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軟弱地盤と欠陥住宅 軽部大蔵(神戸・神戸大学名誉教授/地盤環境工学)

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軽部大蔵(神戸・神戸大学名誉教授/地盤環境工学)
住宅はいうまでもなく地盤に基礎を置き、 その上に居住施設が載せられた構造物である。 基礎が大きな沈下や移動・傾斜を起こしてしまうような地盤は許容されない。 軟弱地盤という名称は、 このような問題を起こしやすい地盤ということであろう。
本来、 住宅と地盤の係わりは基礎地盤としてだけでなく、 土壌の植生への適否、 水はけや水害、 住み易さや景観に係わる地形など、 住環境に多面的に結びついている。 しかし、 本講演では、 「住宅を建てるのに問題がある軟らかい地盤」に話題を限ることにしたい。

1. 地盤の2つの動き
地盤を中心に据えた工学は「地盤工学」であり、 その力学的基礎は「土質力学」である。 そして、 土質力学の主な対象の1つは、 軟弱地盤である。 地盤は、 下方への沈下と横方向への移動を起こすが、 この2つは土質力学では根っこは同じとしながらも、 現象論的には、 それぞれ次のように別個に扱われる。
○ 沈下=土層の圧縮:土が横に逃げないで鉛直方向に圧縮される現象。 土は押し固められて硬くなり、 安定化する。
○ 横移動=せん断:擁壁のはらみ出しのように、 変形が卓越する。 せん断が進むと地盤が破壊する。
そして、 上の2つの動きが一体化したものが、 「地耐力=地盤支持力」である。 すなわち、 基礎に急速に荷重をかけていくと、 基礎直下の土は鉛直に地盤にめり込んで、 周囲の土を横に押し除ける。 除けられた土は、 地表面に盛り上がるのが楽であるから、 斜上方へ動く。 この動きは基礎周辺の地盤を局所的に大きく変形させるから、 やがて「せん断破壊」が起こり、 その結果、 載荷重を増やさなくても基礎が沈下を続ける状態に陥る。 この時の載荷重と基礎自重の和を基礎の接地面積で割った答えが極限地盤支持力である。
宅地造成された地盤の支持力は、 軟弱地盤であっても1㎡当り2, 3t重はある。 一方、 通常の木造住宅は1㎡当り1t重程度であるから、 敷地の支持力が全般的に不足していることは先ず無い。 しかし、 硬さが著しく不均等な地盤では、 不等 (不同) 沈下を考えなければならない。 また、 支持力は、 圧密と呼ばれる何年にもわたる沈下現象を考慮せずに決定されるから、 支持力が十分であっても長期沈下に対する保障は無い。
つぎに、 傾斜地の一部を切り崩し、 その土を斜面下部に盛って平坦地とした、 いわゆる切盛宅盤においては、 横移動=せん断系の被害に注意しなければならない。 たとえば、 切り取り面がはらみ出してくるとか、 盛土の肩近くに建築すると、 それが引き金となって基礎が不等沈下を始めるなどがしばしば見られる。 これらのせん断系の変位は、 一般的に時間とともに進行する。 特に、 雨水や家庭排水などが地盤に浸透すると、 崩れてしまう危険性さえある。 したがって、 一口に不等沈下といっても、 単なる鉛直方向の不均等な圧縮なのか、 破壊につながるせん断が原因なのかを見きわめる必要がある。

