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鹿児島における欠陥住宅事例報告 野平康博 (鹿児島・弁護士)

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鹿児島における欠陥住宅事例報告
弁護士 野平 康博(鹿児島)

1 初めに
この事例は、 前回大会の鹿児島大会で九州ネット南九州支部設立ができたが、 この大会で鹿児島からの事例報告として報告したものです。
私が独立して間がない平成12年6月に実施された欠陥住宅110番で相談を受けて、 地場の建設会社との交渉をすることを前提に訴訟の依頼を受けたものです。 しかし、 この交渉手続は全く無駄でした。 建設会社の代表者は、 会う約束をしていたのに、 何の連絡もなく交渉場所に来ず、 結局、 交渉の分だけ手続が長くなってしまったのです。 反省点です。
訴え提起は、 平成12年12月1日。 調査報告書などは一切なく、 ただスウェーデン式サウンディング試験の報告書のみをもとに訴状を作成して、 建設会社とその代表者だけを訴えました。 何軒も工事している業者で資力の点は大丈夫ということでした。
第1回口頭弁論 (平成13年1月17日) から同12回 (同14年3月6日) までかかり、 この間、 検証も行い、 最終的には、 和解で終了しました。

2 原告が土地、 建物を入手した経緯など
土地は、 第三者から、 被告代表者の紹介で、 平成7年8月29日に、 金442万円で購入したものです。 被告が、 整地し、 境界にはブロック塀を施工しました。 原告が土地を購入したときは、 既に土地の境界にはブロックが積んであり、 きれいに整地してありました。 原告は、 新築住宅の設計施工につき、 被告代表者個人との間で、 平成8年2月8日に、 請負代金を1096万円とする建築工事請負契約を締結しました (なお、 契約書は存在せず、 見積書のみ)。 なお、 設計図書などは一切原告に交付されていませんでした。 被告代表者は、 同8年3月22日に、 工事を完了して建物を原告に引き渡し、 これと引き換えに原告から工事残代金全額の支払いを受けていました。 なお、 本件建物は、 木造軸組平屋建住宅です。
被告会社は、 地場の建設業者であり、 従業員が8名程度の小さな会社でした。 被告代表者には住宅がありましたが、 住宅ローンが残っていました。
被告代表者は、 本件建物を築造後の平成8年7月1日に被告会社を設立していました。 その際現物出資し商号を続用して個人営業を全て被告会社に譲渡している点を捉え、 被告会社と被告代表者を提訴しました。 土地について、 不動産業者らに対する責任追求も考えたのですが、 手続が複雑になるということで、 訴えを見送りました。
建物の現象についてですが、 原告は、 平成12年5月26日に、 北東側にある寝室の北側サッシの鍵が閉まらなくなり、 少し寝室の床が下がっていることに気づきました。 その時に初めて、 原告は友人の建築士に依頼し、 本件建物を調べてもらったところ、 基礎が約4センチ沈下していることが判明しました。 その後も沈下が進み、 証人尋問がなされた平成13年11月の時点では、 8ないし9センチ沈下していました。 このため、 ピシッーという音が響き、 原告の子二人は、 頭痛や吐き気を訴えることが多くなっていました。
その後の調査の結果、 本件建物の地盤は、 40年ほど前は、 もとはシラスの採掘場があったところであり、 近辺の人々が4、 5年かけて穴を掘ったため、 15メートルほどの空洞があったところであることが判明しました。 その後、 その空洞を埋め戻したものの、 その際に使用した土砂には、 木くず、 空き瓶、 空き缶、 空き容器及びビニールなどが混入していたのです。 原告はその事実を全く知らずに、 土地を購入したのです。
被告代表者は下請業者に本件土地の造成工事を請け負わせ、 整地した上で、 地盤調査を全くせずに、 本件建築工事を行ったのでした。
ところで、 被告代表者は、 整地の際、 本件土地の東側に位置する隣地居宅との境界にブロックを積んだのですが、 このとき、 境界付近を約3メートル掘り下げました。 そのとき、 被告代表者は、 いわゆるがらが出たり、 掘るときに本件土地が柔らかかったことから、 本件土地の地盤が軟弱であることを当然に予知できたのですが、 調査を怠ったため、 地盤が空洞となっているところに本件建物を築造してしまったのです。

