 2階の床組 2階の床組にも枠組壁工法の剛床の考えを取り入れている。 胴差、梁、小梁の上端は一定にし、根太彫りして根太(60mm×120mm)を303mm間隔に配置し、根太コロビ止メを910mm間隔に入れ る。その上端をそろえて、そのうえで根太の上端、下端に構造用合板 厚さ15mmを両面張りとする。下屋の小屋梁の全面にも胴縁(60mm×120mm) を455mm間隔に入れ、格子状に組み、構造用合板 厚さ15mmを両面張りとする。 (胴差、梁、小梁、根太、胴縁の厚さ、幅を一定とする。) (3) 小屋組、屋根 軒桁、梁、小梁の上端は一定にし、胴縁(60mm×120mm)を455mm間隔に入れ、格子状に組み、構造用合板 厚さ15mmを両面張りとする。一部登り梁の箇所は野垂木下端に構造用合板 厚さ15mmを張る。 (軒桁、梁、小梁、母屋、棟木、胴縁、野垂木の厚さ、幅を一定とする。) ◆屋根工事について 地震の後、壊れた屋根を見ると棟瓦はくずれ、平葺き部分も大きくくずれている。くずれていない部分は屋根の軒先と端部(けらばだけで凹の字の如しである。これは屋根瓦を銅釘又は、銅線で留めていないのが原因である(棟瓦も同様である)。 一般的には瓦桟は横瓦桟(18mm×18mm)のみであるが、縦瓦桟も入れることができる。縦瓦桟を入れることで瓦が屋根に安定して留まる。瓦種類 53Aでは横・縦瓦桟の寸法は横瓦桟が15mm×30mm、縦瓦桟が20mm×40mmで下地ができる。その上に瓦を葺くが、瓦を留める間隔は2枚から3 枚おきとすると瓦のずれがなく、地震が来てもずれる度合いが少ない。 ◆理想を示して提案する 今まで表記した基礎、軸組、床、梁、小屋について、理想に近い部分もあるが、最初から「坪いくら」と施主に話をすすめていくのではなく、まず、「安全な 家はこのようなことでお金がかかる」と説明し、それでは、A案、B案の工法が夫々いくらかかるということをユーザーに説明できるようにする。その時主要部 分を構成する材の大きさは変更できないが、例えば、構造用合板であれば、厚さ15mmを12mm、9mmに変更できる。間柱と横胴縁の組合せであれば、壁 下地を工場製作としてコストを低減することも可能である。このようなことを一つ一つチェックしていけばトータルで安くなっていく。まず、理想があって、そ こから現実にもっていくことが技術の使い方だと思う。 ◆古代建築から学ぶこと 筆者もいきなりこのような考えに到達したわけではない。失敗を繰り返しながら、ユーザーが育ててくれた。奈良薬師寺へ行ったことで古代の基礎(版築)に も触れられ、造り方も学んだ。薬師寺東塔の重量600トンが載っても1250年以上健在であることを考えて基礎を学んできた。又、妻 和江が構造設計者な のも大きな刺激を受けた。 軸組では古建築からたくさんのことを学び、恩師 浅野 清博士より、「建物の設計する上の注意ごととして、つくってから、ああだ、こうだと思う前に設計 図で精査して正寸図まで責任を持つように」と育てられた。又、西岡 常一棟梁からは建築の復原痕跡の見方、調べ方を教わり、育てていただいた。 自分が学ぶという姿勢が大切で、そのような点を大切にする人間をいろいろな指導者は喜んで育ててくれたと思っている。
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(欠陥住宅全国ネット機関紙「ふぉあ・すまいる」第11号〔2004年4月28日発行〕より) |
良質な大工の養成について 大森健司(埼玉・宮大工・建築士)
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