2. 平坦な造成住宅地の沈下被害
本州の北部及び北海道の低平地や谷間には葦の残骸などが分解が進まないままに10m以上も堆積して形成された超軟弱地が多数ある。 このような地盤上に盛土を行って宅地とすることがよく行われるが、 不用意な工事によって深刻な沈下に見舞われることがある。 特に、 広大な面積に盛土を行うと、 その重力が超軟弱土層の全厚に作用するために、 たとえば、 1mの盛土に対して1m以上の沈下を起こすといった信じられない事態に陥ることがある。 しかし、 このような現象は、 力学的には当然のことで、 広大な盛土の場合は、 圧縮し易い土層の厚さに比例的な沈下が発生する。
このような激しい沈下から逃れるために、 超軟弱地盤を貫いて硬い土層まで杭を打ち、 その上に住宅を建てることもよく行われる。 結果は、 住宅を残して周辺地盤はおろか床下の地盤も沈下するので、 人や車のアプローチが不可能となったり、 給排水管が切断されたりする。 また、 住宅地全体としては、 中心区画が特に大きく沈下するために、 排水路が機能しなくなったり、 路面に深い水溜りができたりする。
このような事態を避ける現実的な工法は、 プレロード工法である。 この工法は、 宅地造成の本工事に先立って高い盛土 (プレロード) を長期間行っておき、 本工事に際して必要な高さまで盛土を取除くものである。 高い盛土の荷重によって超軟弱土層が圧縮固化するために、 造成後は殆んど沈下しない。 住宅を杭基礎とする必要もなくなる。 なお、 プレロード期間は、 超軟弱地盤の性質と厚さによって決まるが、 通常は1~数年間とされる。

3. 震災
住宅あるいは住宅地に対する地震の影響は2つの様相で現れる。 第1は、 地震動そのもののために住宅が破損する現象であって、 地盤の問題ではない。 第2は、 地盤が液状化したために引き起こされる住宅の損傷である。 液状化は、 地表近くに、 しかも地下水面に漬った砂質土層に発生する。 このような地盤構成でなければ液状化は起こらない。 液状化を防止するために、 砂質土層に礫などを圧入して締固める工法が行われる。 また、 地下水位を低く保つことも提案されている。
液状化が起こった場合でも、 基礎が鉄筋コンクリート版その他の一体構造であり、 建物の形も重心が基礎の中心近くにある場合は、 被害は小さい。 要するに液状化地盤という海に、 建物が船のようにバランスよく浮いておればよいのである。

4. 地盤調査
住宅地あるいは個々の区画が建築に適しているか。 また、 進行中の不具合の原因は何か、 を調べるのが地盤調査である。 地盤調査の方法は数多くあるが、 小さい区画に適した調査方法は2、 3しかない。 したがって、 大規模な宅地造成の場合は、 造成地全体としての地盤調査を綿密に行っておくべきである。 大規模な造成地で通常行われるのは、 ボーリングをやりながらの標準貫入試験(N値テスト)である。 しかし、 超軟弱地盤では機械が重すぎて測定にならないのが普通である。 このような地盤では、 シンウォールサンプラーを用いて「乱さない試料」を地盤の各深度から取って室内試験するのが適当である。 また、 コーン貫入試験など、 軟らかい地盤に適した現場試験法を適用するのがよい。
区画ごとの調査には、 スエーデン式貫入試験が多用されている。 簡便ではあるが、 担当者が熟練していないと得られる情報が少ない。 また、 ハンドオーガー(手動式の穴掘り器)で土の試料を取り、 その孔を保存して地下水位を確認することも重要である。

5. 既存住宅および宅地の修復
現在居住している住宅に、 不等沈下など地盤にかかわる不具合が生じた場合、 これを修復するのは困難である。 日本の住宅は、 歴史的に恒久性は求められてこなかったためか、 基礎も一体性に欠けている場合が多い。 基礎を部分的に作り変えながら不等沈下を修復するアンダーピニング工法が適していると思われるが、 工費は新築に匹敵するほどに見積もられることも珍しくない。 上部構造を一旦基礎から切り離して吊り上げておき、 基礎を直す工法について聞いたことがあるが、 詳細は知らない。
一方、 擁壁のはらみ出しなど、 地盤の横方向移動については、 この進行をとめる工法はいくつかあり、 有効に用いられている。

《まとめ》
木造住宅が基礎の沈下や移動によって損傷を受けた場合、 基礎修復工費は高額となる。 したがって、 新築に際して、 十分な地盤調査に基づく慎重な施工がなされなければならない。 宅地造成工法は技術的にはほぼ完成の域にあり、 予見不可能な事故は少ない。 欠陥住宅をなくすためには、 経験豊かで良心的な施工者が活躍できる環境を作ることが大切であると考える。

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