以上のようなことから、 次のような法律構成で訴状を作成しました。
被告らの責任原因としては、 ア 不法行為責任を主要な争点としました。 被告代表者としては、 右建築請負工事に当たって、 本件土地の地盤の強度を調査すべき注意義務があり、 強度が不十分な場合には、 これに応じた措置をとるべき注意義務があるのに、 これを怠ったものであるから、 賠償すべき義務がある。 被告会社は、 被告代表者の営業譲渡を受けて、 同種の営業を継続しているのであるから、 被告会社が成立する以前の被告個人の債務についても、 責任を負担すべきである。 という構成にしました。 ただ、 瑕疵担保責任や債務不履行責任も主張しておきました。
損害については、 ①本件建物補修工事費相当損害金として1000万円を請求しました。 右地盤及び基礎の構造耐力を回復させるためには、 既存基礎を撤去して本件基礎をやり変えるほか方法はないと主張し、 具体的には、 本件建物を一旦基礎から切り離してジャッキアップし、 基礎を再施工してから建物を降ろして新基礎と緊結させる。 このよなう基礎改修工事には専門業者に依頼するほかない。 その費用は、 金807万9750円である。 と主張しました。 それだけでなく、 本件建物が新築注文住宅であることから、 美匠上もある程度新築性を回復すべき補修でなければならない。 その費用にはおおよそ200万円程度必要である。 その他に、 ②本件欠陥の調査鑑定費用 金20万円、 ③補修期間中の賃借建物賃料相当損害金100万円、 ③引越費用相当損害金 金40万円、 ⑤慰謝料 金100万円 ⑥①ないし⑤損害合計 金1260万円、 ⑦弁護士費用金80万円、 ⑧原告の損害合計 1340万円を請求しました。

裁判の主要な争点は、 次の2点でした。
(1) まず、 地盤の調査義務があったかと言う点です。 平成7年度版の公庫仕様書には、 地盤調査の方法について明記されていないので、 スウェーデン式サウンディング試験を行うなど、 地盤調査義務は課されていないというのが、 被告の反論でした。 とくに、 本件建物は平屋なので、 その必要性はないと被告らの強い反論があり、 裁判所もその反論に引きずられてしまいました。
(2) 補修方法と損害額については、 アンダーピニング工法以外でも十分に安全に補修できるとの被告の反論あり、 その場合、 建て替えより安くできると強く抵抗してきました。 但し、 被告等はその証拠は最後まで出ませんでした。
以上の点については、 審理の過程で、 ①写真で基礎が割れていること、 水平器での測量で家が沈下していることなどを書証として提出し、 ②裁判官に現場をみてもらつた方がよいということで、 検証申立を行い、 裁判官の面前で、 沈下が進んでいる地盤をスコップで掘ってみせました。 裁判官の前で3箇所を約1. 5メートル掘ったところ、 ブロック塀にくっついたところも含めて、 ガラ (瓶や缶、 ビニール類など) が大量に出てきました。 裁判所がこの模様をビデオ撮影しました。 ③隣接地所有者2名の証人尋問も行いました。 業者が穴があった付を掘削したとき、 ガラが大量に出たことを立証するため、 ブロック積みを見ていた隣接者の証人尋問を行ったところ、 業者が軽トラックでガラを運び出したり、 以前建っていた建物がそのまま潰されて地盤の下にあることなどの証言が得られました。 ところが、 ④整地を行った被告会社の担当者2名の尋問を行ったところ、 ガラを見たことを全面否認する証言をしました。 ⑤地盤改良業者の尋問も行って、 スウェーデン式サウンディング試験などで事前に地盤調査していれば、 地盤の強度が不十分であったことが分かったこと、 アンダーピニング工法と補修費用などについて説明してもらいました。 さらに、 ⑥原告の友人である建築士の尋問も行い、 沈下状況や地盤調査義務違反などについて説明をしてもらいました。 特にガラなどが出ているので、 慎重な調査が必要であることを証言してもらいました。
このような審理を経て、 裁判所から被告等に対し強い和解の勧めがありました。

結局、 本件は和解で終了しました。 原告の住宅ローン (1460万円) を被告らに支払ってもらい、 土地・建物を被告等に譲渡するという和解内容でした。 原告本人は、 判決による解決を望んでいたのですが、 原告の奥さんが早く家を出たいと早期解決を希望したことや、 裁判官も和解を強く勧めたこともあって、 上記の内容で和解が成立しました。 和解金額の点では、 もう少し被告等に譲歩させるべきだったと反省しています。
原告が、 私との終了手続の際に、 必ずまた家を作り、 そのときは新築祝いに私を招待すると約束してくれたことが、 未熟な私にとってのせめてもの救いとなった事件でした。          以 上

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