弁護士 武井共夫(神奈川)
姉歯元建築士の耐震偽装被害にあったヒューザー販売の川崎市内のマンションであるグランドステージ江川管理組合の顧問弁護士として、被害救済の現場から発言する。
1 グランドステージ江川の概要と被害の特徴
鉄筋コンクリート(RC)7階建、42戸、耐震強度は、0 . 57で、一部は1を超えていること、建築確認は、99年2月4日に川崎市でされている(民間確認機関ではない)こと、99年竣工・引渡で2000年4月1日施行の住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)適用前の物件であり、瑕疵担保責任の10年の規定が使えないこと、施工は、松村組(民事再生会社)で、木村建設に丸投げしていること、耐震偽装以外に駐車場専用使用権の問題があることなどが被害の特徴である。
2 耐震強度の問題
グランドステージ江川は、外見上は一体ながら、南側のA棟(28戸)と北側のB棟(14戸)が実質的に別々の構造で、A棟の耐震強度だけが基準以下とされた。姉歯元建築士による構造計算書の改ざんは両棟で行われていたが、B棟は. 0を上回り、強度基準を満たし、A棟は最弱部分が基準の57%の強度しかなかった。
市は耐震補強工事を行う方針で、国と自治体が改修工事費の一部を助成する「住宅・建築物耐震改修等事業」の適用などを検討している。
だが、実際に改修が必要なのはA棟だけで、B棟の住民にとっては、すぐに必要ではない工事を行うことにもなる。市では、「マンションの管理組合で改修方針を決定してもらうしかない」と調整を事実上、住民任せにし、住民は、A棟とB棟は、一体であるとして行動している。
同マンションは1999年2月に、市が建築確認を行ったことから、住民は市の責任は重いとして、市が主体となって支援を行うよう要請している。
実は、テレビ朝日報道ステーションが大学研究室に依頼して行った検査では、「許容応力度等計算」で80%を上回る結果が出ている。
新宿区のマンションで、「許容応力度等計算」で0 . 85だった最低強度が「限界体力計算」で再計算したら、. 2となり改修不要とされた例がある。
現在川崎市が再検査に着手しているが、住民にも少しでも少ない補修費用の負担をとるか、確実な安全性をとるかという相克する気持ちや資産価値はどうなるのかという不安がある。
3 補強についての今後の方向
市による耐震強度検査、市の協力による補強方法のプランニングを経て、費用がいくらかかるかを積算し、住民による補強方法の決定をすることになろう。
費用の公的助成は当初5 . 2%のみと思われたが、5月25日に3分の1ないし2分の1程度まで支援を拡大する方針が出され、多少の光明が見えてきた。
4 その他の諸問題
木村建設・ヒューザー・小嶋社長個人への各破産債権届出を行い、ヒューザー管財人からは、7月に、補修費用・諸経費・慰謝料等の債権を認め、20%程度の配当を行う旨の方針が示されており、この点でも少々希望が見えている。木村建設は、直接の契約関係にないため、施工業者として姉歯の耐震偽装設計に気づくべきだったなどの責任の主張を管財人に対して予定している。
また、ヒューザーに1台月3000円で、42台分の駐車場専用使用権を設定し、ヒューザーは、住民に1台1万5000円で賃貸していたが、管財人に返還を請求し、これも認められる方向なので、差額を補強費用に充てる予定である。