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阪神大震災 被災マンションの復興

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佐古 誠司 (兵庫・建築士)

21世紀は、 都市における 「マンションの建て替え更新」 が大きな社会問題になるだろうと言われています。 建物の老朽化が進み、 リフォームするにしても限度があり、 建て替えるにしても住民の大多数が高齢化していて経済力がなく、 荒廃が進んでいく大量のマンションの姿が容易に想像できます。
わが国 「マンション」 が建設され始めて約40年が経ちましたが、 現在、 ほぼ全ての分譲マンションに管理組合ができて、 何とか管理運営が出来る体裁が整ったところです。 その中で今後の維持管理までを考えて、 長期修繕計画等がつくられているケースはまだ少なく、 最低必要な修繕積立金すら充足されていないマンションが大多数を占めています。 まして将来の建て替えに対して何らかの準備がなされているマンションなど皆無であり、 一部識者はこのような状況を危惧するものの、 国、 自治体、 デペロッパーも同様に何らの対策も持ち合わせていないのが実状です。
この度の阪神大震災では、 多くのマンションが被害を受けて将来起こりうるであろう大規模な修繕、 建て替えが現実のものとなりました。
被災直後は、 住民の安全、 ライフラインの復旧が最優先でしたが、 少し時間が経つと補修可能な建物なのか、 あるいは建て替えなければならないのか、 マンションの住民は苦渋の選択を迫られることになります。
震災後5年が過ぎて、 被災マンションの大多数は何らかの問題を抱えながらも復興をしています。 この間、 被災マンションの復興をめぐっては、 多くの問題が取り沙汰され、 困難さのみが強調されていますが、 マンションであるが故の利点も多くあります。 復興に際して両方の観点から報告いたします。

【被災マンションの復興上の問題点】
1、 住民の管理運営意識
日頃より、 マンションの管理運営に無関心であり、 復興に対して建設的でない住民が多い。
2、 建物の規模
小規模なマンションの方が (50世帯くらいまで) 連絡事項や集会の開催においても情報が正確に伝わり、 判断が早くできる。 その点規模の大きいマンションは、 住民間の連絡にも手間どり (住民が各地に分散して避難しているため)、 何事においても数の多さから合意形成が難しく時間を要している。
3、 建物の所有形態
ファミリータイプとワンルームタイプの併設、 あるいは事務所や店舗が併設されているマンションは、 それぞれの利害が一致せず合意の形成が難しい。
4、 被害度
主要構造に致命的損傷を受け、 建物として機能しないものを除き、 被害の程度によって、 補修も可能だが建て替え出来る場合には、 いずれかの方針を決定をめぐり時間がかかっている。
5、 再建資金
多くの住戸には、 ローンの返済が残っている。 このため、 再建の費用として再度ローンを組むことになるが、 二重ローンによる生活の圧迫が考えられる。 また、 好景気時期に多額の抵当権設定した住戸で、 再建する住戸の価値以上の債務がある場合再建ができないことになる。 高齢者も、 年齢、 収入などの条件から再建資金の調達が難しくなっている。
6、 法的制約
マンションの建て替えを選択した場合、 建築基準法や条例の適用方法が建設当時より変わっていて、 現在建っている建物より小さいものしか建たない。
7、 区分所有法
区分所有法61条の 「建物の効用維持・回復にかかる過分の費用」、 62条の 「建て替え議決要件」 で定められている要件制度が不明確である。
また、 区分所有法で示されているのは 「建て替え決議の要件」 までで、 その後の建て替え事業についての法整備がない。
8、 支援体制
震災直後は、 マンションの復興についての的確なアドバイスが出来る専門家が少なく、 自治体や管理会社、 ゼネコン、 デベロッパーの対応もまずく混乱があった。

【被災マンションの復興にさいして評価すべき点】
1、 構造上安全性の高い建物
阪神淡路大震災では、 約6000人の死亡者がでている。 その原因の多くは地震直後の建物の崩壊によるものだといわれている。 これら被害を出した建物は、 木造の一戸建て住宅に集中しており、 被害を受けたマンションでの死亡者の数はきわめて少ないと報告されている。
1981年以後の建築基準法の 「新耐震基準」 に基づいて施工されたマンションにはほとんど致命的な被害がでていない。 このことから、 バランスの良い構造計画としっかりとした施工がなされていれば、 マンションは人命に対してはきわめて安全性の高い住まいであるといえる。
2、 復興に向けて積極的に活動した管理組合
一般的に、 マンションの住民は、 年齢層や職種の違う多種多様な人の集団であり、 管理運営に対しての意識が乏しい。 特に規模の大きいマンションほど管理会社任せになっている傾向が強くなっている。 一方、 日頃より管理運営が自主的に行われていたマンションや、 震災後、 住民がそれぞれの職業 (法律家、 建築士、 税理士等) を生かし協力して復興に当たったマンションは、 確実に早く復興をしている。
3、 よりよいコミュニティの創出、 地域との関わり
復興の過程がうまくいけば、 住民間によりよいコミュニティが生まれる。 建て替えにコーポラティブ住宅方式を取り入れたマンションなどが、 建物の完成後は自分のマンションの管理運営のみならず、 その地域の自治やまちづくりにも目を向ける住民が増えている。
どちらかといえば、 マンションの住民は、 分譲された建物を購入し、 住んでいるだけで、 地域との交流が少ないと言われてきた。 しかし、 困難な復興作業を通じて、 地域とのつながりの大切さを学んでいるケースが多い。
復興のコンサルタントを行うものは、 事業の収支のみにとらわれず、 このようなことに留意してアドバイスを行うべきである。

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