区分所有建物の瑕疵の法的責任について法制度の見直しを求めるアピール
1 区分所有建物における瑕疵担保責任追及における原告適格の問題
2002年(平成14年)の区分所有法改正により、マンションの管理者に「共用部分等について生じた損害賠償金」に関する任意的訴訟担当としての訴訟追行権(当事者適格)が認められた(同法26条4項)。ところが、東京地裁平成28年7月29日判決は、区分所有法26条4項は『区分所有者全員のために』と解釈すべきであり,各区分所有者に個別的に発生し帰属する請求権に係る訴えについては,区分所有者全員に当該請求権がそれぞれ帰属し,管理者が区分所有者全員を代理できる場合に限って,規約又は集会の決議により,管理者が区分所有者全員(規約の設定又は集会の決議における反対者を含む。)の利益のために訴訟追行をすることを認めたものという解釈に立って、区分所有権の転得者は売主から債権譲渡を受けない限り瑕疵担保責任にかかる損害賠償請求権を有していないから、管理者は、これを代理行使できず、区分所有者全員を代理できない以上、訴訟追行権はなく、当事者適格を欠く、として訴えを却下した。
2 共有物件における瑕疵担保責任における問題
(1) 瑕疵担保請求権が分割帰属するという考え方の問題性
しかし、そもそも、マンションは、区分所有という物権法理に基づいて集団的・統一的に管理されるべきであり、金銭債権の可分性という債権法理に基づく分割帰属という発想とは根本的に相容れないものである。実際、瑕疵担保責任ないし契約不適合担保責任(以下、「瑕疵担保責任」という。)に基づく瑕疵修補であれば、保存行為(民法253条但書)として共有者の一部の者でも全部の修補を請求できるのに、修補に代わる損害賠償請求(以下、この請求権を「瑕疵担保請求権」という。)の場合、金銭請求権が当然に分割帰属すると解すると、共有者全員で請求しなければ損害の回復はできないことになる。
(2) 瑕疵担保責任追及のために債権譲渡を要するという考え方の問題性
瑕疵担保請求権は当初の買主に帰属し、転得者には当然には移転しないとすると、転得者は、別途、債権譲渡を受けなければ建物供給業者に責任追及できないこととなるが、分譲マンションのように共有者多数の場合、転得者全員が当初の買主に遡って債権譲渡手続を得るのは容易ではないから、補修費用全額についての損害賠償請求が極めて困難になる。
(3) 損害の補填を受けた場合に権利を喪失するという考え方の問題性
大阪高判平成31年4月12日は、請負契約の注文主が「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵」のない建物として転売した場合には、瑕疵担保責任に基づく損害を填補されたものとして、もはや損害賠償を請求することはできなくなる、と判示したが、瑕疵なきことを前提にした売主が損害の填補により瑕疵担保請求権を失うのであれば、その反面、買主はこれについて黙示の債権譲渡を受けたものと看做す必要がある。
3 この問題がもたらす悪影響
上記のような問題状況から、区分所有建物の瑕疵修補の実現に著しい困難を伴うような解釈を前提にすると、構造耐力や防耐火性能の欠陥など建物の安全性にかかわる瑕疵の除去も困難となり、危険な欠陥マンションが放置されることになりかねないが、これは、社会的な存在である建物には「建物としての基本的な安全性」が求められるという判例法理(最判平成19年7月6日、最判平成23年7月21日)に真っ向から反する。
4 結 語
そもそも、建物を転売した場合に、別途に債権譲渡をしなければ瑕疵担保請求権が移転しないとの解釈は不都合が多く、建物所有権の移転に伴って同請求権も当然に移転すると解すべきである。
よって、以上のような区分所有建物における管理者による瑕疵担保責任追及の訴訟追行をめぐる困難な問題を解消するため、区分所有法その他の法改正による立法的解決を求める。
2021年10月16日
欠陥住宅被害全国連絡協議会(欠陥住宅全国ネット)
第50回大阪大会参加者一同