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静岡大会パネルディスカッション 第2部 【3】耐震偽装問題 私はこう考える

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千代田区まちづくり推進部建築指導課安全対策主査 加藤哲夫(東京)

1.原則全ての工程で中間検査実施を
昨年月7日、耐震偽装問題が公になって半年が経過しました。この間、建築関係各団体から建築確認制度の信頼性回復のための改革ついて様々な提言が出されています。いずれも1998年に改正された建築基準法の骨子である中間検査と建築確認の民間開放の見直しについて触れていません。各団体の提言をここで再録をすることはしませんが、30年前に千代田区建築課で建築確認した鉄骨造の全てについて中間検査を実行して鉄骨造の93%の不良施工を明らかにした経験から、確信を持って言えることは、特定行政庁の指定する特定工程のみの中間検査だけでなく、原則全ての工程について中間検査を実施することが信頼性の回復の第一歩であると考えます。
「そんなことは、現実的ではない」と反論を受けることは百も承知であえて強調したいと思います。
私は、半生を建築行政に携わってきました。20代の中ごろ川崎重工業野田工場の当時工作課長であった故亀井敏郎氏(日本を代表する溶接技術の権威。後に社長、会長を歴任)と8階建てビルの建築現場を実査する機会がありました。その現場は日本の代表的なゼネコンと設計事務所が関係した現場でした。ところが亀井氏は、柱とはりの溶接部を見るなり「この溶接施工ではこのビルは地震で倒壊してしまいますよ」と断言されました。私自身それまで建築の溶接技術の知識は殆どありませんでしたから、何を言っているのかすぐには理解できませんでした。
亀井氏の指摘は、柱とはりの接合部を完全溶け込み溶接すべきところをすみ肉溶接で行っていると指摘したのです。これでは構造計算上耐力がおよそ30%しかないことになってしまいます。今問題になっているグランドステージ○○と同じではありませんか。
このことをきっかけとして、私たち建築課の職員は構造の勉強とりわけ鉄骨構造について特に熱心に勉強するようになりました。そして30年前の調査研究につながっていったのです。
当時建築構造設計者は溶接技術について殆ど知識はありませんでした。私たちは、区役所主催の建築技術者講習会を毎年実施することにしました。先ほどの亀井敏郎氏は2回ほど講師をしていただきました。この講習会は現在も継続しています。
このような経験から各工程ごとに中間検査を行うことの重要性を認識し、昭和40年代から千代田区の建築指導課は各工程ごとの中間検査を実施するようになりました。
以来、千代田区の建築確認、特に構造審査や現場検査は厳しいという世間の評判が定着して、中には千代田区内の鉄骨造の工事は受注しないゼネコンが出現しました。更には千代田区内の工事は他より鉄骨加工費の単価が1~2割程高いと言われるようになりました。
このような伝統が、現在も脈々と生きており、今度の耐震偽装物件が千代田区内いでは出現しなかったのではないか思われます。
「各工程ごとの中間検査を全ての行政で実行できるのか?」と問われればNO!と言わざるを得ません。現在のように小さな政府の実現のために建築行政の職員を大幅に削減されている現状の中、全ての工程で中間検査を実行することは不可能です。
しかし、国民が安全な住宅に住む権利さえを保障することが出来ない政府を国民が望むでしょうか。今回の事件は、住の安全に関わる仕組みを国が無原則に市場原理ゆだねたことにより起きた事件といえます。安全を確認するにはそれなりのコストが必要です。
在日米軍の再編に3兆円を負担すること考えれば安いものです。

2.消防法の現場査察に学ぶ
40名の犠牲者を生んだ新宿区歌舞伎町の雑居ビル火災契機として改正された消防法の事前通告なしの現場査察は大きな成果を生んでいます。
この制度を建築行政の中間検査制度の中に導入し、民間指定確認機関で確認された建築物についても特定行政庁の意思で中間検査が実施できる仕組みを確立必要があります。 
耐震偽装事件は、民間確認機関による中間検査が十分に機能していないことを明らかにしました。したがって、この際、確認建築工事の工程連絡を常に行政庁にインターネット等で事前通報することを法律や条令などで義務付け、これを受けた行政庁が、無作為に現場を抽出し中間検査(査察)を実行することにより常に工事現場に緊張感を与えることが出来ます。現場では、何時どの工程で行政庁の中間検査が実施されるか予測できないわけですから常に工事監理業務が適正に行なれることが期待できます。この検査で不具合が発生すれば建築基準法に基づき次工程に進むことが出来ないわけですから慎重に監理せざるを得ません。こうすることにより現状のマンパワーでランダムに中間検査を実施することが可能となります。
「でも構造計算書の偽造は見抜けなかったのではないか?」と言われるかもしれません。
確かに偽装物件見逃しは民間確認機関だけではありませんでした。行政庁の確認の中にも多数ありました。これは建築確認が民間確認機関に急激に流れ、行政内部で建築確認行政事務の無用論まで言われるようになり後継者の育成を怠ったり建築行政そのものを軽視する傾向が強くなった結果ではないでしょうか。

3.ロスアンゼルス市の建築安全局長のことば
5月初旬トム亀井さんの特別な計らいでロス市の建築安全局訪問する機会を得ました。この報告は先ほど斉藤弁護士から報告のあったとおりですから重複は避けますが、私たちの質問に真摯に答えてくれた建築安全局長の言葉が全てを物語っています。
「私たち建築安全局の職員は、市民の安全と財産を守るためプランチェックや現場のインスペクションの全てを民間に任せるようなことは全くありえないことだ」

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